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8月21日:風邪ウイルスはラクダ起源?(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年8月21日
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    「ちょっと鼻風邪をひいた」などといつも話にのぼる風邪は、様々なウイルスによる複数の病気の集まりで、症状は似ていても一つの病気ではない。ただ一年を通してかかる心配のある風邪は、ライノウイルスかコロナウイルスが原因であることが多い。
   一般的にコロナウイルスによる風邪にかかっても寝ておれば治るが、最近SARSとMERSと呼ばれたタチの悪いコロナウイルス感染症が発症して、一躍このウイルスの監視体制の必要性が問題になってきた。このうちSARSは吸血コウモリの中で病原性を高めたという説が広く受け入れられている。
   一方昨年韓国で流行して大きな騒ぎになったMERSは中東が起源であることから、ラクダの中で強い病原性が獲得されたと考えられている。
   今日紹介するドイツボン大学を中心とした国際チームからの論文は、ラクダがMERSだけでなく一般の風邪の原因となるコロナウイルスのキャリアーになっている可能性を調べた論文で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。
   まず研究ではサウジアラビアとケニアで飼われているラクダが、風邪コロナウイルスの代表として選んだHCoV-229Eに近いウイルスに感染しているかどうかをPCRを用いた遺伝子解析を用いて調べ、ほとんどのラクダがウイルスに感染しており、また感染しても何の症状もないことを確認している。
   次にこれらのウイルスを、ヒトのコロナウイルスの分離に使う細胞株に感染させてウイルス株を分離、その後の研究に使っている。
   遺伝子の比較から、ヒトの風邪の原因となるコロナウイルスはラクダから分離されるコロナウイルスと近縁であることが明らかになった。実際、感染に使う受容体や、インターフェロン感受性など、ラクダ由来コロナウイルスは風邪の原因になるコロナウイルスと多くの性質を共有している。しかし、気管や腸管の上皮に感染させる実験で、ほとんど感染できないことから、これがラクダでウイルスが病気を起こさない原因ではないかと推察している。
  この結果が示す一番重要な点は、ラクダの体内でウイルスは病原性もない代わりに免疫から逃れ、遺伝子変異を蓄積するポテンシャルがあることだ。この結果、急に上皮感染可能な株が現れ、MERS騒ぎにつながる可能性が大いにある。
   現在鳥インフルエンザについては、鳥が感染しているウイルスを定期的に追跡して、大流行の発生を未然に食い止めようとする国際的監視体制が整備されている。おそらくラクダとコロナウイルスについても、同じような監視体制が必要だろうと思う。
   ラクダが砂漠のロマンを表現する時代は終わっている。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月20日:shhによる刺激分子メカニズムの解明(8月25日Cellオンライン版掲載論文)

2016年8月20日
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発生や癌に興味のある研究者なら、sonic hedge hog(Shh)を知らないものはいないだろう。最初ショウジョウバエの一つの突然変異として分離され、その後ほとんどの動物発生に必須の分子として研究されてきた。シグナルとしては古参中の古参と言えるだろう。
   ただ、同じように古参シグナル分子Wnt,TKRやBMPと比べた時、そのシグナル伝達の仕組みの複雑さにいつも驚かされてきた。まず最終的にシグナルを伝える分子はSmoothened(Smo)だが、これにShhが結合するわけではない。SmoはPatched (Pth)と呼ばれる分子と膜上で結合しており、これによりSmoの活性が抑えられている。ShhはこのPtchと結合するが、この結合によりPtchがSmoから離れて、Smoに対する抑制が外れシグナルが入る。
   教科書としてはこれで一件落着だが、本当はSmoを活性化しているリガンドが何かという問題が残っていた。コレステロール合成系の異常でShhシグナルが入らないという研究結果からステロールがリガンドとして働いていると考えられているが、それが何かを実際に特定するには至っていなかった。
   今日紹介するハーバード大学からの論文はこのリガンドがコレステロールであることを特定した研究で8月25日号Cellオンライン版に掲載された。タイトルは「Cellular cholesterol directly activate smoothened in hedgehog signaling(細胞内のコレステロールはヘッジホッグシグナル伝達系のsmoothenedを直接活性化する)」だ。
