8月27日Sciencenewsline記事:チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来
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8月27日Sciencenewsline記事:チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来

2013年8月27日
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このサイトの記事は http://www.sciencenewsline.jp/biology/ で読めます。

実を言うと、このサイトで取り上げる科学報道記事のほとんどは、理化学研究所・社会知創成事業に属する浅川茂樹さんが毎朝送って来てくれる科学新聞記事のリストから取り上げている。本当に感謝している。ただ、いつも科学報道記事、特に論文になった研究の仕事がある訳ではない。昨日、今日とそんな日が続いた。このため、敢えて日本の報道がほとんど取り上げない記事を、前に述べたScienceNewsLineの日本語記事から拾う事にした。記事のタイトルは、「チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来」と言うセンセーショナルな題だった。
   本題に入る前に、一つ発見した事を報告しておこう。前にScienceNewslineが、経済的にどう運営しているのか不思議だと語った。今回英語の記事をよく見てわかったのは、大学のプレス発表を集めていることだ。もちろんそのまま転載しているわけではない。自分のところで書き直している。いずれにせよ、大学のアウトリーチ活動とつながっている。もし専門知識を持った客観的な記事の書ける集団によるこのようなサイトが出来れば、読む方はそこを見れば全てわかって便利だろう。大学も科学に興味のあるより広い層にニュースを呼んでもらえる。この様なサイトが増えると、ある意味で新聞はいらなくなるかもしれない。報道の目指すべき事を深刻に考えるときが来ている。
   さて取り上げられる回数からみて、報道と、ネットの差が激しいのが福島原発事故についてだろう。福島については、実際ネットだけでなく、我が国の報道は外国の報道とも大きくトーンが違っている。典型的な例が、昨年琉球大学の檜山さん達が原発近くの蝶に遺伝的可能な異常が蓄積した事を発表したScience Reportの記事だろう。もちろんほとんどの日本のメディアは報告しなかった。多分科学的に正しいかどうかj自信がもてなかったのだろう。実際、私の友人、大阪大学の近藤滋君は、コントロールの取り方がおかしいと批判していたのを思い出す。しかし、私は事故の生物への影響を決めようとして、この論文だけ公開の議論を行う事自体が不毛だと思う。科学でどちらが正しいかを近視眼的に議論しても仕方がない。重要なことは、福島原発事故の近くの動植物についての長期的調査研究は、人間についての調査と同様に極めて重要であると言うことだ。一定の条件で、世界の研究者にこの領域を開放し、実際に何が起こっているのか科学的に検証する事で、将来に大きなデータを残すことが出来る。檜山さんが正しいかどうかなども、遺伝子配列を調べていけばより正確なことがわかる。しかし、今の文科省はそのような研究に助成金を出すだろうか?科学的でないと抹殺するのだけではよくない。問題があるかもしれないが、より積極的な研究を促進するために助成金を増やすべきだぐらいの事を文科省に提言するぐらいのセンスが報道にほしい。政策当局が臭い物にふたをするしか能がないとすると、二度と得られない大事な資料は失われていく。例えば福島で野生動植物のフィールドワークをする特別の研究班は編成されているのだろうか?多分ないのではと思う(間違っていたら是非指摘を)。例えば、檜山さんの疑問からスタートして、フィールドワークや動植物についての研究やそれに対する助成が行われているかどうか調べて公開するのも報道の役割だ。
  さて、Sciencenewslineの記事に戻ろう。これはチェルノビリで2011年から2012年に捕獲された1000羽以上の鳥を調べたアメリカサウスカロライナ大学のMousseauさんとMøllerさんの仕事で、PlosOneとMutation Reasearchに掲載されたばかりだ。Mutation Reasearchではアルビニズム(皮膚から色素が失われる)とガンの発生率について、PlosOneに掲載された仕事は放射線障害として知られる白内障の頻度を調べている。いずれも、様々な統計処理を行うと、チェルノビリで捕獲された鳥は上昇しているという結論だ。もちろん、論文はフィールドワークで、実際検出された異常が遺伝的かどうかはまだまだわからない。また、ゲノムなども調べられていない。このように、私もこの論文だけで結果が正しいかどうか判断できるとは思わない。とは言え、あら探しをヒステリックに行うのは愚の骨頂だ。アメリカの研究者がチェルノビリのフィールドワークを現在も続けていることに感心すべきではないだろうか。今東北メガバンクで事故の影響が心配される集団の大規模コホートが行われている。同じように、汚染地にずっと居続けている動植物を採取、様々なデータの蓄積、特に経時的なゲノム解析データの蓄積、および採集した動植物の掛け合わせ実験など、今しかできない基礎的研究をしっかり進めるべきだと思った。

