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1月2日 モルフォーゲン勾配 (12月22日 Nature オンライン掲載論文)

2022年1月2日

モルフォーゲン勾配は発生学の中でも重要な概念の一つで、一つの分子が特定の場所で分泌され、それによって生まれる分子の濃度勾配に応じて細胞へのシグナルが変化し、この結果場所に対応した細胞の分化決定が指示される仕組みだ。多くの動物でその存在が示されてきたが、なんと言ってもショウジョウバエを用いた研究がこの分野をリードしてきたことは間違いない。

この頃ショウジョウバエの論文を読むことが減ったので、今日紹介するジュネーブ大学からの研究が、この分野でどのような位置にあるのか判断できないが、dppと呼ばれる最もポピュラーな分子の濃度勾配の形成が、勾配ができる組織(この研究では将来羽になるイマジナルディスク)の大きさに応じてどう行われるのかを示した、私にとっては新鮮な研究で、12月22日Natureにオンライン掲載されている。タイトルは「Morphogen gradient scaling by recycling of intracellular Dpp(細胞内のDppをリサイクルすることでモルフォーゲン勾配の大きさが決められる)」だ。

モルフォーゲン勾配は、分子が分泌される場所が限定されれば、自然に発生すると考えてきた。しかしこの研究の対象になっているdppでは、dpp受容体と結合したあと、もう一度細胞外へ運ばれ、新しい細胞に利用される、すなわちリサイクルの可能性が指摘されていた。

この研究の目的は、様々な蛍光標識を結合させたdppを細胞に発現させ、dpp勾配を測定することで、一度細胞に取り込まれ、その後リサイクルされたdppがどの程度勾配形成に関わるかを明らかにすることだ。

シュミレーションも含めて様々な計測が行われているが、最初に細胞外のdppを全て洗い流した後、細胞内からリサイクルされたdppを追いかける方法で、リサイクルされたdppが細胞外のスペースに沿って濃度勾配を形成することを明らかにしている。

この結果が、この研究のハイライトだが、もちろんこれだけではリサイクルされた分子がどの程度勾配形成に関わるか決定することは難しい。そこで、拡散、受容体との離合、リサイクルの効率、細胞内での分解など、様々なパラメーターを調べ、分泌起点から異なる距離の地点で、リサイクリングがどの程度勾配維持に寄与しているのかを計算している。

結果は、勾配自体へのリサイクリングの寄与率は、起点から離れた場所では90%を超えており、長い距離にわたる勾配を維持するためには、高いレベルのリサイクリングが必要であることが分かる。一方、短い距離の勾配では、リサイクルされたdppの寄与は50%程度にとどまっている。

以上、結論的にはリサイクルされたdppが、特に長い距離の勾配形成には重要であることが明らかにされた。ただこの過程で、dppの受容体Tkvがリサイクルには関わらないことをTkv変異体を用いて実験で明らかにしており、リサイクルのために特別なメカニズムがあることも示されている。

他にも、Pentagone/Dallyのように、細胞膜外に形成されるマトリックスもこの勾配形成に関わっていることも知られており、イマジナルディスクという小さな分子勾配に、極めて複雑な分子間相互作用が存在していることが分かる。

モルフォーゲン勾配は決して懐かしい話ではない。

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