2020年10月15日
今回の新型コロナウイルス・パンデミックでは、メディアやSNSを舞台に、医師や科学者たちの様々な議論が飛び交い、現在もマスクやPCRについての議論が続いている。しかし、この議論から本当に新しいコンセンサスが生まれるかどうかは疑問で、例えばBMJ Global Health に発表された南カリフォルニア大学からの論文では、CNNを贔屓にするアメリカ人は、Foxニュースを贔屓にするアメリカ人よりマスクを着用し、手洗いも頻回にすることが示されている。すなわちこれらの問題に関する考え方が、米国の大統領選挙では政治的立場の象徴として国民を二分している。
私個人の意見を問われれば、最終的に何が正しいかどうかきめるためには、皆が合意できる科学的エビデンスが必要だが、それがはっきりしない以上、原理的に良いと思われることはその効果に限界があっても、なんでもやればいいと思っている。例えばウイルス感染は確率問題で、それぞれの地域に存在するウイルスの流通量により、感染確率や感染時のウイルス暴露量が影響される。とすると、自分の感染は予防できなくとも、他の人にうつさないという点で、私の飛沫の一滴でもマスクで吸収できれば(実際にはもっと多く吸収できる)流通ウイルス量の減少に貢献できると思っている。PCRも同じで、連日検査を受けていた(実際には簡易検査だったようだが)トランプが感染してしまったとしても、確定診断の方法がない以上、希望者にはいつでも検査ができるようにするしかないと思う。要するに、いいと思えることはなんでもやればいい。
同じことは、政策レベルの判断でも言える。よく言及されるのが、スウェーデンと他のヨーロッパ諸国の比較だろう。最新号のScienceにコレスポンデントの一人Gretchen Vogelが「Sweden’s Gamble」という記事を発表した。
皆さんもご存知のように、スウェーデンは新型コロナに対して、他のヨーロッパ諸国のようにロックダウンなどの過激な感染防御措置をとらずに、個人の自主性に任せる政策を貫いた。図はSTATISTAと呼ばれるサイトから転載したスウェーデンの感染者数の変移だが(https://www.statista.com/statistics/1102193/coronavirus-cases-development-in-sweden/ )
ロックダウンなど厳しい措置を取ったヨーロッパ各国と比べて、感染者が一方的に増えたわけではなく、第一波、第二波と同じような経過をとっている。強いていえば我が国のパターンに近い。ある意味でロックダウン政策の無力を示すことになるが、この政策は本当に成功したと言っていいのかと、Vogelさんはスウェーデンでこの政策に反対の声を上げ続けた科学者を紹介しながら、疑問を投げかけている。
この記事でも、スウェーデンの最初のピークで多くの死者、特に高齢者の死亡例が発生したことは、反省されるべきではと指摘している。そして、ここに書かれた実態をより詳しく分析した研究が先週Nature Communicationにオープンアクセス論文として発表された。
スウェーデンは医療記録がしっかりしており、今回のパンデミックで死亡した各個人のデータが保存されている。この研究では、スウェーデンでの第一波のピーク時、5月7日までにCovid-19で亡くなった全症例を詳しく調べ、年齢、性別、そして様々な社会的階層の指標との相関を調べている。これまで指摘されていたように80歳以上の死亡率が42.5%と高い。しかしこれほどではないにしても我が国の80歳以上の死亡率は28.5%で、医療制度などの違いで高齢者の致死率が高いという一般傾向がすこし拡大したと考えてもいい。
この論文の最大の驚きは以下の図に凝縮されている。
図右は高齢者の死亡率で、Covid-19と他の理由による死亡を比べると、経済格差や教育格差との相関にそれほどの違いはなく、老後のケアは貧富の差なく行き届いていることを示している。
ところが現役世代で見ると(左図)、教育格差、経済格差が高い死亡リスクに直結しており、今回の新型コロナ感染がスウェーデン社会の問題を浮き彫りにしていることがわかる。すなわち、現役世代ほど格差が激しい。同様に、世代を問わず、移民の死亡リスクが高いことは、移民が本当の意味でスウェーデン社会に溶け込めていないことを示している。
以上のように、一つ一つの政策には必ず光と影があり、感染状況を把握するパラメータが限られている以上、感染機会をできるだけ減らすことを目標にしてその時その時の政策を決める以外に方法がない。従って現時点で一番重要なことは、できるだけ多くの記録を残して、この論文のように後から評価できるようにすることだと思う。是非新型コロナウイルスがあぶり出す我が国の社会問題を冷静に分析してほしいと思う。
2020年10月15日
私たちの脳の中で自然に発生している周期的な興奮が存在し、重要な機能を果たしていることが続々明らかになってきた。例えば聴覚野に発生している30Hzの興奮周期が一種のメトロノームの様な働きをしていることを示した論文を以前紹介した(https://aasj.jp/news/watch/13898 )。さらに、この様な周期的興奮が一定の領域で同期して起こるだけでなく、領域内を波の様に伝播するケースも見つかってきた。
