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ポストコロナを支える技術:隠居の無責任な独り言 1

2020年5月6日

昨日年甲斐もなく頭に血が上ったせいで、隠居の身を顧みず、ポストコロナを支える技術について最新の状況を説明すると言ってしまったので、2回にわけて私が面白いと思った技術を紹介してみたい。1回目は、公衆衛生、診断についてで、2回目は治療についてだ。適当に論文のタイトルをペーストするが、他にも多くの論文があることを前もって断っておく。

さて医療で重要なのは、早期発見、リアルタイムの実態把握、治療資源の集中投入だ。当然公衆衛生でも同じだが、政策を伴うので、データをわかりやすく翻訳して政府に進言することが必要になる。全国レベルで資源の集中投入などあり得ないことを考えると、全国一律に緊急措置を出したにせよ、同じ対策を全国に強いることは間違いだ。

都市のロックダウンが馴染むかどうかは別として、もし感染が始まったら、問題のある対象地域を特定し、そこに資源や人を集中させることが重要になる。現在医療崩壊の危機が訴えられているが、集中のためのプランがなく、全国一律に同じペースでクラスター探しや、隔離政策を進めてきた結果だと思う。

いずれにせよ、ここでは収束後を考えている。今回の学習をもとに、第二波に備えて、集中的に資源を投入すべき地域を特定して(これに科学が必要だ)、そこに人や資源を投入できる体制を構築し直さなければならない。しかし第二波に備えるにしても、武漢のように1000ベッドの感染症専門病院を我が国で用意することは、大都市圏以外は難しい。すなわち、緊急時への備えをどの規模でやるか様々なアイデアが必要になるだろう。一つヒントになるかなと思うのは、以前訪問して印象に残った、レバノンからのミサイル攻撃に備えて、病院の地下駐車場がいつでも病室に変換できるようパイプを張り巡らせていたHaifaの病院だ。(http://jerusalemworldnews.com/2012/06/08/worlds-largest-underground-hospital-opens-in-haifa/)。日本では戦争に備えることはないと期待できるので、地上の駐車場改造で十分だ。これは一例だが、これまでベットの回転率だけを重視してきた厚労省の方針は見直されるだろう。ただ、緊急時に向けた用意を最小コストで行う工夫を早急に議論して間違っても平時には使わない病院を林立させるのはやめてほしい。そして余裕のための資源の管理は、国レベルの備蓄として準備することで、資源の集中投入のための準備を整えてほしい。

いずれにせよ緊急状態は、場所と時期両方の把握が重要で、これが的確に行える備えが必要になる。私には専門外の資源の集中についての議論はこのぐらいにして、早期発見、現状把握についてみていこう。

今回初動の遅れが問題になっているが、専門委員会のメンバーの中には極めて早い時期のロックダウンの必要性を示唆していた人がいたと聞いている。すなわち、今回我が国で初動が遅れた原因は、科学でもなんでもなく、科学者と政治家の関係の未熟さに尽きる。しかしそれでも、はっきりとしたデータがあれば安倍内閣や役所でも決断できたかもしれないし、あえて決断しない場合も科学データを無視したというはっきりとした証拠が残る。

したがって、初動のための早期感染検出法の開発は必須だ。新型コロナ第二波の場合、相手がわかっているので、外国から感染が持ち込まれる場合は、国際協調による情報の収集と、検疫が重要になる。ただ、入国時に全員検査をしたり、入国後14日間隔離などと言った方法は平時には取れない。したがって、飛行機の場合は乗る前に感染していないこと、あるいはすでに感染して抗体を持っていることを迅速に検出し、個人や旅行会社に通知するシステムが必要になるだろう。このような迅速な方法については現在続々開発が進んでおり、いずれも1時間以内に診断できる。費用は飛行機のサーチャージと同じでもちろん個人持ちになる。

このような検査は常に偽陰性や感染経過による検出ミスがつきまとうが、100%を追い求めても意味がない。この時、個人の検査だけでなく、飛行機、あるいは空港といった領域にいた人たちの感染状況を、トイレの下水などを利用してより厳密な方法でモニターすることは役に立つ。飛行機ではないが、居住地区の下水でモニターする可能性については((https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12703))論文を紹介した(以下の論文)。

https://aasj.jp/wp-content/uploads/bbb3bc791018d4a9d637b67b87be5a59-1024x457.png

幸いコロナウイルスの断片なら便に排出されることがわかっているし、また無機物の表面中に数時間は存在している。おそらく下水だけでなく、室内の空気をエアートラップ採取してもモニターができるだろう。この場合個人の検査と違って誤診は許されないが、アラートが出ることで、市民の注意を喚起できる。

