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6月2日 ゾウと糞虫(5月28日号 Science 掲載論文)

2026年6月2日
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大型哺乳類が常に絶滅の危機に瀕していることは疑う人はいない。ただ、一つの腫が絶滅することが、哺乳動物から昆虫、そして植物まで大きな影響がある。これを丹念に調べることは時間と人手と金がかかる大変な仕事だ。おそらく、トランプの科学研究費カットで最も大きな影響を受けているのではと推察する。

今日紹介するプリンストン大学からの論文は、主にケニアを中心に、特にゾウの減少が動物の糞に依存して棲息している甲虫を絶滅に追いやるかについて調べた研究で、5月28日号 Science に掲載された。タイトルは「Importance of elephants for dung beetle biodiversity and ecosystem functions(糞虫の生物多様性と環境での機能にゾウは重要な位置を占める)」だ。

糞虫の中でも有名なのは、ファーブルによって記述されたフンコロガシ (tunneler) だろう。しかし、糞虫には糞の中に卵を産んで幼虫を育てる dweller や、糞をそのまま埋めて処理する roller 等様々な種類が存在する。この研究ではこれらの糞虫がどの動物の糞の中に存在するのかを、ケニアのフィールドで詳しく調査し、最も多くの糞虫がゾウの糞をベースに棲息していることがわかる。おもしろいのは、このフィールドで次に糞虫の多いのがシマウマだが、その次が人間で、どのように人間の糞がこのフィールドで生産され、糞虫を支えているのか興味がわく。

次に、ではゾウの糞に棲息する糞虫は他の糞では棲息できないのかを調べると、かなりの腫が他の糞でもなんとか間に合わせられる。とは言え、これらの腫は基本的にゾウの糞に惹かれる。これらの生態的結果を基に、理論的シミュレーションを行い、個々の哺乳動物腫の減少と、糞虫の減少を計算すると、糞虫の生息数に最も影響するのがゾウの減少である事が確認される。

このような生態観察に基づくシミュレーション研究は数多くあるが、この研究の特徴は、この領域にそれぞれ1万平方メートルの完全に哺乳動物を除外したフィールド、ゾウを除外したフィールド、全く動物を除外しないフィールドを作って、15年後の糞虫の生息数や種類を調べるという大変な実験を行っている。結果はシミュレーション通りで、ゾウが除外されると糞虫の生息数は大きく減少する。中でも、糞の中に卵を産み付ける Dweller の影響が大きい。また、完全に動物をブロックした場合とゾウだけブロックした場合も、そう違いがないので、ゾウの糞が如何に重要かがわかる。しかし、これを調べるため15年も待ち続けたのは頭が下がる。

しかしこのフィールドのおかげで、ゾウの糞の個々の種レベルの影響がわかる。ゾウがいる場所で当然ゾウに親和性の高い糞虫が増えているが、これがゾウの侵入を防ぐと急減する。そして、この影響をそれぞれの種でプロットできる。

最後に、これらの種が糞の処理というエコシステムにも重要な影響があることを、どの程度の糞が地上から処理されたかを実際に調べて検証している。結果は予想通りで、このような糞虫のおかげで処理が進んでいるのだが、ゾウを減らすと糞も減ると思いきや、逆にゾウを減らすと全体の糞の処理が大きく低下したことも示している。

以上が結果で、生態、シミュレーション、そして実際の大規模実験を組み合わせて大型哺乳動物と糞虫の関係、及び絶滅危機に関する重要なデータを生み出している。例えば、フンコロガシなどは糞を処理することで、Dweller の競争相手になるし、元々他の動物の糞でもなんとか間に合わせられる。なのに、このような結果が出たことは重要で、さらに生態を突き詰めたおもしろい研究が可能になるだろう。

カテゴリ:論文ウォッチ

6月1日 脳の老廃物排出機構の再検討(5月29日 Cell オンライン掲載論文)

2026年6月1日
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脳内に発生した老廃物をドレーンする仕組みが存在することが示されたのはずいぶん前の話だ。その後、様々な実験を経て Glymphatics の名前で体系化されるようになった。そして、この経路を通してアミロイドなど神経変性に関わるタンパク質も除去されていると考えられている。そのため、この経路をより活性化することで、アミロイドなどの除去を促進し、認知症の進行を遅らせる様々な取り組みが始まっている。

この大きな流れに待ったをかけたのが今日紹介する米国グラッドストーン研究所からの論文で、脳細胞から発生する内因性のタンパク質は、脳室内に注射したトレーサーとは全く異なる経路を通って排出されることを示した重要な研究で、5月29日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Physiological brain clearance architecture revealed by neuronal protein tracing(脳の生理学的な排出構築が神経細胞由来タンパク質追跡により明らかになった)」だ。

これまでほとんどの脳内排出機構の研究はトレーサーを脳に注射して排出を追いかけるのが普通で、この場合このブログでも紹介したが、最終的に頸部リンパ管へとドレーンされることが示された。この研究では、では脳細胞が細胞外へ排出するタンパク質は同じルートで通るのかと問いかけた。

これを調べるため、脳細胞で安定な蛍光タンパク質 ZsGreen を発現させて、それが排出される過程を追いかけた。同時に脳内に注射した蛍光タンパク質も追跡し、両者が全く異なるルートをたどることを発見する。最も著明なのは、脳に注射したタンパク質はほとんどリンパ管からリンパ節へと流れていくが、内因性のタンパク質は頸部リンパ節でほとんど検出できない。

さらに、ZsGreen は排出過程でグリアやマクロファージにとどまらず、硬膜や頭蓋の様々な細胞に取り込まれることで、取り込んだ細胞を取り込んでいない細胞と比べると、例えばB細胞では ZsGreen を取り込んだ細胞は抗原プロセッシングに関わるMHCを含む様々な遺伝子発現が高まり、加えてPD-L1のように免疫を抑える分子を発現していることから、脳から流れてくるタンパク質を常にサーベイして、免疫反応が起こらないように調節している可能性を示している。

さらに、脳のそれぞれの領域は別々のコンパートメントに分かれて、内因性タンパク質放出の最も近いルートが形成されていることも、異なる領域で ZsGreen を発現させて明らかにしている。即ち、内因性タンパク質は、近くの脳を囲む硬膜から頭蓋へと運ばれ、最終的に鼻に放出される。この間に多くの細胞に取り込まれ、B細胞を中心に脳内の免疫調節機構に関わることも明らかになった。

最後に、炎症やアミロイドβの蓄積によってこのルートがどう変化するかも調べている。炎症が発生すると、ZsGreen は脳血液関門を通って血液まで運ばれることが明らかになった。一方、アミロイドβが蓄積するマウスを調べると、内因性タンパク質の輸送が極端に低下して脳内に蓄積することが明らかになった。アミロイドβも内因性のタンパク質なので、これが輸送ルートを占拠して他のタンパク質の輸送を阻害していることになる。

結果は以上で、Glymphatics が盛り上がってきたときに、このような根本的再検討が行われ、全く異なる領域を示した素晴らしい研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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