海綿状血管腫は血管が異常増殖して、海綿状の血管の塊を形成する病気で、一種の奇形と考えられたこともあったが、家族性のcavernomaで、遺伝子の欠損が見られる3種類の遺伝子が特定され、腫瘍性増殖として考えられるようになってきた。問題になるのは脳に発生するcavernomaで、出血の心配だけでなく、てんかんなどのリスクになる。現在、手術以外にほとんど治療法がないが、脳幹を含め様々な領域に多発する場合も多く、手術ができないことも多い。
今日紹介するフィラデルフィア大学からの論文は、動物実験と人間での検証を行き来して、cavernoma発生の分子メカニズムを、腫瘍発生の観点から明らかにした研究で、この病気に新しい治療法を提示できた点で重要な貢献だと思う。タイトルは「PIK3CA and CCM mutations fuel cavernomas through a cancer-like mechanism(PIK3CAとCCMの変異がガンと同じメカニズムでcavernomaを増殖させる)」で、4月28日Nature にオンライン出版された。
多くのcavernomaは単発性に起こるが、紹介したように、遺伝子変異が特定された家族性のcavernomaも存在する。こうして発見された遺伝子はKRIT1、CCM2,、PDCD10で、いずれも細胞内シグナル伝達に関わることがわかっており、マウスの研究からいずれもMEKK3-KLF2/4シグナル経路に関わることがわかっていた。しかし、これら遺伝子変異を導入したマウスでは、血管の拡張などは見られても、cavernomaは発生しない。
この研究では、ほとんどcavernomaの発生しない血管特異的KRIT1KOマウスでも、精巣だけにはcavernomaが発生するという現象に注目し、精巣の血管内皮の高い増殖性がcavernoma発生を後押ししているのではと考え、それまで血管内皮増殖を誘導することが知られていたPIK3CA遺伝子変異をKRIT1の変異と組みあわせるとcavernomaが発生するのではと着想する。要するに、KRIT1がガン抑制遺伝子で、これが欠損しても、ガンのドライバー遺伝子が活性化しないと腫瘍はできないという発想だ。
この可能性を確かめるため、tamoxifenで遺伝子をonにする方法を用いて、両方の遺伝子変異を生後すぐに導入すると、脳内血管全体にcavernomaを発生させられることがわかった。さらに、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて脳局所だけで両方の遺伝子を活性化させると、臨床例に近いcavernomaが発生することも明らかにしている。
以上の結果は、家族性でない孤発性のcavernomaは、一般のガンと一緒で、局所の血管内皮で、CCM遺伝子欠損とPIK3CAの活性化変異が積み重なった時に起こる病気である可能性を示唆している。
そこで、家族性と孤発性のcavernoma手術サンプルのゲノムを調べると、期待通りPIK3CAの変異がほぼ8割に見られ、CCM遺伝子の欠損も3割で見られることを確認している。また、単一細胞の核を取り出し遺伝子配列を調べ、変異が確認できる血管内皮では、CCMとPIK3CAの変異が重なっていることを確認している。
次に、CCMおよびPIK3CAそれぞれのシグナル伝達経路について検討し、PIK3CAの下流でmTORが活性化され、一方MCC遺伝子が欠損するとMEKK3の抑制が外れ、KLF32/4活性が誘導され、最終的にcavernomaに発展することを明らかにする。
最後に、PIK3CAシグナル経路のmTOR活性をRapamycinで阻害する実験を行い、例えばアデノ随伴ウイルスベクターでKRIT1、PIK3Cを活性化して発生するcavernomaの発生を抑制できることを明らかにしている。
結果は以上で、cavernomaが発見された後でも同じように効果があるか、rapamycin以外の阻害剤の探索など、知りたいことは多くあるが、cavernomaに対する外科以外の治療開発が着実に進んでいることを示している。