ただ我が国での流行状況を考えると、新型コロナの第二波は国内から起こる確率が高い。この場合、できるだけ早く感染流行が始まる場所と地域を特定することが重要になる。現在このモニタリングは病院を訪問した時の診断で行われる。ただ、これ自体が感染を広め医療崩壊を招くという懸念が今回よくわかった。従って、ここが工夫のしどころで、収束後も感染が疑われる患者さんの動線をできるだけ分離する発熱外来の維持と、迅速な検査体制が必要になる。しかし個別の受診から感染地域の特定まで、大きな時間のズレが生じる可能性がある。

これを補うのがウェッブ検索や、SNSでの会話に出てくる単語のモニタリングだと思う。例えばずいぶん昔になるが「疫学はWiKi学になる?」と紹介した論文(https://aasj.jp/news/watch/1429)では、インフルエンザ流行をほとんど1日程度のずれで察知できることが示されている。

また最近も、嗅覚や味覚がなくなることに関わる検索数が新型コロナ感染数とリアルタイムで一致しているという報告を紹介したが、SNSのモニタリングは、特定領域で感染症が始まっていることを知るアラートとして大いに役立つ(https://aasj.jp/news/watch/12806)。要するにビッグデータに基づくアラート体制を取ることが重要だ。

とは言え、この方法で病気の特定は不可能だ。その時は、先ほど紹介した下水や環境のモニタリングを組み合わせて、リスク評価をすることが重要だ。

さて、感染がキャッチされれば、感染状態の正確な把握は政策にとって必須になる。我が国ではいまだにPCR数についての議論が続き、4日の緊急事態延長宣言では、PCR数増加を阻む目詰まりについて問い詰められた委員会や政府が責任転嫁をしている有様だが、感染状況の把握をおろそかにしたことを反省すべきで、PCR数の増加の問題ではない。いずれにせよ、収束後同じ問題が再燃しないよう手を打つ必要がある。

今回十分学習したので、収束後は各診療単位で疑われたケースは速やかに検査を行うということに支障はないだろう。さらに、SNSのモニタリングや下水のモニタリングも組み合わせて感染の広がりを把握できるようになる。また、地域でのランダムサンプリングによるウイルスや抗体の検査による状況把握もできるだろう。

この時必要な技術が、現在議論の的になっているPCRかどうかは考えておく必要がある。第二波が新型コロナウイルスと決まっておれば、より迅速な方法が必要になるだろう。保健所のキャパシティーなどというボヤキが出ない方法を定着させることが重要で、例えばサーマルサイクラーを使わない技術など、理研林崎さんの方法も含めて目白押しだ。他にも国立感染研の開発した技術もある。

しかし、これらの技術は多くのウイルスを同時に検出したり、あるいは将来増幅が必要ではない方法への発展性に問題がある。個人的には以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/12887)、クリスパーを用いる技術に期待している。

https://aasj.jp/wp-content/uploads/67496e6ffb6945580a92cf39ba867909-1024x369.png

上の論文はまだ、新型コロナウイルスの検出法としてクリスパーを使うという話だが、可能性のあるウイルス全体に網をかけて検出するという可能もすでに議論され、一つの方法がNatureに発表された。

ガイドRNAだけを増やせば病原性ウイルスを一網打尽に検出できることから、新しいウイルスが発生しても、ゲノムデータがあれば、迅速に対応できる。

このように、ポスト・コロナについて言えば、新型コロナウイルスの第二波だけではなく、新しいウイルスにも対応でき、しかも迅速診断可能な技術が必要だが、多くの技術がすでに実用可能になっている。PCRが少ないという批判がトラウマになって、ただただPCRにこだわって将来を計画するのではなく、どの技術を選ぶのか今から議論することが必要だと思う。

これまでの議論は全て、従来の公衆衛生政策の効率化、すなわちトップダウンの政策の延長として考えてきたが、ここで大きな発想の転換をして、ボトムアップの公衆衛生が可能かを考えたら面白いと思う。というのも、感染症の場合、感染者も健常人も全て「Stay Home」が原則になる。とすると、Homeで病気を判断できるようになることが究極の解決になる。

遠隔診療が解禁された今こそこの転換のチャンスだ。おそらく感度は問題だとしても、ウイルス抗原検査なら自宅でもできるようになるだろう。またどこででもできるウイルス検査法の開発競争は凄まじく、選択肢は大きい。

自宅でウイルス診断をすると最初からゴールを定めればリーズナブルなコストの検査が可能になるように思う。さらにAIも駆使して、かなりの判断が自宅で可能になり、遠隔医療で医師に相談できるとともに、そのまま公衆衛生プラットフォームにデータが蓄積できれば、ボトムアップの公衆衛生が可能になる。このような仕組みは、かかりつけ医制度の再構築という厚労省の目的にも合う。