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8月22日朝日新聞(大岩):糖尿病患者の認知症リスク予測

2013年8月22日
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朝日新聞は記事のペーストを許可していません。必要な方は
http://www.asahi.com/tech_science/update/0820/TKY201308200025.html を参照してください。

   今日の朝日の記事は、糖尿病の患者さんが認知症になるリスクを簡単に評価出来る基準を提案する論文について紹介している。論文はLancet Diabetes and Endocrinologyに掲載されているが、まだ私はオリジナルな論文にアクセスできていない。
  患者さんの立場から見た時、役に立つ情報であれば、日本発であろうとなかろうとどちらでもいい。大岩さんは患者さんに役に立つ情報を世界にまで守備範囲を広げて探し出し、レポートした。この点を高く評価したい。特に、リスク度を判定するチェックリストを理解しやすい形で提示している点がすばらしい。実際医師でなくとも、自分のリスクをこの表で調べる事が出来る。これまで紹介して来たSciencenewslineもこのLancet Diabetes and Endocrinologyに掲載された論文について紹介しているが(残念ながら英語版だけ)、このチェックリストは示されていない。論文の内容をしっかり消化して記事にする、当たり前の事が当たり前にできている記事だと感じた。とは言え、私自身はこの論文にアクセスが出来なかったため、オリジナルな論文と比べる事が出来ていない事は断っておく。
   朝日の記事とSciencenewslineの記事を比べて一つ気になったのが、カイザーパーマネント研究所と言う記載だ。SciencenewslineではKaiserPermanent Division of Researchとなっていた。いずれにせよ聞いた事がなかったので、Sciencenewslineの脚注にあったこの組織の概要を覗いて驚いた。この概要は、「カイザーパーマネントはヘルスケアの未来のために、アメリカトップのヘルスケアと非営利の健康増進計画を提供する組織で、900万の会員を擁している。実際には会員と医師や様々な医療スタッフをつなぎ、会員が最適の健康管理と医療を受けられるよう活動している組織」と要約出来る。すなわち毎日の健康管理から医療まで会員に提供する目的で1945年に創立された組織で、現在では研究所を持っており、これが今回論文を発表したDivision of Researchだ。ホームページを見て更に驚いたのは、この組織に17000人の医師が組織化されており、患者さんと繋がっている点だ。このような組織だと多分コホート研究など長期的視野の必要な研究も、ずいぶん楽に進むことだろう。またこの組織は将来の医療についてのはっきりとしたアジェンダを持っている。このことが今回のような明確な研究につながったのだろう。Sciencenewslineでも複雑な診察や検査なしに、病歴からだけこのリスクスコアが得られることの重要性が強調されていた。
   ひるがえって我が国を見渡すと、「これからコホート研究が重要で予算化が必要」と叫ばれている。もちろんヒトゲノムなど様々な進展があってのことだろうが、提案されている研究自体は従来と同じ手法のトップダウン型のコホート研究だ。すなわち科学的にコホート研究を始めることだけが意図されており、10年、20年という将来の展望がほとんど皆無だ。本当に長期的視野で考えるなら、患者さん、かかりつけ医、研究者の関係を再構築していく、ボトムアップの方向性が今こそ求められているのではないだろうか。少し望みすぎかもしれないが、記事でも研究だけではなく、それを行ったカイザーパーマネントについても紹介をしてほしかったなと思った。

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8月21日朝日社説:医療の改革 患者の協力も必要だ

2013年8月21日
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朝日新聞は記事のペーストを許可していません。オリジナルな社説は以下のURLを参照ください。 http://digital.asahi.com/articles/TKY201308200551.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201308200551