今日紹介するソーク研究所からの論文はマーモセットの中側頭葉に存在する視覚領域に見られる上部から下部にかけて周期的に伝播する興奮の波の機能について調べた研究で10月7日号のNatureにオンライン掲載された。タイトルは「Spontaneous travelling cortical waves gate perception in behaving primates (自発的に伝播する皮質の興奮波は行動中のサルの知覚の閾値を決める)」だ。
この研究は最初から感覚野全体を伝播する興奮の波が存在し、これが感覚の敏感さを決めているという仮説を確かめるというコンセプトを証明するために計画されている。従って、最も重要なのはこの自発的興奮波の存在をキャッチすることになる。
まず中側頭視覚領域をカバーするクラスター電極を生きたマーモセットに設置し、一本一本の神経細胞活動を記録するとともに、電極の周りのシナプス電流を測ることで、一定の領域の一種の脳波を同時に記録できる様にしている。この一定の領域の電圧を同時記録するのは難しい課題だった様だが、極めて複雑な神経活動の組み合わせの中から、広い周期に渡って興奮を統合することで、見事に中側頭を上から下に伝播する波をとらえることに成功している。
この波の山と谷で各神経の興奮スパイクをカウントすると、波の山で高く、谷で低いという関係が確認でき、この波がそれぞれの領域の神経の興奮の閾値を決めていることがわかる。すなわち、この領域の神経の閾値は、自発的に発生する興奮波により決められていることがわかる。
以上を確認した上で、コントラストが低く感知が簡単でないサインが視覚に現れた時、そちらに視点を移せるかどうかを調べている。この時サインがどの神経細胞を興奮させるかの位置関係が決まっているので、サインが現れた時興奮する神経は波の山にあるのか谷にあるのかわかる様に実験が組まれている。結果は期待通りで、波の山に対応する神経が存在する時に、よりうまく認識できる。
この結論を確かめるために、認識の成功確率を対応する神経が波の位置から予想できるかなど様々な実験を繰り返しているが割愛していいだろう。要するに、自発的に中側頭視覚野に発生する興奮の周期的伝播により、局所の神経細胞の興奮閾値が決められ、興奮性が高いと感覚は研ぎ澄まされ、興奮性が低いと感覚は鈍るという話になる。
この興奮の波はミエリン化していない神経伝達の速度と一致しているので、おそらく皮質神経をつなぐ水平軸索により伝播すると考えられ、新皮質共通の特徴と言える様だ。しかし、なぜこの様な感受性のアップダウンの波が必要なのか、そこが一番知りたい。
2020年10月14日
新型コロナウイルス(CoV2)に対する抗体反応に関するデータが集まってきだした時、多くの研究者が「免疫反応が普通とは違うな」と感じたと思う。まず発症後の血中抗体価を調べると、IgMとIgGがほぼ同じ様な時間経過で検出される(https://aasj.jp/news/lifescience-easily/13057 )。さらにスパイクタンパク質に対して使われた抗体遺伝子を見ると、多くがgerm line型で、突然変異の蓄積による成熟過程が見られない(https://aasj.jp/news/watch/13476 )。そして、分離された抗体のなかにかなりの比率で自己組織に反応する自己抗体が存在する(https://aasj.jp/news/watch/13963 )。
最初論文を読んだ時、いずれの特徴も新型コロナウイルスに対する抗体が出来やすい良い傾向ではないかと思っていた。しかし、この背景にCoV2に対する異常な免疫反応様式があることを示す同じ趣旨の論文が相次いで発表され、免疫の複雑さに驚くことになった。
最初はハーバード大学からの論文で筆頭著者はKanekoさんでおそらく日本の方だろう。
この研究では新型コロナ感染により死亡した患者さんの剖検時に採取した胸部リンパ節と脾臓組織を調べ、「胚中心」と呼ばれる構造が欠損していることを発見する。「胚中心」とは、記憶T細胞とB細胞が、特殊な樹状細胞の周りに集まり、抗原に対する高い親和性を持つ抗体を産生する細胞へと進化するとともに、抗体のクラスのスイッチが起こる重要な場所だ。
そこで、抗原に対する高い親和性の抗体を作る記憶B細胞進化に必要な細胞や分子の発現を調べると、Bcl6を発現するB細胞がほとんど消失していることを発見する。また、これと呼応して胚中心で働くやはりBcl6を発現するfollicular helper T (Tfh)も欠損することがわかった。すなわち、B細胞だけでなく、胚中心での過程に必要なヘルパーT細胞まで欠損していることがわかった。
胚中心形成に影響するサイトカインの発現を調べるとTNFαの発現が上昇しており、おそらくウイルス感染によるサイトカインストームにより過剰発現したTNFαにより、Tfhの分化が抑制されるためではないかと推察している。