ボトムから感染症に対応する仕組みは、我が国にゲノムサービスなどの新しいチャンスももたらす。たとえば、コロナ感染や重症化と相関する遺伝子は必ず明らかになってくる。前に紹介したように個人のHLAタイプからT細胞免疫を予測する方法も開発されている(https://aasj.jp/news/watch/12923)。他にもコロナウイルスの感受性に関して多くのゲノムデータが集積するはずだ。このようなデータを自覚症状リストなどと統合して、個人の判断をより正確にすることは可能だ。

このような話をすると、「自宅では難しい、不正確だ、偽陽性をどうするのか、プライバシー侵害」と言った批判が専門家から湧き上がる。しかし、感染症という隔離が必要な「個人の病気」は、新しい仕組みを必要としている。

我が国でも、検診データ、服薬記録など、様々な個人医療データを統合する仕組みができつつある。まだまだ入り口とは言え、遺伝子検査サービスを受けた人たちも数十万人いるのではないだろうか。米国では2千万人に上っており、我が国でも必ず同じようになる。とすると、思い切って感染症も、社会問題としてだけでなく、個人の問題として解決する方法を模索することで、感染症でも医療に対する満足度が高まり、新しい医療システム構築すら可能になる気がする。

次回は治療とワクチンを取り上げ、感染の恐怖を医療を通して解決する方法を考えてみたい。

5月6日 着実に進むガンゲノムのカタログ化(3月号 Nature Genetics 掲載論文)

2020年5月6日

少し紹介が遅れたが、3月号のNature Geneticsでは、これまで積み上がったガンゲノムや様々なオミックスデータを、様々な視点から整理し直す論文が掲載されていた。タイトルを拾うと、1)ガンで見られるクロモスプリシスのゲノム配列解析、2)ガンのミトコンドリアゲノム、3)ガンに見られるクロマチンの異常、4)ガンで見られるレトロトランスポゾンの遺伝子再構成、そして5)ガン関連ウイルスのゲノム解析だ。

国際コンソーシアムでは、ガンの原因になる全ての変異とその意味をカタログ化することを目指しており、今も収集されるガンゲノムの数は増えていっているが、今回一度に公開された論文は、このカタログの索引を作るための試みと言っていいだろう。カタログを使うためには最も重要な作業になる。

今回はこの中からドイツガンセンターを中心に集まった国際コンソーシアムによるガンウイルスについての研究を紹介する。タイトルは「The landscape of viral associations in human cancers (ヒトガンに関わるウイルスのカタログ)」だ。

研究では2558人のガンサンプルと正常組織の全ゲノム解析、およびガンのトランスクリプトーム(遺伝子発現マップ)を行い、この中から発ガンと関わりそうなウイルスゲノムを、いくつかのアプリケーションを用いて拾い出し、カタログ化することが目指されている。

結論的に述べると、特に新しいことは報告されていないと思う。すなわちそれぞれのガンについて発ガンとウイルスの関係が詳しく研究されており、全ゲノム解析を導入したことで何かが急に変わるわけではない。ただ、カタログの索引を作ったという面では高く評価できると思う。

詳細を省いて個人的に面白いと思ったことだけ列挙しておく。

  • どうしても関係のないウイルスゲノムがサンプル処理の間に入り込む。これをモニターするため、サンプルが処理された日付を記載しておけば、コンタミの場合、サンプル調整日時と関連することがあるので特定できることがある(極めてハイテク研究だが、ローテクの工夫も重要ということ)。
  • 13%のガンで23種類のガン関連ウイルスが発見できる。このなかでトップ3は、EBウイルスの仲間、B型肝炎の仲間、そしてパピローマウイルスで、これまでガンウイルスとして最も研究が進んでいる。
  • マウス乳がんで有名なMMTVは腎臓がんで1例だけ発見されたが、人間のガンウイルスとしての危険は少ない。他にもCMVやRoseolovirusのようにヒトガンとの関係が疑われたウイルスは多いが、今回の研究では従来指摘された可能性は否定できる。
  • B型肝炎ウイルスはほとんどの肝臓ガンと関連しており、CTNNB1, TP53, ARID1Aの変異が同時に見られる。このような特定の変異との共存はパピローマウイルスでも見られる。
  • 内因性のレトロウイルスの活性化の検出は難しいが可能で、腎臓がんのように予後と強い相関が見られるケースがある。
  • ヒトパピローマウイルスのようにゲノムに挿入され発ガンに関わるウイルスとガン遺伝子の関わりのカタログ化ができるが、特定の遺伝子発現への影響だけでなく、例えば挿入部位前後で遺伝子変異が高まることが認められ、今後重要な課題になる。
  • 全く新しいガンと関連しそうなウイルスがいくつか特定されたが、特定のガンに関わるものは見つからない。

繰り返すが、基本的にはこれまでわかっていることが確認された研究だ。ただ、今回集まった数種類の索引は、ガンゲノムを理解するガイドとして役立つことまちがいない。

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