   おそらくこのグループは構造生化学のプロだろう。これまでSmoに結合して活性化することが知られているオキシコレステロール、及び合成リガンドシクロパミンを結合させたSmoとリガンドが結合していないSmoの分子構造をX線回折を用いて行い、またこの結果をもとに、Smoのリガンド結合ブイの変異を誘導して同じように構造解析を行い、Smoが活性化されるための構造基盤を明らかにしている。
   このステロール結合部位の解析から、最も豊富に存在するコレステロールが構造的にSmoリガンドになりうることを着想、最後に構造や分子刺激実験からこれを確認し、Smoはコレステロールにより活性化される分子であることを証明している。    以上の結果から、PtchはSmoと結合することで、Smoとコレステロールの結合を阻害しているが、Shhと結合するとSmoから離れ、すぐにコレステロールがSmoに結合してシグナルが入るというシナリオを提出している。
   豊富に、当たり前に存在するコレステロールがリガンドとして働くというこの発見は、どうしてコレステロールの結合が阻害されるのかなど、多くの問題を残した。これを解いていく中で、Shhシグナルの進化や、あるいは発がんとPtchの関係がより深く理解できるだろう。私にとっては、分子進化のいろんなイメージが湧いてきて、示唆に富む論文だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月19日:刺激による脳皮質神経のグループ化(8月12日号サイエンス掲載論文)

2016年8月19日
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   脳回路の面白いのは、ただ電線が張り巡らされるのではなく、刺激に応じてそれが再構成される点で、AIの研究にとってもこれをコンピュータ上で再現することは重要な課題だ。この再構成はシナプス結合の強さの調節で行われるようだが、感覚から反応まで外部刺激により階層化された機能的ネットワークだけでなく、同じ階層に属する神経細胞同士も刺激によってグループ化されると考えられている。
   今日紹介するコロンビア大学からの論文は、同じ階層にある皮質ニューロンを刺激によってグループ化できるか確かめた論文で8月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Imprinting and recalling cortical ensembles (皮質神経グループの刷り込みと再呼び出し)」だ。
   この研究で問われたのは、他の階層の神経刺激により組織化するのではなく、同じ階層の神経を刺激して、強いシナプス結合で結ばれた神経細胞グループを形成させられるかという問題だ。一見やさしそうな課題に思えるが、神経が階層的に組織化されているため、これと無関係にグループ化するのはそう簡単ではない。わかりやすく言えば、ある地域にたまたま住んでいるだけという近所同士が固いつながりを持てるかと同じようなものだ。
   この課題を達成するため、この研究では光遺伝学を駆使し、神経の刺激と、神経の興奮の記録全てを光で行う系を用いている。実験ではマウスの頭を固定しながらトレッドミルで歩かせて刺激を与え続ける。これ自体が皮質神経をグループ化する刺激になるが、これに加えて特定の領域の皮質神経を光刺激で興奮させる。
   もし刺激により神経細胞のグループ化が起こるなら、階層とは無関係に光刺激を繰り返すと、他の階層により制限されていない神経同士のシナプス結合が高まり、グループ化できると期待できる。結果は期待通りで、だいたいその領域の20%程度の神経細胞が同じ光刺激で同調して興奮するようになる。この時の神経細胞はその領域全体に散らばっており、光刺激で興奮した細胞がランダムにグループ化されたことを示している。
   次に、このグループの一つの細胞だけを刺激してこのグループ全体が反応するかどうか調べると、予想通りで、グループ全体に反応が及ぶ。また、このグループは次の日も安定に維持される。
   結果は以上で、一見当たり前のことが確認されただけのように思えるが、今後階層とは無関係にグループ化したこと自体の影響を調べたりできるようになると、結構面白い実験系に発展するように思う。
   「脳の自由意志の形成」といったタイトルの論文が出てくるのも時間の問題だ。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月18日:RNAワールド完成へもう一息(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2016年8月18日