しかし、最初に述べた様に、重傷者でもIgGクラスの抗体が検出できるのはなぜか?リンパ節にはクラススイッチを調節する分子AIDを発現するB細胞も存在し、胚中心なしにB細胞の一定の成熟が進んでいることが窺える。しかし、胚中心外でT細胞に反応しているB細胞を詳しく調べると、IgDとTNF受容体を発現しない、ウイルス感染や自己免疫病でよく見られるB細胞がクラススイッチ抗体を産生していることを突き止めている。また、Tfh分化が抑制されたため、Th1細胞の数がリンパ節で増えており、これがB細胞の成熟を助けていると考えられる。
最後に、リンパ節や脾臓での観察を、様々なステージの患者さんの末梢血に流れてきたB細胞で確認しているが、説明は割愛していいだろう。
要するに、CoV2感染によるサイトカインストームでTNFα発現が上昇すると、胚中心が形成されず、異常な形でT/B相互作用が起こるため、長期の免疫記憶は成立しづらく、しかもこの様な状況でウイルスに対する抗体を作り続けることで、自己免疫反応の危険にも晒されるという恐ろしい話だ。
この結果を重傷者と軽傷者の末梢血B細胞を詳しく比較することからバックアップしたのがエモリー大学からの論文で、10月7日号のNature Immunologyに掲載された。
長くなるので詳しくは紹介しないが、末梢血のB細胞を詳しく調べると、ICUで治療を受けた患者さんでは、濾胞外で分化しT細胞と相互作用するIgD陰性、TNF受容体陰性(この研究ではさらに詳しく分画している)のB細胞と、抗体産生B細胞が増加し、そのパターンが自己免疫病の一つSLEと酷似していることを示している。
また、クラススイッチは進んでいるが、ほとんどがgerm line型のV遺伝子を使っており、突然変異の数が見られないことは、これまでの研究と一致している。また、胚中心を経ずに濾胞外で作られた抗体はたしかにCoV2の中和活性を持つだけでなく、軽症者より強い活性が見られるが、同時にSLE患者さんと同じで自己反応性の抗体産生細胞が除去されていない、すなわち免疫寛容がうまくいっていない。
以上、局所でのウイルス感染によるサイトカインストームにより胚中心形成が抑えられ、その結果自己免疫病で見られる様式の抗体産生が始まる。これにより確かに中和抗体が作られるが、この型の反応が続くことで自己反応性の抗体も作られ、全身の炎症拡大に寄与することを、両論文ともに示している。他の説明もあるかもしれないが、頭の中で渦巻いていた新型コロナウイルスに対する抗体反応についての疑問の多くがともかく解消した。
このように、この結果は、CoV2に対する抗体反応の特殊性を示すこれまでの多くの論文を説明してくれるだけでなく、少なくとも重症者は、正常な免疫記憶が成立しない可能性を示唆する。しかし、TNFなどが局所リンパ節で過剰生産されるメカニズムがわかれば、ウイルスに対する免疫反応を正常に戻してやれる可能性を示唆するとともに、感染により免疫ができないからといって、ワクチンが有効でないという思い込みは間違いであることを示唆する。すなわち、ワクチンの方が正常な免疫を誘導する可能性が示唆された。この自己免疫型B細胞の存在を調べることは、ワクチンの評価にとっても重要な検査になったと思う。
新型コロナ感染はヒトの免疫学の研究を一段と進めていることが実感できた。
2020年10月13日
デニソーワ人がインドネシアで2万年前まで生きていた可能性を示す驚くべき報告を昨年紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/10041 )、私たち世代が最初に習った直立原人であるジャワ原人や、フローレンス人など、この地域には人類進化を理解するための多くの鍵が眠っていると考えられる様になった。ただ、現在熱帯雨林で覆われたこの地域も、直立原人誕生以降も、多くの気候変動による大きな環境変化が起こっている。また、大陸とつながっていた時期もある。従って、人類誕生以降の更新世の東南アジアの環境を知ることは、この地域での人類の歴史を理解するために重要な要件になる。
今日紹介するオーストラリア・グリフィス大学とドイツ・マックスプランク人類史研究所からの論文は更新世の様々な時期での大型哺乳動物の食性をアイソトープで調べることで、環境の変遷を明らかにした研究で10月7日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Environmental drivers of megafauna and hominin extinction in Southeast Asia(東南アジアで大型動物と人類の絶滅をもたらした環境要因)」だ。
これまでも様々な方法で、東南アジアで熱帯雨林とサバンナが繰り返していたことが示唆されてきたが、この研究ではδ13Cと呼ばれる資料中の安定同位体13 Cの12 Cに対する比と、酸素の安定同位体の指標δ18Oを、更新世の様々な時期の大型動物の化石について測定し、彼らが何を食べていたか推定することで、サバンナと熱帯雨林を区別している。
炭素の安定同位元素の取り込まれやすさは光合成の様式により異なり、このためδ13Cを用いることで、 熱帯雨林のC3植物と、サバンナのC4植物を区別することができ、またいずれかを摂取する動物の化石からも同じことを推定できる。