原則として報道ウオッチは論文発表の研究に対する報道を対象としているが、今日は朝日の社説の書きぶりが少し気になったので取り上げてみた。「医療の改革 患者の協力も必要だ」と言う社説で、8月21日に閣議設定される社会保障改革について意見だ。今回の案では、「医療機関の設備戦争につながり、過剰医療と医療費高騰を生む医療機関のフリーアクセスを考え直すべき」とうたわれる。社説では、「かかりつけ医が住民に信頼されるかどうかにかかる」という改革案の本質を見抜いている。しかし、結論としては報道中立の原則にとらわれて、「患者に我慢をしいて、簡単な話ではないが・・・将来世代に付け回し出来ない」と結んでいる。しかしこれでは社説でも何でもない。私は科学報道を中心に見ているが、現在の報道が、「出来事を最も常識的にまとめて伝える」事ばかり考えているように見える。少なくとも社説ぐらいはもっと本質を見抜いた将来への提案がほしい。かかりつけ医が信頼されることがこの案の鍵であることは私も同感だ。 
  改革案をまじめに進めるとすると、結局かかりつけ医が信頼されるようになるしかない。そのために何が必要か?最も大事なのは、かかりつけ医の医療知識、技術レベルが高いレベルで安定する事に他ならない。従来これについては教育と倫理の問題で片付けて来た。しかし、IBMの創業者の名前(?)をとった診断ソフトや、ゲノム解析の一般化など、患者さんやかかりつけ医の標準化を促進する新しいトレンドが生まれている。前に紹介したPatientlikemeのように、かかりつけ医の信頼性を、患者さんの知識が補っていく可能性すらある(collective intelligenceでいつか紹介したい)。
  IBMは新しいシークエンサーを開発して100ドルゲノムを目指している。GoogleはGoogle healthでは失敗したようだが、そこから派生した23&meはゲノム解析ビジネスの代表になっている。このように、新しい技術が医療を先端だけでなく、底辺から変えようとしている。また、将来のアジェンダを見据えている企業は既に様々な対応を進めている。そんなとき、もっともらしい話で社説を済ませる気が知れない。
 では私に案はあるのか?いくらでもある。なぜなら、21世紀のアジェンダが患者側からの医療や医学の変革だと確信しているからだ。この視点で見れば、多くの可能性が見えてくる。例えば分子標的薬の中には、これまで大病院でしか可能でなかった治療を、かかりつけ医で対応できるようにするポテンシャルを持った物もがある。今後はこのコラムでいろいろ紹介していきたい。

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読売新聞8月13日がん7000症例調査、22の特徴的変化を発見

