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10月20日 シナプス小胞の動態を詳細に観察する(10月16日 Science 掲載論文)

2025年10月20日
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電子顕微鏡 (EM) というと、組織が処理された瞬間のスナップショットに限定され、どうしても時間経過を調べるのは苦手な印象があった。しかし、クライオ電顕が進むのと並行して、サンプルを超低温の液体エタンなどに突っ込むタイミングを変えて、時間的な解析をEMで観察する方法が開発されてきた。

今日紹介する中国科学技術大学からの論文は、神経刺激を受けたシナプスでのシナプス小胞の動態をmsスケールで追跡した研究で、10月16日号の Science に掲載された。タイトルは「“Kiss-shrink-run” unifies mechanisms for synaptic vesicle exocytosis and hyperfast recycling(”キス、縮小、移動“はシナプス小胞の開口放出の極めて早いリサイクリングを統合するメカニズム)」だ。

この論文を読むまでシナプスでの伝達は、シナプス小胞がシナプス膜と融合し、内部の神経伝達因子を吐き出した後、小胞はシナプス膜に同化してしまうと思っていた。即ち、一旦使うと小胞はもう再利用されないと思っていた。

これも間違いではないのだが、もう一つの考え方がタイトルにある ”Kiss-shrink-run” という過程で、シナプス膜と小さな融合を形成した後、ぐっと縮んで伝達因子を吐き出し、あとはシナプス膜から内部に遊離してシナプスを離れ、おそらく再利用されるという考え方だ。この考え方だと、シナプス膜が小胞膜に置き換わってしまってシナプス小胞の結合スペースが無くなるという問題は解決できる。ただ、大体0.1秒程度で起こる現象を経時的に見るのは難しいため、研究が進んでいなかった。

この研究では海馬の興奮神経を取り出して、自然の興奮を全て抑えたあと、光遺伝学的に刺激を加えたときにシナプスで起こる現象を経時的に追跡できる実験システムを構築している。即ちグリッドで培養した神経シナプスに光刺激の後、4,8,30,70msのあとサンプルを液体エタンに漬けるシステムを構築し、100ms程度で起こるシナプス活動を時間を追って観察した。

時間経過を追う前に、シナプスでの小胞を詳細に分類し、膜と接した大きな小胞や融合した小さな小胞など、経過をうかがわせる形態が、シナプス膜の近くのアクティブゾーンに濃縮することを観察し、この分類に基づいて時間経過で起こる現象を解析している。

結果は kiss-shirink-run と一致しており、4msでは、圧倒的に大きな小胞が膜と接して融合を始める像が見られるが、その後穴が空いた大きな小胞、その後穴が空いた小さな小胞、そして70msになると孔が閉じた小さな小胞と、アクティブゾーンに存在する小胞の形態が変化する。即ち、kiss-shrinkの像が見られる。

そのあと、時間がたつとアクティブゾーン外に小さな小胞が見られるようになるので、おそらく小胞はシナプス膜から離れる方向に動くと考えられる。同時に100msを超えるとシナプスでのエンドサイトーシスが起こることから、これによりシナプス膜に残るシナプス小胞の膜を除去しているのではと推論している。これにより、機能的なシナプス膜が保たれる。

以上が結果で、ここまでの時間経過を高解像度で見ることができるのかと驚くとともに、シナプス活動についての考えを改めることができた。見る技術の進歩は休むことがない。

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