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    個人的な話になるが、今17世紀から21世紀の近未来に続く有機体研究についてまとめようとずっと材料を集め、考えを書きとめ続けている。この1年ほどはずっと地球上での生命誕生のシナリオを自分なりに理解できるかについて集中してきた。このときの資料や、考えたことについては現在顧問をしているJT生命誌研究官のホームページに掲載し、ようやく終わったところだ。すなわち、生命誕生が自分の頭の中でシナリオとして描けるようになった。とはいえ、シナリオで考えた一つ一つのステップの実現可能性については検証が必要だ。ただ、嬉しいことに21世紀に入ってこの検証が急速に進んでいると実感を得ている。
   今日紹介するスクリップス研究所からの論文は、生命が複製という能力を獲得する過程の実現性について大きな一歩を記した研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Amplification of RNA by an RNA polymerase ribozyme (RNAポリメラーゼ活性を持つリボザイムによるRNAの増幅)」だ。
   生命の誕生を考えるとき、有機物の持続的生産、閉じた型でのエネルギーの持続的供給、複製、自己性の獲得、シンボル記号性を持つ情報の誕生などが条件として考えられる。このうち複製については、情報と機能が共存できるRNAワールドでまず完成した後、現在の形に変化したと考える人が多い。そしてこのRNAワールドを支える鍵になるのが、RNAポリメラーゼ活性を持ったリボザイムだ。これが完成すると、全てのRNAは複製されるようになる。
   リボザイムがRNAポリメラーゼ活性を持ち得ることは20年も前に報告されている。私もこの論文をもとに、RNAワールドの複製は可能だとしてきた。しかし、RNAワールドのもう一つの条件は、RNAの複雑な3次構造による酵素活性の発現だ。残念ながら、これまで合成されたポリメラーゼはほとんど伸びきったモデルRNAは複製できても、3次構造を持ったRNAを一本鎖へとほどきながら複製するところまではまだまだ至っていなかった。
   この研究では、これまでの研究で到達したRNAポリメラーゼ活性を持つリボザイムの5’端に、合成させたい鋳型RNAとペアリングできるプライマーを結合させる。次にリボザイムのRNAポリメラーゼ活性を使って、鋳型に従って5’端を伸長させ、こうした伸びたRNA部分の立体構造をもとに、正確にポリメラーゼ反応を行ったリボザイムを選択するというサイクルを繰り返して、リボザイムを進化させる。このサイクルを24回繰り返して突然変異を蓄積させ完成したリボザイムについてその活性を調べている。
   こうして進化したリボザイムは、進化前のリボザイムと比べてなんと100倍高い効率のポリメラーゼ活性を持ち、複雑な3次構造をとるRNAも複製でき、収率はまだ0.07%と低いものの、最も複雑な3次元構造をとるtRNAの複製が可能になっている。
  さらに、PCRのように熱を加えて3次構造を物理的にほどく方法を用いると、RNAの増幅も可能で、持続的複製に一歩近づいている。
  今後、さらに長いRNAが複製できるようになり、最後に自分自身を全て複製できるように試験管内で進化させることが次のステップだろう。この研究の重要性は、進化を達成するための選択の方法を開発した点だ。時間はかかっても、ゴールは目の前に見えてきた気がする。    RNAワールド完成が近いことを実感する。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月17日:腫瘍は血管内皮を殺して組織内に侵入する(8月11日号Nature掲載論文)

2016年8月17日
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   ガンで一番恐ろしいのは転移だ。ガン細胞が血管内皮を突き破って血管内に入ると、転移が始まる。そして、血液を流れるガン細胞が離れた組織で成長するためには、また血管内皮を破って組織へと浸潤する必要がある。それぞれの過程の研究は、癌研究の最も重要な分野だ。
   ガン細胞が遠隔組織で血管内皮のバリアーを越えるとき、白血球などと同じように血管内皮同士の接着部位をすり抜けるとこれまで考えられてきた。今日紹介するドイツ・バードナウハイムにあるマックスプランク心肺研究所からの論文はなんとガン細胞が血管内皮を殺して血管に穴を開ける可能性を示す研究で8月11日号のNatureに掲載された。
   タイトルは「Tumor cell induced endothelial cell necroptosis via death receptor 6 promotes metastasis (腫瘍細胞によりDR6を介して誘導される血管内皮のネクロプトーシスにより転移が促進される)」だ。
