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1月7日 妊娠中の異常を血液中のRNAを用いて予測する検査法の開発(1月5日号 Nature オンライン掲載論文)

2022年1月7日
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現在、胎児の発達と異常の診断のほとんどは、超音波検査に頼っているのではないだろうか。ただ、子癇としても知られる妊娠高血圧腎症と呼ばれる異常の診断的中率は高くない。この診断率を母親の血液のバイオマーカーを用いて高めるための試みが様々な方法を用いて進められている。

今日紹介する米国企業Mirvieを中心とする国際チームからの論文は、母親の血液に流れている微量な母親および胎児由来のRNAを用いた妊娠の進行状態とともに、妊娠高血圧腎症を高い確率で予測する方法の開発で、1月5日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「RNA profiles reveal signatures of future health and disease in pregnancy(RNAプロファイルにより妊娠中の健康と病気を予測する)」だ。

この研究は、すでに開発されたAIを用いた診断法の検証になる。この分野は全くフォローしていなかったが、AIやcell free RNAなどを用いた診断法開発が流行っている現在、このような論文がNatureに掲載されたのは逆に驚く。この分野はほとんどフォローしていないが、かなり画期的なことなのかもしれない。

検査自体は、母親の末梢血0.2-1mlからRNAを抽出、そこからcDNAライブラリーを作成し、遺伝子配列を決定した上で、その中から妊娠時期と相関する約700種類の遺伝子を選び出し、そのリード数と妊娠時期との相関を機械学習させたモデルを作成している。

このモデルと妊娠時期との相関はほぼパーフェクトで、誤差は2週間以内と、超音波診断による妊娠時期推定と合致する。この高い相関に寄与する遺伝子を調べると、母親側、胎児側双方から放出されるRNAが存在し、例えば母親側のホルモン産生に関わる分子、また胎盤の発達に関わる遺伝子、さらには胎児側の心臓の発達に関わる分子のRNAが、高い相関に寄与していることがわかる。

次に、こうして得られた正常妊娠のモデルから逸脱する例として、妊娠高血圧腎症を発症した例を集めて、正常からの逸脱がRNAライブラリーにも見られるかどうかを調べている。すると、着床に関わるタイトジャンクション分子クローディン7をはじめいくつかの分子の発現が妊娠高血圧腎症患者さんでは上昇し、これらの相関を合わせて診断すると、AUCと呼ばれるスコアで0.83とまあまあの予測精度が得られ、陽性的中率では32%と、これまでの方法と比べ臨床的にはかなり満足いく結果が得られることが明らかになった。

結果は以上で、この結果がどの程度画期的なのか、産科の先生に聞いた方が良さそうだが、発症予測が難しい妊娠高血圧腎症を胎盤発達に関わる分子の残影から予測するというのは説得力がある。検査にかかる費用など、まだまだ解決すべき課題は多いと思うが、期待したい。

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