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5月8日 ほぼ完全なボノボゲノムの解読(5月5日 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月8日
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人間に最も近いヒト亜科(hominid)はチンパンジーとボノボだが、チンパンジーに見られる殺し合いに至る競争が起こらないことや、例えば、性交渉をメスが主導するなど、行動面では大きく異なる。その意味で少し単純かもしれないが、ボノボに人間の道徳のルーツを求める人すら存在する。したがって、これからも人間とボノボ、チンパンジーの比較研究はますます重要になるだろう。

このための第一歩はゲノム研究で、hominidについてはほぼ完全なゲノム解読が終わっているが、ボノボだけは完全ではなかったようだ。今日紹介するワシントン大学からの論文は1分子DNA sequencerを使ったlong readによる解析をもとに、重複や欠損など大きな変化も含めてほぼ完全にボノボゲノムを解読した研究で、5月5日号のNatureに掲載された。タイトルは「A high-quality bonobo genome refines the analysis of hominid evolution (高い正確度で解読したボノボゲノムはhominidの進化をさらに精緻にする)」だ。

まず99.99%レベルの完全なゲノムを構築できたことを確認し、hominid同士で比べると、同じ遺伝子を有していても、エクソン構造が違っていたり、変異に対する選択圧が違っていたりと、多くの違いが発見される。最初チンパンジーのゲノムが解読されたとき、hominidはほとんど一緒というイメージが宣伝されたが、その後は、意味や機能について調べきれなほど違いは存在するという印象の方が強くなっている。今後、この差の意味を理解することは、人間の特質理解に欠かせない。例えば言語に関わると研究されているFOXP2遺伝子でも、チンパンジーへの進化過程で強く選択を受けていることがわかる。

Long readによりゲノムを解読することで、重複、欠損などの大きな変化も正確に特定することができる。チンパンジーとボノボのように極めて近縁の種を比較することで、例えば転写開始に関わる分子の一つIElF4A3では、共通祖先で起こった重複の結果、独自にgene conversionが起こり、新しい遺伝子が形成される様子がよくわかる。他にも、チンパンジーには存在しない逆位が17個もボノボには存在している。さらに、ゲノムの挿入や欠損については、ボノボ特異的に定着している領域がそれぞれ3604、1965個特定できる。おそらくほとんどは中立の変異だろうが、この差の意味を特定するとなると大変だ。

このように、ほぼ完全なゲノムが解読されても、すぐにいろんなことがわかるわけではない。何十人、何百人もの科学者がそれぞれのテーマの研究過程でこのようなデータを参照していくことで、徐々にゲノムから形質が繋がっていくのだろう。

そのため、この研究で特に力を入れて解析しているのが、Incomplete lineage sortingという現象だ。基本的には、種が別れる前に存在した多様性が種分化時に別々の種に分布するようになったり、種分離以降の交雑などで起こる遺伝子伝播により、個々の遺伝子での系統樹が異なることを意味する。

この研究では76%のゲノムをカバーして、10Kbごとに系統樹を書くことで、包括的にILSを調べている。この結果、なんと全ゲノムの2.5%づつが、チンパンジーに、あるいはボノボに偏り、例えば通常指標に用いられる遺伝子で作成した種分離の系統樹から外れることを明らかにしている。しかも、このようなincomplete lineage sortingを示す領域は固まって存在しており、強く選択されていることが明らかになった。

結果は以上で、ここの領域についての研究はこれからだが、ボノボの参加で、暴力や道徳までゲノム科学のメスが入るのではと期待される。

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