   この研究は極めて単純だ。試験管内で、血管内皮とガン細胞を混合して相互作用を調べているとき、血管内皮がネクロプトーシスと呼ばれる特殊な死に方をすることに気づく。
  同じ現象がマウス体内でも起こっていることを確認した後、あとはこの特殊な死に方を誘導するシグナル経路を探索し、DR6と呼ばれる受容体を介して血管内皮のネクロプトーシスが誘導されることを発見する。DR6が体内でも働いていることを調べるため、この分子を欠損させたマウスや、あるいはこの分子に対する抗体を注射して転移を調べると、DR6が機能しないと転移が強く抑えられることを明らかにしている。
   最後にこの受容体に結合するリガンドを探索し、アミロイド前駆体が癌に発現して血管内皮のネクロプトーシスを誘導することを、この分子を欠損させたガン細胞が転移しなくなっているという実験から結論している。
   話はこれだけで、残念ながら、人間の臨床例でも同じような分子の発現やネクロプトーシスが認められるのかデータを知りたいところだ。おそらく研究は進んでいるだろう。とはいえ、癌の転移についてこれまで全くなかった新しい視点を示した意義は大きい。
   最後になるが、この研究が行われたバードナウハイムのマックスプランク研究所は血管研究では長い伝統を持っていた。ただ、Werner Risauが亡くなってから低迷していたが、新しい人材をリクルートして急速に業績を伸ばしている。血管研究では今後も目が離せない。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月16日:ヒマワリの秘密に迫る(8月5日号Science掲載論文)

2016年8月16日
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    正直なところ、私は植物のことについてほとんど知らない。論文を読むまで、特定の現象を問題として感じることはまずない。逆に言えば、何を学んでも全て新鮮だ。
   今日紹介するドイツ・マックスプランク分子植物学研究所の論文を読むまで、なぜ「ヒマワリ」が「向日葵」か考えたこともなかった。しかし言われてみるとあれほど大型の植物が、朝から夕方まで太陽の方向を向き続け、また朝になると元の位置に戻っているのは不思議だ。
   例えば気孔の動きやオジギソウのような早い動きは理解できているのだが、確かに向日葵の周期運動は不思議だ。
   この論文は大掛かりな研究では全くないが、少なくともこの不思議に全て答えてくれている点で、夏休みのお父さんやお母さん向けかもしれない。おそらく子供の実験としても可能だろう。論文は8月5日号のScienceに掲載され、タイトルは「Circadian regulation of sunflower heliotropism, floral orientation and pollinator visit (ヒマワリの向日性、花の向き、そして受粉昆虫の概日制御)」だ。
   まず向日葵だが、朝は先端が東に向いており、太陽の動きに従って西向きになる。面白いのは、夜になると今度は自分で西から東に逆に動いて、朝になるとまた東を向いている。この動きをどう説明するかが問題だ。
答えは以下のようにまとめることができる。
1) 向日葵の概日運動は全て植物全体の成長を基礎に行われる。すなわち、早く成長する側がヒマワリ全体の向きを反対の方向へと押す。このメカニズムは成長が完全に止まると使えないため、ヒマワリは成長しきると向日性を失う。また、成長ホルモンであるジベルリンが欠損すると、概日運動はなくなる。
2) この研究では、太陽の青色の光により刺激され、従って発現場所を変える分子2種類を特定し、これにより成長が非対称になることが向日性のメカニズムになっている。
3) 一方夜になると、多くの生物が持っている自発的な概日メカニズムが働き、逆の運動が起こる。
4) 向日性と概日リズムは互いに協調して成長場所を調節し、1日の動きを制御している。
5) 向日性によりヒマワリの花の温度が上昇し、この温度の差を感じて昆虫が引き寄せられる。これは、人工的に花を温めると昆虫が集まることからわかる。
動物の概日周期の研究のように、転写の詳しい変化などはすっ飛ばして全体の動きを説明した研究だが、ヒマワリの1日の動きを知り、それを子供に説明するには素晴らしい論文だ。ぜひ話のネタに使って欲しい。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月15日:低タンパク食とDNAメチレーション(7月29日号Science 掲載論文)

2016年8月15日
