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5月17日 老化免疫細胞は他臓器の老化を促す(5月12日 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月17日
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老化研究により、体の全ての細胞でほぼ同じ老化のメカニズムが働いていることがわかってきた。だからといって、体の全ての細胞が同じ様に老いる訳ではない。例えば、皮膚のように紫外線などの照射により、DNA損傷が起こりやすい場所では老化が起こりやすい。

今日紹介するミネソタ大学からの論文はリンパ球などの免疫系細胞の老化は、自身だけでなく、他の臓器の細胞老化を促進するという、ちょっと恐ろしい研究で、5月12日Natureにオンライン出版された。タイトルは「An aged immune system drives senescence and ageing of solid organs(老化した免疫システムは固形臓器の老化と加齢を促進する)」だ。

研究自体は、典型的な遺伝モデルを用いた老化研究で、コケイン症候群の原因遺伝子の一つで、UVやDNA鎖をクロスリンクする様な薬剤によるDNA障害に関わるとされるERCC1遺伝子を血液系で欠損させたマウスを用いて、老化モデルとしている。これまでの研究で、ERCC1が欠損すると、おそらく自然に起こるDNA鎖同士のクロスリンクが修復できないため、p53の活性化が起こることで、細胞周期が阻害され、細胞老化、そして個体全体の老化が進むと考えられている。

このグループも、初めは血液細胞が老化するモデルを作成して研究しようとしていたのだと思う。血液だけでERCC1が欠損すると、5ヶ月でリンパ球を含む白血球数が低下し、様々な血液細胞で細胞周期の抑制を示すp21などの発現が高まり、また抗原に対する細胞性免疫機能や、抗体反応も強く低下することを示している。同じ変化は、2年以上飼育した正常老化マウスでも見られることから、ERCC1欠損により、老化が時間的に強く促進されていることがわかる。

これだけならなんのことはない研究だが、血液系だけで老化が進んでいると考えられるこのマウスの様々な臓器の細胞でのp21やp16の発現を調べると、驚くことに、血液ほどではないにせよ、細胞老化が高まっていることに気づく。老化で上昇する様々なサイトカインのうち、IL-1βやGDF-15、MCP-1などが上昇していることから、おそらく免疫系の細胞老化が、様々なサイトカインを通して、他の臓器の老化を促進するのではと着想した。

そこで、8-10か月齢のERCC1を血液で欠損させたマウス脾臓細胞、あるいは2年齢の正常マウス脾臓を若いマウスに注射すると、どちらの場合も、他の臓器のp16の発現が高まり、実際の寿命も短くなることを示している。この実験の結果、ERCC1欠損血液細胞だけでなく、正常血液細胞も老化すると、移植により他の臓器の老化を誘導できる(実際にはERCC1欠損血液細胞以上の効果がある)が明らかになり、通常の老化でも免疫細胞を若返らせることで、全体の老化を遅らせる可能性が示唆された。

これを確かめるため、今度は全身でERCC1が欠損したマウスに正常脾臓細胞を移植する実験を行い、若い細胞の移植ですぐにp16が正常化する臓器が存在することを示している。すなわち、全てではないが、臓器の一部は、老化した免疫細胞から分泌される様々な因子の影響で細胞周期が阻害され、細胞老化に陥っていることを示している。

最後に、ERCC1欠損による免疫系の機能低下と、老化促進作用は、現在老化抑制に使われているmTOR阻害剤ラパマイシンでかなり改善し、血液のp16,p21の発現が抑制されるとともに、MCP-1やTNFの分泌が抑えられることも示している。

結果は以上で、免疫系の細胞の老化が、体全体の老化を促進する作用があると言う結論は、本当なら、新しいアンチエージング法の開発や、逆に老化が急速に進む腎硬化症などの理解にも重要だ。ただ、正直実験のプロトコルや、結果の示し方が少しわかりにくく、そのためか論文サブミットから掲載までに2年以上かかっている。また、老化には炎症が関わっていることは疑う人はいない事実で、炎症とこの研究とがどう違うのかも明確にする必要があるだろう。今後、モデルマウスではなく、若いマウスと老化マウスとの間で、詰めていく必要があると思う。

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