肥満は様々な代謝病だけでなく、多くの病気に直接間接に関わることが知られている。例えばようやく収束の兆しが見えてきたCovid-19でも、感染率、重症化率ともに、肥満の人が多い。ただ、この原因についてはわかっていない。一方、乳ガンも肥満により促進されることがわかっているが、閉経後の女性で肥満によりエストロジェンが上昇することが知られており、これが最も重要なメカニズムだと考えられている。
同じように代謝に最も関わるすい臓ガンについても肥満がリスクファクターであることが知られており、インシュリンやインシュリン様増殖因子などがすい臓ガンの増殖を助けることが示唆されてきた。今日紹介するMITからの論文はこれまで想定されてきた増殖因子とは異なる分子が肥満とすい臓ガンを結びつけることを明らかにした、ちょっと考えると恐ろしい研究で5月14日号のCellに掲載された。タイトルは「内分泌―外分泌シグナルが肥満と相関するすい臓ガン発生を促進する」」だ。
この研究ではレプチンが欠損したob/obマウスを用いているので、一般的肥満との関係があると決めていいのかどうかはわからないが、自然膵臓ガン発生マウスとかけ合わせると、驚くことにガンの進行が1.5倍ぐらい早くなる。逆に、レプチン遺伝子をアデノウイルスベクターを用いて発現させると、すい臓ガンの発生が半分ほどになる。
この差について、様々な可能性を検討した結果、これまで示唆されていた様な炎症、インシュリン、IGFなどの直接関与は認められず、最終的にsingle cell transcriptome解析の結果、普通は膵臓では発現していない腸内ホルモンの一つコレシストキニン(Cck)が膵島で発現することを発見する。
あとはβ細胞にCckを発現するマウスを作成し、今度は肥満とは関係なく、膵臓ガン発生が促進されることを示している。
なぜ肥満によりCckの発現が上昇するのかについては、肥満によるマクロファージが分泌するPDGFがCckを誘導する可能性などを示唆しているが、明確にはなっていないといえる。しかし、人間の膵島でも肥満の人ほどCckの発現が高いことを示しており、もともとCckは膵液分泌誘導にも関わっていることから、慢性的にCckが分泌され続けることによりすい臓ガンリスクが高まることは納得できる。
結果は以上で、Cckだったという点で少し拍子抜けだが、しかし肥満が万病の元であることはわかった。ただこれがわかっても、なかなか肥満からは抜け出せない。