2013年8月19日
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読売、毎日ともに、オリジナル記事をペーストする事は許されていない。必要な方は以下のURLを参照していただきたい。(http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130815-OYT1T00274.htm)同じ研究は8月15日の毎日新聞でも「発がん原因:遺伝子異常22種 7042人分解析」(http://mainichi.jp/select/news/20130815k0000m040111000c.html)として紹介された。
   ほんの一部の例外を除いて、がんの発生には遺伝子の突然変異が必要だ。英国サンガーセンターのMichael R. Strattonのグループは、がんのゲノム上に突然変異を引き起こす過程についての数理的モデルを構築し、Cell Report紙に発表している。今回の論文はこの数理モデルを使って、7000以上のがん細胞の全翻訳領域(エクソン)を調べ(エクソーム解析)、様々ながんに見つかる突然変異の成り立ちを22のパターンに分類する事に成功した。私は数理については素人だが、そんな私でもこの論文の「売り」がこの数理モデルであることはわかる。実際、この仕事のほとんどはサンガーセンターの3人が行い、Strattonが全ての責任を負う著者である事が明示されている。
   以前に発表された数理モデリングの仕事は数式が出て来たりで、数理の苦手な私にはよくわからなかった。それでも、今回の論文は十分楽しむ事が出来た。分類された突然変異の出来かたのパターンが生物学的にもかなり理解できるように書かれている。特に、老化、APOBECや AIDなどの脱アミノ酸酵素、乳がんの原因遺伝子BRCA1/2、喫煙等々のいわゆる変異の原因と、数理モデルに基づいて決定される突然変異の出来かたのパターン、そしてそのパターンに対応して予想される分子過程などの相関がわかりやすく提示されており、大変面白い論文だった。また、どのようにがんに突然変異が蓄積するかを分類する事は、がんの成り立ちにとって極めて重要で、いずれは予防にもつながる。
   さて記事であるが、読売の記事は最悪といっていい。まず、このまま読んでしまうと今回の仕事があたかもがんに特徴的な遺伝子変化を探索しているように錯覚する。実際「各部位のがんに特徴的な遺伝子の変化を特定し」「今回見つかった22種類中、いずれか2種類以上の遺伝子の変化か起きているという。肝臓がんと胃がん、子宮がんでは、主に6種類の変化か重なることかわかった。」などと書かれると、読者はがんに特徴的な突然変異自体が発見されたように錯覚する。この仕事はあくまでも、突然変異の起こりかたの分類であり、突然変異自体ではない。記者が理解できているのかどうか、大いに反省が必要だ。
  一方毎日は、内容の点では少しはましだ。「その結果、がんを誘発する22種類のパターンを発見した」と、研究されているのが遺伝子の変異の出来かたのパターンである事ははっきり書いている。また、「各パターンと、生活習慣などとの関係を丹念に調べることで、がんが発生する仕組みの解明につながる」と、突然変異の出来かたと、それが喫煙など生活習慣と関わる可能性がある事にも触れている。しかし、「発がん原因:遺伝子異常22種 7042人分解析」と見出しを書いてしまえば最初から誤解を生む。また、「がんを誘発するパターン」と書いてしまうのもいただけない。この仕事でわかるのは、あくまでも突然変異の出来かたのパターンだ。それをがん誘発パターンと言うのは正しくない。「ネーチャー」、「ゲノム解析」、「ビッグデータ」などの常套句をちりばめれば記事になると言ういい加減さは卒業してほしい。そして両紙とも「国立がん研究センターなとの国際チームか1 5日、英科学誌ネイチャー電子版で発表する」「国立がん研究センター(東京都中央区)を中心とする国際研究チームは」などと、あたかもがんセンターがこの研究の中心であるかのように書いている。しかし、この仕事は数理モデルを考案したグループが、コンソーシアムとしてがんゲノムデータを集めて来た国際チーム(勿論両者は重なっていい)の成果を利用した仕事と言うべきで、論文にも書かれている通り、サンガーセンターが中心の仕事だ。勿論日本の研究を贔屓にしたいのはわかるが、もしStrattonのグループがこの報道を見たらどう思うだろうか。
  ここまで書いて来て、ではがんセンターからの発表はどうだったのだろうかと気になって調べてみた。とすると、「本研究は、国立がん研究センター研究所(中釜斉所長)がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長を中心とする研究チームが、国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)のプロジェクトの一環として進めました 」と発表している。これでは誤解を招くのも当たり前だ。そして何よりも、この研究の根幹がStratton達の数理モデルである事について全く触れていない。書かれている事がそのまま間違いであると言わないが、この様な核心をはぐらかす記者発表を行う事には捏造の根が潜む。科学者側も是非反省してほしいと言わざるを得ない。とは言え、何度も書いているが、報道側も記者発表を鵜呑みにせず、一度は実際の論文にあたればすぐわかる事だ。報道とは聞いて来た事をそのまま伝える事ではあるまい。松原事件の時に紹介した「国家を騙した科学者」を一度読んでいただきたいと再び思った。

 

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8月14日読売新聞記事:情けはボクのためになる・幼児で親切の効用実証

2013年8月19日
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オリジナルの記事をここにペーストする事は読売新聞は許可していません。必要な方は以下のURLを参照ください。 http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130814-OYT1T00830.htm