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    妊娠中の低栄養が胎児の発生過程で起こるDNAメチル化に影響を及ぼし、生まれた子供がほぼ一生にわたって、代謝などの異常を示すことはよく知られている。特にDutch Famine Studyと呼ばれる、先の大戦終盤にドイツ軍の封鎖による食糧難から深刻な飢えに陥った妊婦さんから生まれた子供たちについての、オランダのコホート研究は有名だ。しかし、この症状の背景にあるメカニズムについて、メチル化異常と一般的に言う以上の説明が得られたわけではない。
   今日紹介するロンドン・メリー女王大学からの論文は、妊娠中の低タンパク質摂取がリボゾームRNA の発現調節機構に影響を及ぼすことを示した研究で7月29日号のScienceに掲載された。タイトルは「Early life nutrition modulates the epigenetic state of specific rDNAgenetic variants in mice (初期の栄養はマウスの特定のrDNA多型のエピジェネティック状態を変化させる)」だ。
   研究ではタンパク質制限(20%)食を受けたC57BL純系妊娠マウスから生まれたオスマウスを対象にメチル化を調べている。期待どおりタンパク質制限により2g程度の体重差が生じる。次にこれらのマウスの精子及び肝臓細胞のメチル化DNAマップを作成し、タンパク質制限により変化する場所の特定を試み、なんと17番染色体上の45sリボゾームをコードするrDNA領域全体にわたって強くメチル化される領域が散在しているのを発見する。
   rDNAは遺伝子が重複して存在しているため、厳密な塩基配列が提供されていないことが多い。このグループは、メチル化により転写が変化することがわかっている上流133pに限定して1000回繰り返して配列を読むという徹底した解析を行い、この場所がタンパク質制限によりメチル化を受ける場所であることを特定している。
   詳細を省いて結果をまとめると、
1) rDNAと共に、この133pの遺伝子発現調節領域も重複しており、純系マウスでもそのコピー数に個体差が存在する。
2) 133pの配列の中の104番目は、それぞれのリピートでC or Aのどちらかに分類される。
3) C型vsA型の比は純系マウスでも個体差がある。
4) 体重と最も相関するのはA型でメチル化されていないプロモーター。すなわち、特異的なメチル化によりA型のp133全体の活性を調節している。
5) このメチル化の影響は、メチル化を調節して転写量を調節するrRNAの発現を調節するノンコーディングRNAを介して行われること。 6) 同じ結果が精子と肝臓の両方で見られること。 になる。    まず驚くのが、純系と言っても大きな個体差がp133領域にあることで、このコピー数は全く個別に増減を繰り返しているようだ。そして、この中のA型の133pプロモーターだけがタンパク質制限によりメチル化され、その結果rDNAのメチル化をガイドするノンコーディングRNAの転写が低下、これが長期間にわたるメチル化パターンの維持に関わり、体重減少につながっているという結論だ。    これまでの論文と比べると、メッセージは明確でまた面白いが、もちろんなぜ体重減少が起こるのか説明するにはまだまだ研究が必要だ。だがこの分野の一つのトレンドを形成するような気がする。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月14日:骨から泥へ:新しいゲノム考古学(8月10日Natureオンライン版掲載論文)

2016年8月14日
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     古代の骨からDNAを取り出し塩基配列を解読することが可能になり、ゲノムデータに基づいて当時の人間の生活、関係、移動を解明する新しい考古学、あるいは何万年も前に絶滅した動物のDNAから進化を再検討する新しい系統学が急速に進んでいる。
   最近この分野の論文を読んでいると、ドイツ・ライプチッヒの人類進化学研究所と並んで、コペンハーゲン大学に属する自然史博物館のグループの存在が目立つように思う。一方、少なくともトップジャーナルを見る限り、我が国のプレゼンスは低く、テコ入れが必要な分野ではないかと思う。
   今日紹介するのもコペンハーゲン自然史博物館からの論文で、人類のユーラシア大陸からアメリカ大陸への移動ルートについての研究で、Natureオンライン版に8月10日掲載された。タイトルは「Postglacial viability and colonization in North America’s ice-free corridor(氷河期以後の北米の氷が消えた回廊の生存可能性と植民)」だ。
  この研究の背景から説明しよう。
