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5月16日 ホモ・サピエンスのヨーロッパへの移動(5月11日 Nature オンライン掲載論文)

2020年5月16日

素人考古学の楽しみは、いろんなストーリーを勝手に想像することだ。JT生命誌研究館の顧問をしていたころ、言語の発達について自分なりに考えブログにまとめたことがある。その内容は今このHPに引っ越してきているが(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954 :JT生命誌研究館サイト https://www.brh.co.jp/salon/shinka/2018/post_000004.php )、この長い考察の中で、なぜ言語の発生時期を5万年と考えるかについての私の勝手な想像を書いた。勝手な想像だが、それまで中東で10万年もの間接して暮らしていたホモ・サピエンスとネアンデルタールの間の均衡が壊れ、ホモ・サピエンスが急速にユーラシアに流れ込んだ時期を4万5000年くらいとすると、この均衡を破ったのがホモ・サピエンスで、いち早く言語が誕生したからではないかと考えた。

いずれにせよ、ホモ・サピエンスがヨーロッパに移動を始めた時期には、明確にホモ・サピエンスとネアンデルタール人の優劣がついた時期なので、それが身体的なものなのか、文化的なものなのか最も興味深い時期なのだが、この時期(後期旧石器時代)のホモ・サピエンスの遺跡は意外と少く、人類学研究の喫緊の対象となっている。

今日紹介するライプチヒのマックスプランク人類進化学研究所を中心とする国際チームからの論文はブルガリアのBacho Kiro Caveで発見された人骨をはじめとする様々な遺物の分析から、この遺跡ががヨーロッパ最古のホモ・サピエンスのものであることを示した研究で5月11日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Initial Upper Palaeolithic Homo sapiens from Bacho Kiro Cave, Bulgaria(ブルガリアBacho Kiro Caveから出土した後期石器時代はじめのホモ・サピエンス)」だ。

この発掘では地層を何層にも分けて発掘と年代測定を行い、またそこから出土した骨の形態、DNA解析、そして石器の分析などを全て行い、まさにこの洞窟がホモ・サピエンスがヨーロッパへ移動してきた4万7000年から4万3000年を代表するヨーロッパ最古のホモ・サピエンス遺跡で、シベリアUst’-Ishimと並んで、ホモ・サピエンスのユーラシア移動を理解するカギになることを示した。

結果だけをまとめると少しそっけないが、広がりのある発見だ。まず、この民族はすでにヨーロッパには存在しないミトコンドリアグループに属し、肉食獣とも戦うだけのスキルを身につけていた。

そして何よりも石器から、旧石器時代後期のオーリニャック文化とは異なり、旧石器時代の初期に移行的に見られる石器に近いが、旧石器時代中期のルヴァロワ石器とも異なることを示している。面白いのは、ネアンデルタール人のシャテルペロニアン石器とも似ている点で、おそらくネアンデルタール人が移動してきたホモ・サピエンスから学習したものではないかと議論している。

この様に、ヨーロッパに移動したばかりのホモ・サピエンスの遺跡から、言語や音楽に関わる遺物が見つからないか、スリリングな研究が続きそうだ。最後の方でオーリニャック文化など専門用語が出てしまったが、このあたりの研究を楽しむには石器についてもある程度学ぶことをお勧めする。私が辞書がわりに使っているのは以下に示すJohn Sheaの本で、キンドル版もある。

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