この研究では現存の動物を含む更新世の動物の化石269種類でこのδ13Cとδ18Oを測定し、その結果から現在までの更新世の東南アジアの環境を推定している。
この結果、更新世初期の東南アジアはサバンナが占めるインドネシア諸島と、熱帯雨林が占めるインドシナ地域(現在の大陸)に分かれていたが(現在の環境とは逆であるのが面白い)、その後更新世中期にはほとんどがサバンナになり熱帯雨林が消失する。そして後期更新世には熱帯雨林が両地域に広がり、その後完新世まで熱帯雨林が継続していることが明らかになった。
この環境変化を人類の歴史に重ねると、更新世中期にサバンナが全地域に広がると同時に、地球の気候変動の結果海水レベルが下がり大陸と陸続きになり、多くの動物が移動する。またこの時期に呼応して人類(直立原人)がこの地域で最も栄える。しかし、更新世後期になるとまた熱帯雨林が全地域を覆う様になり、これとともに直立原人はこの地域から絶滅する。逆に7万年から4.5万年にかけて熱帯雨林地区にホモサピエンスが移動してきたことは、海を超える能力と同時にホモサピエンスの適応力の高さを示している。
この変化はもちろん人類だけでなく、多くの動物の絶滅と繁栄の要因となっている。大きなところでは、特に熱帯雨林がサバンナに変わることで、これまで知られる最も大型の猿(Gigantopithecus blacki)の絶滅、熱帯雨林への移行に伴う大型肉食獣の絶滅などだが、これ以外にもこれまで知られている多くの動物の盛衰が今回の測定結果と一致する証拠が示されている。
興味がなければどうでもいいことだろうが、これを頭に置いてこれから出てくると期待できる東南アジアでの人類進化の研究を楽しみたいと思っている。
2020年10月12日
生後新生児が発達する特定の時期に腸内細菌叢が十分発達していることの重要性を示す研究が多く発表されてきている。ほとんどはマウスを用いた研究で、特に免疫機能の発達への影響は、成人になっても続くことが知られている。同じことを人間で調べるのは簡単ではないが、最近帝王切開による出産で生まれた子供の腸内細菌叢の発達が、経膣出産児と比べると強く抑制されていることがわかり、両者の発達を比べることで腸内細菌叢の免疫機能への発達が推察できるのではと、大規模コホート研究が進み出した。
この問題には特に北欧が熱心で、結果はまちまちという状況だが、デンマークで行われた250万人を40年間追跡した研究から、帝王切開出産児が経膣出産時と比べると、炎症性腸疾患、リュウマチ性関節炎、セリアック病、そして1型糖尿病を発症することが示され、腸内細菌層を早期に発達させることの重要性が認識される様になってきた。
これに対してヨーグルトなどのプロバイオティックスが現在用いられ、今日紹介する論文を発表したヘルシンキ大学のあるフィンランドでは、科学的に定評があるロイテリ乳酸菌の摂取を国がサポートしているが、帝王切開出産児で特に目立つBacteroidaceaeの欠損を直すことは難しい。この研究グループは、プロバイオの代わりに母親の腸内細菌叢を生後2時間で移植することで、この問題を解決できないか調べた臨床研究で10月1日号のCellに掲載された。タイトルは「Maternal Fecal Microbiota Transplantation in Cesarean-Born Infants Rapidly Restores Normal Gut Microbial Development: A Proof-of-Concept Study (帝王切開出産児に母親の便の菌叢を移植することで正常の腸内細菌叢の発達を回復できる:コンセプトの検証研究)」だ。
この研究では帝王切開が決まったお母さんの便を丹念に調べ、病原菌の存在を認めなかった7人を選び、重さで便の3.5mg相当を生後2時間目、母乳と共に摂取させるという方法を用いている。3.5mgなのでほとんど入っているかいないか分からない量だと思うが、菌数にして106 から107 に相当する。
あとは便移植を受けた帝王切開出産児の腸内細菌叢を3ヶ月にわたって調べ、以下の結果を得ている。
出産時の胎便のほとんどはAeromonasだが、母親の菌叢を移植して2日目ではほとんどの場合、大人で多いBacteroidaceaeが急速に増殖し、その後ビフィズス菌を中心の他の細菌種が増える。すなわち、母親の腸内細菌叢がベースになっていても、子供の腸内環境では全く異なる増殖様式が観察できる。 帝王切開出産児、経膣出産児、そして便移植を受けた子供を比べると、便移植により菌叢は経膣出産児とほぼ同じになる。一方、帝王切開出産児では12周目では全く違ったままで、例えばbacteroidaceaeはほとんど見られない。 これまで新生児の細菌叢は膣内の細菌をベースに発達すると考えられてきたが、膣から採取した細菌叢の移植は、便の移植と比べるとほとんど効果がなかった。 他のデータベースとの比較でも同じ結論になる。
