過去記事一覧
AASJホームページ > 2026年 > 8月

8月2日 アルギニンがキラー活性に必要な意外なメカニズム(7月30日 Cell オンライン掲載論文)

2026年8月2日
SNSシェア

アミノ酸代謝はタンパク質合成だけでなく、代謝サイクルのオイルとしても重要で、結果多様な生体機能に関わっている。今日紹介するロックフェラー大学の論文が焦点を当てているアルギニンもT細胞の活性化に重要とされているが、この代謝経路を介する作用と考えられてきた。

ところが今日紹介する論文は、アルギニンは翻訳を介してクラスI – MHC (MHC-I) の発現を調節しており、不足するとガンやウイルスに対するキラー反応を低下させる意外なメカニズムがあることを示した研究で、研究全体のレベルよりは、その意外性で7月30日 Cell に掲載された。タイトルは「Dietary arginine drives codon-dependent MHC class I translation and improves immunity in colon tumorigenesis and respiratory viral infection(アルギニンの摂食はコドン依存性のMHCクラスI抗原の翻訳を介して直腸ガンや呼吸系のウイルス感染を改善する)」だ。

このグループはガンや感染と言ったストレスが組織のアミノ酸濃度にどう影響するかを調べる中で、ガンと呼吸器感染症の両方で強く抑えられるアミノ酸としてアルギニンを特定している。そして、これまであまり指摘されてこなかった、ガンでの MHC-I の発現が低下していることを発見する。発現減少は半分ぐらいだが、キラー細胞はガンを殺しにくくなる。

MHC-I に絞って発現が低下する原因を調べた結果、全ての MHC-I で翻訳活性が低下すること、そしてその原因がリボゾーム上で翻訳される時に、アルギニン tRNA のリクルートが低下することで翻訳が停止するためであることを明らかにする。さらにおもしろいことに、MHC のアルギニンに対応するコドンを AGG に置き換えると、発現が正常化する。即ち、他のコドンを使うアルギニン tRNA 特異的に、アルギニン欠乏の影響を受けて、翻訳が滞る。とすると、何故 HHC-I で強い変化が見られるかだが、MHC-I はアルギニンの頻度が高いため、翻訳が影響されやすいと結論している。一方で、アルギニンの関わる代謝にはほとんど影響がないことも示しており、効果は翻訳レベルでの変化が中心と結論している。

いずれにせよ、組織のアルギニンを上昇させれば、ガンに対する免疫が上がり、低下すればガンの増殖が促進されることになる。もちろん、アルギニンの経口摂取量を上げると大腸ガンの発生は抑制され、減らすとガン発生が促進する。この効果は、MHC-I が機能しないβ2ミクログロブリンマウスで見られなくなるので、ほとんどが MHC-I を介していると結論できる。ただ、食事中のアルギニンだけでなく、組織に浸潤してくる白血球が発現しているアルギナーゼも組織中でアルギニンを分解するため、発ガンを促進する。白血球特異的にアルギナーゼをノックアウトすると、見事に MHC-I の発現が上昇し、腫瘍発生が抑えられる。このように組織中のアルギニン量は複雑に調節されていることがわかる。

最後に Covid-2 やインフルエンザのような呼吸器感染症実験系で、白血球のアルギナーゼノックアウトの影響を調べ、感染への抵抗力がアルギナーゼのノックアウトで上昇する事を示している。もちろん経口的にアルギニンを投与する実験も行っており、アルギニン摂取が感染の症状を抑えることを示している。

以上が結果で、これまで考えられてきた代謝経路とは全く別に、アルギニンが免疫、特にキラー活性特異的な効果を持つことが示された。実験自体はオーソドックスだが、高齢のガン患者にとってはおもしろい論文だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月1日 ナノポアによるアミノ酸配列決定(8月29日 Nature オンライン掲載論文)

2026年8月1日
SNSシェア

膜上に設置した孔にDNAを通した時の電流の変化からDNA塩基を区別するナノポアシークエンサーは、長いDNAストレッチを読むことができるシークエンサーとして定着している。この物理的性質を利用して分子を区別する方法は核酸だけでなくアミノ酸にも使える可能性は高く、ナノポアを利用するアミノ酸配列解析法の開発が行われている。このブログでも2021年11月に、オランダ デルフト大学から発表されたポリペプチドをナノポアを通してアミノ酸配列を解読する方法についての論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18292)。

今日紹介する南京大学からの論文は、ポリペプチドを孔を通して解析するという核酸での成功体験を完全に捨て去って、ナノポアをセンサーとして使うアイデアでアミノ酸配列決定法確立に大きく近づいた研究で、7月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Sequential reading of a stepwise-shortened peptide immobilized on nanopore(ナノポアに固定したペプチドを順番に短くすることでアミノ酸配列を解析する)」だ。

アミノ酸配列決定には20種類のアミノ酸を物理的に区別するナノポアが必要になる。このグループは2023年に、自然界に広く分布する非定型抗酸菌の一つスメグマティスの porinAにnickel-nitrilotriacetic acid (NTA) を結合させることで、ナノポアにアミノ酸をトラップすることが出来、この時ナノポアの電流変化を AI を用いて解析することで20種類のアミノ酸を区別出来ることを発表している(Nature Methods Vol21, 92-101)。

この基盤の上にアミノ酸配列を連続的に読み取るためにいくつかの新しいアイデアを実現したのがこの研究になる。この方法では孔の端にあるNTAにアミノ酸が結合しその結果起こる電気的変化を読み取る。従って、ペプチドを穴を通して順番にアミノ酸を読むことは不可能になる。そこで、ペプチドの C末端にシスティンを付加して、これと共有結合するリンカーをナノポアに結合させ、まずペプチドがナノポアに固定されるようにした。こうしてC末端でナノポアに固定されたペプチドのN末端をNTAでトラップして、この時の電気変化を測定し、N末端のアミノ酸を読み取る。

ただ、このままではナノポアは同じアミノ酸に占有されてしまうので、これを切り離して次のアミノ酸へ移るために、N末端のアミノ酸をペプチダーゼで切り離す方法を開発した。実際には、ナノポアを支える膜にペプチダーゼを結合させ、N末端を順番に切り離す方法を開発した。

この結果、12個のアミノ酸が並んだペプチドでも連続的にアミノ酸配列を決定できることを明らかにしている。

問題は自然界のアミノ酸には様々な修飾が加わっていることで、例えばメチル化やリン酸化などが加わっていると、ペプチダーゼが働けなくなるなど、途中で解析が止まる。従って、あらかじめ様々な修飾を外しておく必要がある。ただ将来、修飾に関わらずアミノ酸を切り離せる酵素が見つかればこの問題も解決する。

最後にさらに正確を期すため、3アミノ酸をセットで検出(ABCDEFGという並びを、ABC、BCD、DEF、EFG とセットにして電気的変化を調べる)方法も可能であることを示している。これは余計複雑にするように思えるが、3アミノ酸の並びの総数は高々8000種類なので、AI で正確に区別出来ると考えている。

以上が結果で、穴を通すと言う考えを捨てたことで、アミノ酸を直接ナノポアで解析する方法に大きく近づいたと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年8月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31