  北米の原住民は全てベーリング海峡を渡ってユーラシア大陸から移動してきたことがわかっているが、移動ルートについは諸説存在している。これまで最も有力なのは、アラスカからカナダ全域を完全に閉ざしていた氷河の一部が、1.3万年前に東西に後退して人が住める回廊が形成され、このルートを通って移動したと考える説だ。
   ところが、最近の考古学的研究から、氷河が後退する前からすでに人類がアメリカに渡っているという証拠が出てきて、太平洋沿岸の海岸線を伝って人類が移動したとする説が有力になっている。
   しかし、様々な氷河がいつ後退し、植物が成長する環境が生まれたのかを同位元素のデータだけから推察することは困難で、論争は現在も続いている。
   この研究では、氷河が後退し生命が活動した時期を、比較的長期間保存される花粉、化石、微小化石、そしてその時蓄積されたDNA解析など考えられる全ての技術を総動員して特定している。
   具体的にはこの回廊での氷河の後退で形成された氷河湖の堆積物をボーリングで採取、炭素同位元素による年代測定で1.2-1.3万年前の土の中に残る生命の痕跡を探している。
   詳細は省くが、この研究から得られた結果は以下のようにまとめられる。
1) DNAの配列解析から得られる生命の痕跡は、残っている花粉のデータと一致し、今回採用した方法により各年代の生物相を推察することが可能であること。
2) 花粉による性生殖の始まりの遅いポプラなどは、花粉よりDNA解析の方が正確に当時の生息状態を反映している。
3) ポプラの存在は、火を得るための木材が存在したことを示すこと。
4) 化石として見つからなくとも、DNAの解析から、鹿やハタネズミなどの哺乳類、食物連鎖の上位に位置するカマスやワシなどの存在を確認できること。
5) そしてこれらの痕跡は全て1.3万年より後に起こっていること。
   この結果は、アメリカ大陸の最初の人類には回廊を使うことは不可能で、ほぼ全て海岸線を伝って移動してきたグループの子孫で、これまで回廊とされてきた領域でで発見される人類や動物の痕跡は、南下に成功した人類の一部が、北へ再移動した結果を見ているのだろうと結論している。
      今後古代の堆積物に残る生命の痕跡研究が盛んになることを予感させる面白い研究だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月13日:SLEのIL-2による制御(8月8日Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2016年8月13日
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    私がまだ臨床にいた頃、自己免疫疾患といえば患者さんの病気を進行させないよう副腎皮質ホルモンを加減することしか方法はなかった。臨床を離れたので効果を実感することはないが、その後TNFやIL-6など炎症のエフェクターとして働いているサイトカインに対する抗体療法が現れ、病気によってはほぼ制御可能になったとすら言えるようになっている。
   自己免疫疾患制御のためにもう一つ期待されている治療法は、現在大阪大学の坂口さんが発見した抑制性T細胞(Treg)の活性を高めて炎症反応を抑える方法だが、多様な種類のT細胞が同じ抗原を軸に相互作用している複雑なネットワークに介入するのは、エフェクター分子を標的にするのに比較して難しい。そんな中で比較的単純な方法と期待を集めているのが、比較的低い量のIL-2を使ってTreg活性を選択的に高める方法だ。Tregが高いレベルのIL-2受容体CD25を発現していることを考えると論理的な方法に思える。
   今日紹介する北京人民病院とオーストラリアモナーシュ大学からの論文はこの方法を最もメージャーな自己免疫病SLEで試した研究で8月8日発行のNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Low-dose interleukin-2 treatment selectively modulates CD4+T cell subsets in patients with systemic lupus erythematous(低濃度IL-2治療はSLE患者のCD4+T細胞のサブセットを選択的に変化させる)」だ。    研究では40人のSLE患者さんに比較的低い濃度のIL-2を皮下投与、2週間のコースを3回繰り返すプロトコルを施行している。そして、承諾のとれた23人について、詳しいT細胞サブセット検査を行い、低濃度 IL-2がCD4要請細胞だけに作用し、結果としてTregが上昇し、炎症性のT細胞は減少することを確認している。    2人が脱落して計画どおり最後まで治療を終えた患者さんは38人だったが、90%が病状の改善を示し、この結果、これら90%の患者さんでは副腎皮質ホルモンの投与量を減らすことに成功している。