我が国でも帝王切開比率が2割を確実に超えた今、もしデンマークのコホート研究が正しければ、何らかの手を打つ必要がある。その意味で、3.5mgの健常細菌叢が少なくとも腸内細菌叢回復を誘導できるなら、真剣に検討してもいい様に思う。
しかし多くの新生児の腸内細菌叢に関する研究を見ると、北欧諸国がかなり真剣にこの問題に取り組んでいるのがわかる。
2020年10月11日
自分が長年耳鳴りとともに生活してきたため、耳鳴りの治療法に関する論文にどうしても目がいく。そんな私が最近のトレンドとして感じるのが、脳を刺激することで耳鳴りを抑制しようとする治療だ。最初に紹介したのはTMSと呼ばれる頭蓋の外から磁場を方法で、我が国でも既に治療に使っている施設がある(https://aasj.jp/news/watch/3789 )。問題は、10日間、毎日治療を受けにその施設に出かける必要があり、また結構高額な治療費になることだろう。これに対して、患者さんの耳鳴りのピッチに合わせた音を聞かせるのと、頚部の電気刺激を組み合わせ、自宅でもできる治療法の開発が報告され紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7895 )。このとき、読者の一人Sakumaさんから同じような新しい治療がアイルランドから発表されているという情報をいただいた。
今日紹介する論文はSakumaさんから紹介いただいた会社Neuromod Devices Ltdの製品についての治験論文で、おそらく我が国でも導入できる方法に仕上がっていると感じたので紹介することにした。タイトルは「Bimodal neuromodulation combining sound and tongue stimulation reduces tinnitus symptoms in a large randomized clinical study (音と舌の刺激を組み合わせた脳刺激は大規模な無作為か臨床試験で効果を示した)」で、10月7日号のScience Translational Medicineに掲載された。
この研究では無治療グループというのが存在しない。すなわち、耳鳴りが自然に改善することはないという前提に立っているようだ。個人的には納得するが、これを問題にする人はいるように思う。この方法は、耳に様々な周波数の音をミックスたパルスを聞かせるとともに、舌に32本の電極が並んだプレートを当てて、1日60分毎日自宅で電気刺激をおこない、これを12週間続ける。この研究では、この刺激の内容を(音の周波数を低周波数だけにしたり、舌の刺激と、音の刺激のパルスの感覚を変化させたりして)変えた3種類の刺激を用いてその効果を比べる立て付けになっている。
この中で全く効果がないグループがあればそれを無処置のコントロールとして扱えるのだろうが、この治験では3グループ全て効果が認められており、要するに音と舌への電気刺激は効果があるという結果になっている。
驚くことに、治療開始後6週間まで耳鳴りは改善を続け、それ以上は改善しない。この程度は、今回調べた3グループ全て同じで、また前回紹介した首の刺激と耳鳴りのピッチに対応する音だけを聞かせた方法と比べると(実際に比べたわけではなく検査指標から判断している)、Neuromod社の方が優れている。
ここまでは3種類の刺激全てほぼ同じ効果だが、治療終了後の持続効果で見ると、本来彼らが治療用として提供しているモードが最も優れており、一年以上にわたって改善状態は続く。一方、周波数を低周波領域のみに限定し、また舌への刺激を同期させない方法では、18週目に50%ほど改善効果が低下するという結果だ。最後に、副作用についても調べているが、特に大きな問題はないというのが結論になる。
Neuromod社のサイトを見ると(https://www.neuromoddevices.com/company/technology )、既に多くの施設で治療が提供されているので、我が国でも導入される日は近いように感じる。
もちろん20%の人では何の効果もなかったことも示されており、過度の期待は禁物だが、可能になれば高齢者代表としてぜひ受けてみたいと思う。ただ、個人的予想としては、私のように30年近く耳鳴りとともに生きている場合は改善しにくいのではないだろうか。
2020年10月10日
新型コロナウイルス(Cov2)は30kbという大きなゲノムを持っており、27種類以上のタンパク質が翻訳されてくるが、これら遺伝子の機能の多くはホスト細胞を自分の増殖に利用しやすくするするための操作に用いられる。その根幹を占めるのが、ホストRNAを操作して、ホスト側の翻訳を抑える操作だ。
今日紹介するカリフォルニア工科大学とバーモント大学からの論文は、ウイルスのnon-structural protein(NSP)結合しているホストRNA配列を決定し、ウイルスによるホスト翻訳過程の操作の仕組みを網羅的に解析した研究で、10月2日にCellに受理された。タイトルは「SARS-CoV-2 disrupts splicing, translation, and protein trafficking to suppress host defenses (新型コロナウイルスはスプライシング、翻訳、そしてタンパク質輸送を破壊してホストの防御を抑える)」だ。