 これまでは、メディアの記事を調べる時、どうしても自分の分野(幹細胞研究)に重点を置いてしまっていた。しかし、すっかり第一線を退いて、何の偏りもなく様々な記事を眺めだすと、科学記者の方々がずいぶん様々な分野を取り上げている事がわかる。その典型が今回の大西さんの論文を紹介した読売新聞の記事だろう。私がわざわざ論文の内容を紹介する必要は全くない。正確に伝えられている。元々論文自体、方法や実験のデザインの詳述が大きな部分を占めており、素人の私も結構読むのに苦労した。ただ、メッセージは比較的単純で、このため多分大西先生の説明を聞いた方が、論文を読むよりわかりやすいだろう。繰り返すが、結果は記事に書かれている通りで、同じ年の子供の親切な行為を近くで見ていた子供は、親切を行った子供に優しく接すると言う実験結果だ。この記事で是非評価したいのは、見出しだ。「情けは僕のためになる」とはこの結果を一言で表現するのに成功している。実際は誰がこの見出しを付けたのかは私にはわからないが、多分この記事を書いた記者が考えたように思える。内容を良く理解して、わかりやすい見出しを付ける。また、他の研究者からのコメントも記事の内容を更にわかりやすくする効果を持っているように思った。良い記事だ。

   この様な小児の発達についての科学的な研究は、少子化の進むアジアでは重要性が増すだろう。この様な小児発達などの問題は、元々科学性を保証する研究が行いづらいなどの様々な要因を抱えており、今後もいっそう努力が必要な分野だ。この事を考慮して、今回読売の記事を取り上げたついでに、日本のメディアには紹介されなかったもう一つの日本発の仕事を紹介しておこう。これは、岡山大・山川さんの仕事で、乳児期6−7ヶ月に母乳だけで育てた子供は粉ミルクを使った子供より、7−8歳で肥満になる確率が低いと言う結果だ。この論文はJAMAのオンライン版に8月12日に掲載され、以前紹介したScienceNewslineのウェッブサイトで報告された(http://www.sciencenewsline.com/articles/2013081223000028.html#footer)。残念ながら実際の論文が手に入らず、また日本のメディアでも紹介されていなかったので、ここで紹介するのは控えていた。今回、読売の記事に便乗した。両研究とも、最終的な真偽について、本当は介入研究を含めた検証が必要なのかもしれない。しかし、小児を対象に長期の介入研究をする事は許されない。だととすると、この仕事を出来るだけ多くの親に知ってもらって、良いと思う事は何でも試してみていただく事が必要ではないだろうか。私から見ていずれもやってみて問題が起こると言う話ではなさそうだ。ならば、良いと信じてやってみても良い様な気がした。

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毎日新聞8月12日:ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛

2013年8月13日
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ミカンキジラミ:毒作る細菌と共生し防衛・・・・新薬開発にも。 毎日新聞0812日記事。

毎日新聞は記事のペーストを許可していません。元の記事は以下のURL

を参照して下さい。

http://mainichi.jp/select/news/20130813k0000m040094000c.html

 

一つの統合された構造を作る共生の中でも、最も良く知られているのは、菌類と藻類からなる地衣類だろう。現存の真核生物もミトコンドリアを取り込んだ共生システムと呼ぶ事が出来る。このように共生は、個体性の問題や、遺伝子の水平伝播などとであう可能性が高い現象で、進化研究に欠かせない事が広く認識されている。今回の豊橋技術科学大学、中鉢さん達の仕事は、ミカンキジラミの中に存在する、2種類の細菌と宿主(ミカンキジラミ)細胞の三種類が共生するバクテリオームと呼ばれる面白い構造に着目して研究している。この構造は、宿主の細胞が特殊な構造を作って、あたかも2種類の細菌を飼育している様な構造だ。今回の仕事では、この構造の中で飼育されている(?)細菌の遺伝子配列を決めると同時に、それぞれの細菌がこの構造のどこで維持されているのかを決めている。その上で、またこの様な共生が必要とされる機能的側面と、共生する事によるゲノムサイズの縮小などの進化的な側面、このバクテリアのトキシンの自然選択における役割などについて研究している。私はこの分野の素人だが、論文としても面白く、広い視野で研究が行われていると言う印象を持った。
    