   また、白血球減少に悩んでいた患者さんの90%以上で、白血球数が正常化し、また血小板減少症を示す患者さん全員がやはり正常化している。最後に副作用も、注射部位の発赤や風邪用症状程度で、問題ないことを示している。
   以上結論的には、期待どおりTreg増加による自己免疫病治療が可能であることを示す結果で、是非さらに長期で大きな規模の治験を進めて欲しいと思う。また、T細胞サブセットのデータから見ても、SLEだけでなく、臓器移植で免疫抑制剤を減らすのにも使えるのではという印象を持った。
   臨床への登場が遅れていたTregの利用がゆっくりではあっても進んでいることがわかる研究だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

8月12日:ウイリアム症候群を試験管で再現する?(8月10日Natureオンライン版掲載論文)

2016年8月12日
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   一般の方に限らず、生命科学の専門家でもウイリアムズ症候群について知っている人は少ないだろう。しかし、自閉症や言語を考えるときこれほど示唆に富む病気はない。この病気は第7染色体の7q11.23領域の25遺伝子を含む1.6Mbの欠損が原因と考えられる精神発達障害だ。症状は自閉症の逆で、「誰からも愛され、誰をも愛する」と表現できる高い社会性を示し、好奇心旺盛、顔を覗き込んでくるほど顔に興味を示す。また驚くほど多弁で子供とは思えないボキャブラリーを獲得している。これだけ聞くと天才ではないかと思えるが、実際はこれらの能力が個人の人格とは全く無関係に発達している点が問題で、普通知能の発達は遅れ、社会性は高いように見えても怒りの感情を理解できないなどの感情障害も見られる。
    私自身は、1)言語能力が人格とは無関係に形成されること、2)発症に関わるいゲノム領域が特定されていること、3)さらに同じ領域の重複で今度は自閉症が発症すること、などから、言語を理解するために最も重要な病気の一つだと思っている。
   今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はこのウイリアムズ症候群の神経細胞機能異常を試験官ないで再現しようとした試みでNatureオンライン版に8月10日掲載された。タイトルは「A human neurodevelopmental model for Williams syndrome (ウイリアムズ症候群の発生モデル)」だ。
   この研究では典型的なウイリアムズ症候群(WS)と、遺伝子欠損部の小さい、症状が軽い非典型WSからiPSを作成、神経を分化させた後明らかに遺伝子発現が低下している分子を探索し、神経細胞の増殖に関わるWntの受容体FZD9の発現がWSだけで低下していることを発見する。FZD9はWSで欠損する領域に含まれており、非典型WSでは欠損していないので、この結果は妥当だが、実際に神経細胞で発現が落ちているのはFDZ9だけでなく、もともと重要だと考えられている転写因子GTF2iも同じように低下しているので、研究しやすいFZD9から取り組んだと考えるほうがよさそうだ。
   ただ試験管内で誘導した正常神経幹細胞のFDZ9発現をshRNAで低下させる実験から、WSの神経細胞異常がFDZ9の異常かどうか特定できる。この結果、WS神経細胞で見られる細胞死の亢進はFDZ9によるもので、Wntを刺戟する化合物で元に戻せることを明らかにしている。また、MRIによる解析からWSの脳の皮質面積が低下していることを示し、この異状はFDZ9の発現異常によるのではと提案している。
  残りの実験は、WSと健常者の神経細胞の比較で、WSでは樹状突起が長くなり、スパインと呼ばれる神経接合が増えることをiPS由来神経細胞で確認できること、また同じ異常をWSの死後解剖脳の組織から確認できることを示しているが、これらの異常がFDZ9異常によるかどうかは全くわからない。
   まとめると、「WS症候群からiPSを樹立して研究することで、神経細胞レベルの様々な異常を再現できる。またWS患者の皮質の細胞数減少はFDZ9発現低下による細胞死の更新が原因かもしれない、」になるだろう。
   私は個人的にWSに強い興味を持っているため、一貫性がない研究に思えてしまうが、分子だけでなく細胞レベルで異常を調べることが重要なことは間違いない。WSで変化する遺伝子はあと20個は残っているようだ。注目されているGTF2iも含めて一個一個の遺伝子の細胞学的機能を明らかにしてほしい。
カテゴリ:論文ウォッチ
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