個々のNSPについての研究はすでに研究が進んでおり、例えばNSP1分子の翻訳制御過程について詳しく調べた論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/13833 )。このような論文を読み漁っていると、もはや新しい切り口は出てこないように感じてしまうが、この研究ではホストRNAとウイルスNSPとの相互作用を網羅的に把握する方法を開発し、まだまだ新しい切り口が存在することを見事に示している。
研究ではCov2がコードする全て(スパイクは除外)のタンパク質に標識をつけた後、個別にホスト細胞に導入し、それぞれのタンパク質に結合するRNAを分離する方法を用いて、10種類(ウイルス全タンパク質の1/3以上に当たる)のウイルスタンパク質がホストRNAと結合していることを明らかにする。そして、それぞれのタンパク質が結合するRNAの配列を決定し、ウイルスタンパク質が特定のRNAを標的にして、ホストを操作していることを示している。もちろん予想されたことだが、全体を示されると、巧妙な仕組みに驚く。
つぎに、こうして特定したRNA結合タンパク質の中から、最も重要と思われる4種類のタンパク質を選んでホスト操作のメカニズムを詳しく解析している。また、特にウイルスにとって死活問題になるホスト側のインターフェロンを抑えるかどうかを指標に、その効果を推定している。
NSP16: これまで、NSP16はウイルス自身のRNAのCapメチレースとして働いていると理解していたので、ホスト側のRNAに焦点を絞ったこの研究で、NSP16がなんとスプライシングに関わるノンコーディングRNA, U1とU2に結合するという発見には驚いた。さらに機能的解析から、新たに転写されてきた全てのRNAのスプライシングが、おおよそ1/3程度に抑えられることを示している。もちろん、スプライシングを受けないウイルスRNAは影響を受けない。一方、インターフェロンの翻訳もほぼ1/2まで低下する。 NSP1:これについては既に紹介した論文(https://aasj.jp/news/watch/13833 )とほぼ同じで、40Sリボゾームの構成成分である18S-rRNAに結合し、翻訳時にmRNAが40S rRNAに潜り込むのを阻害する。この結果、多くのmRNAの翻訳が抑えられるが、ウイルスRNA はもちろん、ハウスキーピング遺伝子の一つGADPHの翻訳は正常に起こることから、この抑制を逃れる仕組みがRNAあることもわかる。このメカにニズムについて、mRNAのリーダー配列(最初のステムループ)とNSP1との結合の結果、mRNAがリボゾームへ潜り込めなくなるためと結論している。従って、NSP1と結合できないリーダー配列を持つRNAは翻訳されると考えられる。いずれにせよホスト側の多くのタンパク質の翻訳が低下するとともに、刺激をしても1型インターフェロンができないことを確認している。 NSP8,9:ウイルスタンパク質はどうしてもウイルスRNAの側から見てしまうため、ホストのRNAとの相互作用は忘れがちだが、その典型がNSP8,9だろう。私はこれまでNSP8,9ともに、RNAポリメラーゼの構成成分として理解していた。ところが、ホストRNAの結合サイトを見ると、リボゾームを小胞体とリンクさせ、できたペプチドの輸送に関わる7SL-RNAおよび28S rRNAに結合することを発見する。この7SLRNAを含むsignal recognition particleという仕組みが、できたペプチドを小胞体内へと輸送するのに関わるが、NSP8,9はこの部位に結合して、リボゾームと小胞体のリンクをガイドするタンパク質の結合を破壊、結果ペプチドは細胞内で遊離されてしまう。実際これらのNSPが発現すると、ほとんどの細胞表面タンパク質の発現は強く抑制され、ツルツルの細胞になってしまう。当然インターフェロンに対する受容体や、インターフェロン誘導のための刺激を受ける細胞表面上の様々な分子も、細胞表面までたどり着けないため、インターフェロンに対する反応は抑制される。
以上が結果の要約だが、これまでウイルスRNA との関わりでしか見なかった、NSP16やNSP8,9が、ホストRNAの操作にうまく使いまわされていることを知って、感心した。この研究では、このホスト操作をインターフェロンの分泌と、反応性に絞って評価しているが、実際には操作される範囲はもっと深い。
ウイルスの増殖にはホストの細胞が生きている必要がある。これを実現するため、生かさず、殺さず、うまい具合にホスト細胞をゾンビ化して、新しいウイルス粒子を作らせる仕組みを知れば知るほど、新型コロナウイルスに出会えて良かったと不謹慎ながら思ってしまう。
2020年10月9日
実験動物段階の研究でも、その意外性に驚く論文がある。今日は前置きを省いてアイオワ大学からの論文を紹介する。タイトルは「Exposure to Static Magnetic and Electric Fields Treats Type 2 Diabetes(静的磁場と電場に晒すことで2型糖尿病が治療できる)」で、10月6日号のCell Metabolismに掲載された。
