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5月19日 骨髄環境による乳ガンのリプログラムが転移を促進する(4月19日号 Cell 掲載論文)

2021年5月19日
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ガンは遺伝子変異の蓄積が基盤にあるが、エピジェネティックな機構の関与もはっきりしている。例えば、同じガンでも、ガンの幹細胞と呼ばれる細胞集団が存在しているということは、ゲノム変化ではなく、遺伝子のオン/オフを調節するクロマチンの構造の違いで、ガン内に多様性が生じていることを示す。このことから、エピジェネティック機構に介入する抗ガン剤の開発も現在進んでいる。

そこで、今日から2回に分けて、ガンのエピジェネティックスを扱った論文を紹介する。全てマウスを用いたモデル研究だが、ヒトでも同じことは十分起こっていると思う。最初のテキサス・ベーラー医科大学からの論文は乳ガン細胞が骨髄でリプログラムされ、多臓器転移のハブになるという研究で4月29日号のCellに掲載された。タイトルは「The bone microenvironment invigorates metastatic seeds for further dissemination (骨髄に転移した細胞は骨髄微小環境により活性化され他臓器に転移する)だ。

このグループは以前、エストロジェン受容体(ER)陽性の乳ガンも、骨髄に転移するとERの発現が低下、薬剤が効かなくなることを示していた(Developmental Cell 56:1100)。すなわち、骨髄により乳ガン細胞がリプログラムされることが示された。

これまで乳ガンについては、まず骨髄に転移した後、そこから多臓器に転移が進むと考える人も多かった。このグループも、骨髄の環境により、転移しやすい細胞へとリプログラムされるのではと着想し、研究を始めている。

結構マニアックな仕事で、まず骨髄に選択的に転移させる方法として、血管支配回腸動脈へのガン細胞注射、先に全身に回る回腸静脈注射を使い分けている。さらに、骨髄へ直接ガンを注射する実験も組み合わせて、全身転移が骨髄を経由しているのか、原発巣から直接他臓器に転移するのかを調べ、乳ガンが骨髄に転移すると、ここでリプログラムされ、他臓器へ転移する能力が高まる可能性が高いことを示している。面白いことに、骨髄転移した細胞はもう一度元のガン組織に侵入するが、乳ガンの原発巣が骨髄に転移する頻度はそれほど高くないことを示している。

以上のことから、乳ガンが転移しやすいのは、骨髄転移がおこったとき、リプログラムされ、新たな細胞に変化するからという可能性を示唆している。これを確かめるため、クリスパーとガイドRNAをコードする遺伝子を発現させ、導入したガイドに隣接するPAM配列自体に突然変異を導入して細胞を標識し、異なるタイミングで何度も何度も変異標識を加えながら転移を追いかけることで、原発、骨髄、他臓器転移でのクローンの多様性を調べている(詳細は省くの興味がある場合は以下の論文を読んでほしい。簡単で面白い方法だ)。

この結果、転移がゲノムの変異に基づく、クローンレベルの現象ではなく、多くのクローンがリプログラムの結果、他臓器へと転移するモデルが正しいことを示している。

最後に、リプログラミングのメカニズムを検討し、ポリコム因子EZH2が誘導され、ガンの幹細胞が発現するALDH1やCD44の発現を始め、転移に必要な遺伝子の発現が誘導される結果であることを示している。

これを確かめるため、EZH2ノックアウトガン細胞を作成し、同じように移植、転移を調べると、原発巣の増殖には影響がないが、転移は強く抑制できることを示している。

実際に同じことが人で言えるのかどうかは検討が必要だが、乳ガンでは初期から末梢血のガン細胞の数が多いなど、乳ガンの転移しやすさの原因が、検出不可能な骨髄転移が早くから起こっているため、末梢血に入りやすいと考えることもできる。だとすると、乳ガンの他の臓器への転移も、骨髄を介して起こっている可能性はある。乳ガン手術の際に、骨髄も採取して転移を探索するなど、今後の研究が待たれる。

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