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5月18日 全能性と多能性を行き来する培養法の開発(5月27日号 Cell 掲載論文)

2021年5月18日
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5月14日、文字を手書きするときの脳内表象を解読して文字をPCに書かせる技術( https://aasj.jp/news/watch/15671  ) 、15日の経口投与できるアンチセンスRNA( https://aasj.jp/news/watch/15675  )など、私が現役の頃には考えがつかなかった様々な技術が開発されているが、山中さんのiPS以来少し落ち着いていたように見えた全能性や多能性細胞の培養法も、最近様々な動きが出てきた。Austin SmithとKinoshita らが示したgerm cellとsomatic cellへの培養が高効率に誘導できるFormative Stem Cellの概念はその典型だろう。

この分野でもう一つ残された大きな問題は、胚盤胞期の内部細胞塊と最も全能の受精卵が卵割して、内部細胞塊とトロフォブラストの両方に分化できる全能性の細胞の培養だ。ESやiPSなどほとんどの細胞は、体の全ての細胞に分化できるとはいえ、胎盤などを形成するトロフォブラストには分化できないことが知られている。そのため、全能性の細胞とは呼べない。現在間違いなく全能性の細胞と呼べる受精卵から4細胞期の細胞をそのままの状態で培養することはむずかしい。

ところが今日紹介する北京大学からの論文は、なんとスプライシングを抑制するだけで、ES細胞が2−4細胞期相当の細胞へ転換できることを示した、この分野では画期的な研究で5月27日号のCellに掲載された。タイトルは「Mouse totipotent stem cells captured and maintained through spliceosomal repression(マウスの全能性幹細胞をスプライソゾーム抑制により把握し維持できる)」だ。

この研究の発端は、受精卵から胚盤胞期まで、RNAスプライシングに関わる遺伝子の発現を調べると、4細胞期から8細胞期でほとんどの分子の発現が急速に増加することの発見だ。この意味を探るため、14種類のスプライシング因子を選んでsiRNAでノックダウンすると、10種類の因子のノックダウンにより発生初期の全能性遺伝子と呼ばれている分子の発現が上昇し、多能性因子とされているOct4、Sox2、Nanogなどの山中因子の発現が低下することを発見する。

この結果を、全能細胞の培養法開発へ進めるため、まずスプライシング複合体SF3B阻害剤pladienolide BをES細胞の培養に加えると、増殖は低下するものの、1週間以内に多能性分子が低下、全能性に関わる分子が上昇し、しかもゆっくりではあるが細胞増殖を維持できることを発見する。

単一細胞のRNA発現解析から、pladienolide Bを加えて培養できる細胞の遺伝子発現プロファイルは、2−4細胞期のプロファイルに対応すること、またメチル化DNA解析、ATAC-seqによるクロマチンの構造解析でも、pladienolide B添加で培養できる細胞は2−4細胞期に相当することを明らかにしている。

つぎは、この細胞を8細胞期の胚に注射し、どの細胞へと分化するかを、試験館内分化、およびマウスに戻して胚発生を行わせて調べている。結果は全能性を証明するもので、内部細胞塊およびトロフォブラスト由来のほぼ全ての臓器に、注射した全能性細胞が寄与していることを証明している。

最後に、スプライシングのような基本的な生命機能を抑制することで、なぜこのようなドラマチックな変化が誘導できるのか、多能性因子および全能性分子のスプライシングについて調べると、全能性因子のみがイントロンが短く、またスプライシングをあまり必要としない構造をとっている一方で、多能性因子はスプライシングが抑制されると機能が失われる構造をとっていることを明らかにする。

以上、ついに全能性と多能性を行ったり来たりできる培養システムが、スプライシング抑制という意外な方法で可能になった。残念ながら、pladienolide Bを添加した現在の培養条件では細胞の増殖に問題があり、クローン化したりするのはい簡単ではないようだ。また、研究ではキメラ個体が生まれて、そこから次世代ができるのかも示されてはいない。また、ヒトES細胞でも同じことが言えるのかも知りたいところだ。とはいえ、この領域も急速に忙しくなってきた。

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