この論文は我々生物は地球上で静磁場と静電場の影響下で進化しており、これに対応するなんらかの仕組みを持っているはずだという、考えれば至極もっともな前置きから始めている。実際、長い距離を旅する生物が地磁気を利用しているという研究は多い。
ただこの研究では、ミトコンドリアの活性酸素により高脂肪食がインシュリン抵抗性が発生するというこれまでの研究を基礎に、この酸化還元バランスを電磁場で変化させられるのではと着想し、一足飛びに電磁場により糖尿病を治療するという可能性追及に進んでいる。
遺伝的な糖尿を示すBardet-Biedl syndromeモデルマウス、db/dbマウス、そして高脂肪食を与えられたマウスをおおよそ地球上で我々が浴びるのと同じベクトルを持った100倍の静磁場(3mT)と静電場(7kV/m)を30日間持続的に照射、そのあとで糖代謝の解析を行なっている。
結果は驚くべきもので、いずれのマウスも血中グルコースが30%以上低下する。面白いことに、静磁場と静電場の両方が必要で、静磁場だけを照射すると糖尿は悪化する。
また、30日を超えて照射し続ければ血糖上昇を抑え続けられるが、残念ながら照射をやめるとすぐに元に戻る。とはいえ、一日中浴びている必要はなく、寝ている時間7時間浴びると同じ効果がある。
メカニズムだがグルコースクランプテストから、インシュリン抵抗性が改善したことがわかるが、インシュリン受容体下流のシグナル分子の問題でなく、著者らが最初から睨んだ様に、酸化ストレスのバイオマーカーであるF2-isoprostanesがほぼ4割程度低下する。そして、酸化還元反応のマスター転写インしNRF2が上昇することを発見する。
さらに直接電磁場が影響する過程を調べ、肝臓ミトコンドリアの活性酸素、特にスーパーオキサイドの代謝を変化させることがスウィッチとして働き、NRF2転写因子を介してグルタチオンの血中への遊離を高めることで体内の還元力を高め、酸化ストレスを低減することで、インシュリン抵抗性を改善すると結論している。
最後に電磁場がスーパーオキサイドをどう変化させるかなどの問題についても議論しているが、明確な結論があるわけではないの省く。要するに、電場磁場両方に晒されるだけで、体の酸化ストレスが減り、インシュリン抵抗性が改善されるという話で十分だろう。
ではこの方法は臨床に使えるだろうか。薬の必要性はなく、一見素晴らしい治療法に見える。また、ネズミのレベルでは副作用はないとしている。しかし、私自身は電場、磁場が一定のレベルを超えると、想像以上の力を持つことに驚いた。この様な物理的作用についてはあまり真剣に考えたことはなかったが、今後ポジティブ面だけでなく、ネガティブ面についても詳しく検討すべきではないかと思う。
2020年10月8日
随分昔、友人の高井先生、竹縄先生と一緒に大分の学会に参加する途中、高崎山のニホンザルを見に行ったことがある。「猿と視線を合わさない様に」と注意書きをみて、逆に好奇心に駆られて3人で視線を合わせて見ようとしたが、サルの方が上手で、うまく外された様な記憶がある。さぞバカな3人組と思われたことだろう(「高井先生、竹縄先生、3人の秘密をバラしてごめんなさい」)。しかし、昨年ウガンダにチンパンジー、ゴリラを見に行った時は、流石に視線を合わせる度胸はなかった。
ところが、今日紹介するイスラエル ワイズマン研究所からの論文を読んで、猿をじっと睨みつけて反応を見るHuman Intruder Testと呼ばれる実験系があるのを知って驚いた。タイトルは「Shared yet dissociable neural codes across eye gaze, valence and expectation (ガンつけ、誘発性、そして期待に共通する、しかし分離可能な神経コード)」で、10月1日号のNatureに掲載された。
この研究は最初から他の個体との社会的関係の評価が、身体的快、不快の感情の神経学的表象から生まれてきたという仮説をたて、これを脳科学的に証明する目的で行われている。
このとき、社会関係の評価としてサルに「ガンをつける」Human Intruder Testを用いて、じっと見られたときの脳活動と、相手が視線を逸らしたときの脳活動を、水が出てきて喜ぶ時と、空気が顔に当たって不快に感じるときの脳活動と単一ニューロンレベルで比べ、それぞれの反応に共通性があるか調べている。このとき、シャッターが開いて身体的快不快を期待するよう条件づけた状況と、全く条件付けなく快、不快が与えられる状況で神経活動記録を取っている。
脳活動の記録方法だが、古典的な電極を一本づつ猿の脳領域に差し込んで記録する方法で、同じ領域の神経細胞を何箇所も調べデータ解析を行なっている。このとき社会性や快不快に関わる脳領域として、前帯状皮質と扁桃体を選び、それぞれの反応時に起こる神経活動を記録している。
この様な古典的手法を用いた研究手法は、様々な推計学的手法を用いた複雑なもので、正直完全に理解できているかおぼつかないので、エッセンスだけをまとめると以下の様になるだろう。