    ただはっきり言おう。記事はひどい。せっかく、共生生物のような面白い題材を記事にしようとしたのに、この論文の真価をほとんど伝えていない。もし伝えられないだけでなく、理解していないとしたらもっと問題だ。結局記事を、抗がん剤が開発できるかもしれないなどとまとめてしまうと、何のためにこの仕事を紹介する必要があったのかよくわからなくなる。創薬の現在を紹介したければ、もっと他にも仕事があるはずだ。勿論この仕事のハイライトは、新しい細菌のゲノムを決めると同時に、それの作る毒物を明らかにした事だ。しかし、トキシンはこの共生体の機能と進化を知るための一つの要素にすぎず、主要な部分ではない。にもかかわらず、「新薬開発にも?」という、みだしはひどい。また、この記事でもこの仕事を掲載した雑誌を、米専門誌に発表されたと記載している。これは毎日新聞を日本の某紙と呼ぶ様な物だ。この論文はカレントバイオロジーに掲載されている。どこに発表されたのかなどは勿論問題ではないが、記事にする限り、出所は明確にすることは当たり前の事だ。この様な仕事を報道のために取り上げたのは高く評価する。であるなら、是非本当の真価を伝える努力をしてほしい。

   ここで、本当に記者だけの問題だろうかと、はっと気がついた。もし研究者の方が記者に対してこの様な宣伝の仕方をしていたら?という疑問だ。十分あり得る事だが、だとするとあまりに悲しい。そして、もしそうだとすると、これは私たちの国の現代の科学政策を映す悲しい一面かもしれない。

 

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PatientLikeMeのポテンシャル2

2013年8月12日
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8月2日、読売新聞は国立国際医療センターの研究グループの研究について、「低血糖起こす糖尿病患者、心筋梗塞リスク高い」という見出しの記事を掲載した。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130801-OYT1T00906.htm )

例のごとく、実際の研究方法の紹介が不十分であるため、わかりにくい記事だが、紹介された結論は重要だ。低血糖発作を起こす危険の高い患者さんに対しては、血糖を正常化する事だけを目標にして治療を行うと逆効果になる事を警告する仕事だ。論文にも書かれているように、患者さんに会わせて治療する事の重要性が示されている。
  科学報道ウォッチを始めるまでこの様な臨床論文を読む事はあまりなかった。この論文を読んで最も驚いたのは、これまで発表された論文をサーチし、その分析からこの結論がえられている事だ。すなわち、この研究は、自分自身でフィールドを設定し、患者さんをリクルートして研究を行っている訳ではない。文献を検索し、報告されたデータを注意深く科学的に分析し、結論を出している。この仕事からわかる事は、世界中の病院で蓄積し続ける患者さんのデータがいかに大事であるかと言う当たり前の事だ。もちろん、各医療機関では医療に関わる専門家が、一人一人の患者さんのデータを正確に記載する。即ちこの科学性が、他の専門家にも利用可能なデータの蓄積を可能にしている。

    この記事に関して8月9日に紹介したPatientLikeMeをもう一度考えてみよう。前にも述べたが、このいわば患者さんのフェースブックサイトには、それぞれの患者さんが丁寧に記載したデータが大量に蓄積し続けている。しかし、患者さん達のほとんどは専門家ではない。これまで、患者さん自身が記載すると言うだけで、科学的に意味がない主観的データとして排除されて来た。勿論、アンケート調査と同じで、うまくサイトが設計されておれば、十分正確な情報をえる事が出来る。実際、幾つかの論文がこのサイトで公開されている患者さんが記載したデータを元に出版され始めている。例えば、Natrure Biotechnologyに2011年掲載されたPaul Wicksらの論文( Nature Biotechnology, 29巻、5号、411ページ) では、PatientLikeMeサイトのALS患者さんのが記載したデータだけを元に、炭酸リチウム治療は効果がない事を結論している。勿論、私はこの結論がすぐ鵜呑みに出来るとは思っていない。当分はこれまでの研究手法との比較が必要だろう。事実この仕事で扱われた薬剤の効果については、その後2重盲検法を使った研究が行われ、同じ結論が出ている。この様な繰り返しで、主観的データの利用の可能性を探す事が重要だ。しかしこれらの研究では、科学性に疑問があるデータとして、これまで医学が排除して来た患者さん自身の記載するデータを再評価すると言う新しい方向が示されている事だ。この方向の本当のポテンシャルは、気分や、その時々の感じと言った、いわゆる主観的な感覚(クオリアと呼んでも良い)まで対象にする新しい科学の芽がここにある点だ。特に精神的な病気、あるいは病気になる事によるそれぞれの気分などを考える科学への途方もない可能性がある。更に言えば、医学・生物学が人文科学と本当の意味で統合される可能性がある。今後も、この様な新しい動きについては折にふれ紹介していきたい。

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8月9日Patientlikemeについて

2013年8月9日
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Patientlikeme 昨日はScienceNewsLineの話をした。これは、科学者側からの情報を、社会にどう還元していくかという方向でのサイトだ。しかしこれだけで終わらないのが21世紀だ。すなわち、一般側から専門家へ(もちろん専門家だけを向いているわけではないが)の向きがネット社会によって可能になる。   全てではないが、一般の人から専門家への情報や知識の流れをcollective intelligenceと呼んでいる。この新しい動きで最も成功したのがGalaxy Zooと呼ばれるサイトだ(http://www.galaxyzoo.org)。これはハッブル望遠鏡で撮影した銀河の分類を、写真をウェッブに公開することで、一般の人に行って貰うというプロジェクトだ。実際、コンピューターでは考えられなかった情報が、一般の参加で得られたという。既に新しいプロジェクトが始まっており、以下に紹介しておこう

Stage 2: Begins Now! In this stage we will begin the ‘Data Analysis and Discussion’ portion of the project. Nobody has ever attempted an online science project quite like this before, so it is going to be an interesting few weeks! Please check out this blog post for more details about what happens next, or visit TALK and ZooTools to get involved! 第2弾が今始まった。 プロジェクトの中の、「データの分析とディスカッション」を今回のステージでは始めたい。このようなオンラインの科学プロジェクトはこれまで全くなかった。従って、これから数週間は面白くなりそうだ。次に何が起こるか、どうかこのブログポストをチェックしてください。あるいは、「話し合う」や「動物園ツール」サイトに行って、どうして参加するか調べてください。 これは全く新しい科学の試みだ。

しかし医学では、これ以上の可能性の高いサイトが既にアメリカでは進んでいる。これが今日紹介したい、Patientlikemeだ(http://www.patientslikeme.com)。   端的に言ってしまうと、これは患者さん達のフェースブックだ。といっても決して登録サイトではない。様々なレベルのコミュニケーションが常に行えるよう努力が注入されているサイトだ。実際このサイトはすでに大手の製薬会社も注目し、またアカデミアともコミュニケーションが行われている。今の段階だけではまだまだと思えるかもしれない。しかし、患者さんが自分を開示すると言うこと自体が画期的で、様々な連携を行える潜在力を秘めている。私自身は、医学や医療を大きく変えるポテンシャルがあると確信している。そして、このようなサイトが21世紀の国力に繋がると確信している。医療変革というとすぐトップダウンの発想しかない政府と、このようなサイトをもって様々な観点から考えられる政府では大きな差がつく。このような日本語のサイトが出来るよう努力するのが私たちAASJの一つの使命だと思っている。

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8月8日 ScienceNewsLineについて

2013年8月8日
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今日はあまり科学報道が活発でないので、一つ面白いサイトを紹介します。 サイエンスニュースラインScienceNewsLineと言うサイトで、日本語版もあります(http://www.sciencenewsline.jp) これはコンピューターで自動的に選んだ様々な分野のトピックスを分かりやすく解説しているサイトです。さらに、このサイトの記事の多くは様々な言語に翻訳されています。   これほどの情報を自由に閲覧させるサイトが運営されていることがアメリカの力です。このようなサイトが普通に読まれるようになると、多分日本の既存メディアの役割はほとんどなくなるでしょう。政府もビッグデータとか今いろいろ言っていますが、このサイトが行っているようなコモンズの運動、すなわち情報をいかに提供するかという視点なしに言ったところで、日本は公共情報の面でどんどん遅れていくような気がします。 最後に今日この中で私の注意を引いた記事を挙げておきます。スウェーデンとドイツのチームが行ったいわゆるコホート研究です。これはJournal of vocational behaviorという雑誌に掲載されたようです。以下に内容をcut & pasteしておきます。日本でもコホートコホートと騒がれていますが、誰でも考えるようなことを研究費のためだけに声高に叫んでいるように思えます。その意味で、40年という時間を見続けるこのような研究は本当に頭が下がります。次の機会にはもう一つ重要なサイトPatientlikemeについてお示ししたいと思います。