まず、サルにとってガンをつけられるインパクトを表情や心拍数で調べると、期待通り睨まれると不安が高まり不快に感じる一方、目をそらされるとホット安心して快感を感じているのがわかる。
次に、これらの反応時の神経活動を調べると、条件づけの有無にかかわらず、快、不快に対して、前帯状皮質、扁桃体ともに神経が反応する。しかし、社会的な快、不快の誘意性には扁桃体のみが反応し、前帯状皮質神経は反応しない。すなわち、扁桃体だけが社会的な快、不快に関わる。
そこで扁桃体に絞って、身体的快、不快に反応する神経と、睨み合いの様な社会的快、不快に反応する神経の反応性を一本づつ調べ、それぞれの反応の共通性を調べると、快不快は身体的、社会的ともに共通の回路を共有していることがわかった。ただ、社会的快不快は、条件づけられた身体的快不快に反応する神経と共通の回路を共有しているが、条件づけられていない時の身体的快不快とは相関しないことがわかった。
この説明だけではわかりにくいと思うのでさらに短くまとめると、社会的快不快に反応する脳回路は扁桃体に形成され、身体的快不快の神経と共通の回路を使っている。ただこの共通性は、条件づけられた身体的快不快を期待するよう回路形成された場合で、単純な身体的快不快自体に対する反応とは区別されるという結果だ。
要するに、身体的快不快がなんらかのきっかけで条件づけられることは普通に見られることだが、これが社会的快不快を決める脳回路へと進化したという話になる。
わざわざわかりにくい論文を紹介したいと思った最大の理由は、論文を読んでいて、道徳や倫理といった社会的規範も、結局は身体的快不快の感情から来ると喝破したスピノザを思い出したからだ。おそらく著者らの頭にもスピノザはあったのではないだろうか。
スピノザが出たついでに一言。これまで書いてきた「生命科学の目で読む哲学書」は長く新しい文章をアップロードしていないが、17世期という科学にとって重要な世紀に入ったことから、この世紀の哲学3巨頭、デカルト、ライプニッツ、スピノザをまとめて数冊づつ読んでいるための遅れで、その作業もそろそろ目処が立ち、3人の立ち位置も自分なりに整理できたので、もう直ぐ再開できると思う。
2020年10月7日
我が国でもようやくゲノム検査がガンの診断に使われる様になってきたが、まだまだその効果が実感されるとまでは言えないようだ。実際ガン遺伝子を特定できそれに対する分子標的薬を用いると劇的な効果が得られるケースは多く存在するが、一つの分子標的薬だけでは再発を防ぐことが難しく、長期的にはあまり役に立たなかったという評価が下される。従って、ゲノムやエピゲノムの網羅的解析から複数の変異を特定して最適の治療を計画することが求められる。
今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文はより進んだゲノムに基づくプレシジョン治療の一つの枠組みとその効果を検証した臨床研究で10月2日号Nature Communicationに掲載された。タイトルは「Real-world data from a molecular tumor board demonstrates improved outcomes with a precision N-of-One strategy (ガンの分子医学ボードからの生データは個人に合わせた治療計画の効果を示している)」だ。
この研究は既に大学病院に蓄積したデータを後ろ向きに調べただけの研究で、医療の効果の判定には向かないという批判もあるかもしれない。しかし、タイトルにもある様に、プレシジョン医療を行うことは、個人に合わせて治療計画を立てることで治療自体はまちまちになる。そのため、介入方法を決めて前向きに調査するこれまでの治験方法には馴染まない。この点を明確に認識させてくれた点が、この研究の重要性だと思う。
この病院では我が国でも行われているガン遺伝子パネルに加えて、末梢血のガン遺伝子パネル、遺伝子発現や免疫組織学など、そのとき得られる様々な情報を判断して、治療計画を建てるための専門家ボードを組織し、そこで発ガンに関わる遺伝子を中心に検討を加え、治療の適合度を%で計算している。
総数で429人について適合度が計算され、適合度で患者さんの予後を分別すると、75%以上の適合度があった患者さんでは再発率も、生存期間も延長している。適合度50%でわけても、はっきりと違いが見られる。以上から、特別なチームが総合的に治療計画を判断することがプレシジョン医療の鍵になると結論している。癌遺伝子パネルでも、専門家チームを持つことで十分効果があることを示している。今後、エクソームや、全ゲノム配列決定などまで行う様になれば、ますますこの様なチームが必要になると思う。
ただ、残念なことに、このレベルの検査だけで行われた治療計画では、4年目を過ぎると適合度による差がなくなることから、プレシジョン医療として胸を張るところまでは行っていないと感じる。しかし、個人に合わせた医療の効果の検証は新しい治験プロトコルの必要性を示している。その意味で、一つのあり方を示した点で、この論文を評価したい。