起業家のダークサイドな側面 メディアは起業家にまつわる疑惑、反社会的な活動などを多く報じている。これらの報道から判ることは、起業家のタイプの中には、「隠された」傾向として、反社会性があるかもしれないということとなる。これが事実だとしたら、起業家は自己的な道徳観と倫理観に依存した自己中心的な人間であるということができるのだろうか?自己の利益のために他の倫理的な、そして社会的約束事のすべてを破るような「経済的ホモサピエンス(homo oeconomicus)」は果たして存在しているのだろうか?そしてもし、こういう人種が存在しているのだとしたら、何か彼をそうさせているのだろうか?Friedrich Schiller University Jena (FSU)とUniversity of Stockholmの心理学研究チームは、起業家にみられる反社会的傾向を研究することで驚くべき結論に至った。 研究チームは、この論文「Individual Development and Adaptation」(DOI: 10.1016/j.jvb.2013.06.007)の研究を行うにあたって中規模のスウェーデンの町に住んでいた1000名の子供を対象にその発達の過程を40年間に渡って追跡調査した。「私たちは、プロフェッショナルキャリアとして起業シップを発揮した被験者がどのような発達を遂げてきたのかを分析することから始めました。私たちはどのような社会的行動が、企業シップにつながっていくのかについて知りたいと考えたのです」とUniversity of JenaのDr. Martin Obschonkaは述べる。その上で研究チームは、被験者のルールに従わない傾向、参加に対する態度などを詳細に調べた。その結果、起業家には、思春期の頃から反社会的な傾向があること、また、この傾向は成人になってからも継続していることが判った。

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8月6日朝日:記憶、脳か役割分担

2013年8月8日
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朝日新聞は元の記事のペーストを許していません。必要な方は以下のURL参照。 http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201308040081.html

この分野は私も素人で、この論文の多くの細部を理解していない(多分理解できるだろうが時間がかかる)。ただ、脳の中で神経細胞のサーキットの活動を計測していること、そして特定の画像が組み合わさったとき、組み合わさったことに反応して画像を総合できる能力について調べた研究であることはわかる。これまで画像の研究が個別のニューロンの反応として記録されてきたことを考えると(例えば三角に反応するニューロンなど)、サーキットとして記録できるところまで研究が進んでいるのは驚きだ。その上で、個々の画像を表象するサーキットが形成され、それが時間をかけて異なる領域でのサーキットとして成立することで、統合イメージを作り上げるという。これこそ認知科学の核心だという結果だ。また、宮下さんも意識しているように、新しい画像処理のロジックになるかもしれない。実際、今のPCで画像同士を比べる事は出来ても、論理的に分析することが困難であることを考えると、期待できる。   さて記事であるが、朝日は記名記事と、無記名記事があるようだがその基準はどこにあるのか疑問に思う。これは無記名記事で、そのためかあまりまじめに書かれていない。多分記者が宮下さんの話に何とかついて行ってまとめたのだろう。もちろんすばらしい仕事だから報道してあげてほしいと思う。しかし、仲立ちをする以上、やはりある程度の理解が出来る事が最低限ではないだろうか。「宮下さんのグループが、猿を使って、記憶の場所を探して、幾つかに分かれていることがわかった。多分コンピューターの設計に役に立つ」以上のことが全く書かれていない記事をのせるとは、記者の見識が問われる。この話は、今日報道する必要はない。時間をかけて理解をした後報道すべきだろう。   前にも述べたが、脳研究で問われる問いは一般の人ももっともと共有できる内容が多い。一方いったん実験になると、専門家以外はほとんどわからないというレベルにまで来てしまう。このような状況を考えると、科学報道記者も合宿ぐらいして、準備をするぐらいの気構えがほしい。

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