このミーティングはすでに開催し、ジャーナルクラブで配信しています(https://www.youtube.com/watch?v=yVk5hqD-H20)。
昨年11月15日、言語使用と道具使用に共通の脳領域が関わることを示した論文を紹介しました(https://aasj.jp/news/watch/18320)。このとき、友人の濱崎さんから、人間進化の観点から考えることが重要との指摘を頂きました。それを受けて、一度この辺を皆で考えてみようと言うことになり、1月7日昼の2時から、博多の友人信友邸にお邪魔して、「言語の起源」について、話題提供しながら語り合うことになりました。平日の昼なのでYoutube同時配信はしないので(録画は配信予定です)、もし興味のある人は、メールでzoomアカウントをリクエストして頂けば、返信で送ります。
今日は身近な病気の話を紹介する。米国・国立衛生研究所、歯学部門からの論文で、主に実験的だが、重症歯周病のメカニズムを明確にしたよくまとまった話だ。タイトルは「Fibrin is a critical regulator of neutrophil effector function at the oral mucosal barrier(フィブリンは口内粘膜バリアーでの白血球機能の重要な調節因子)」で、12月24日号のScienceに掲載された。
この研究はプラスミノーゲン遺伝子の機能異常は口内炎になるという遺伝疫学解析からスタートしている。プラスミノーゲンは活性化されプラスミンへと転換し、これによりフィブリンを分解する。従って、この遺伝解析結果は、口腔粘膜の炎症がフィブリンの分解と強くリンクしていることを示している。
これを確かめるため、この研究ではプラスミノーゲン遺伝子欠損マウスを調べると、確かに歯槽骨が吸収され、歯根が露出することを確認する。同じ症状は、活性化出来ないプラスミノーゲン遺伝子を持つマウスでも起こる。
一方、プラスミノーゲン欠損マウスでも、フィブリンが出来ないフィブリノーゲン欠損遺伝子を併せ持っていると、歯槽骨の吸収は見られない。すなわち、フィブリンの沈着が最終的な歯周病の引き金を引いていることが明らかになった。
ではフィブリン沈着がなぜ強い炎症に発展するのか?これを調べるために、フィブリンが沈着した歯周組織に集まってくる細胞の変化を調べると、浸潤細胞のほとんどが好中球で、免疫性の炎症と言うより、細菌感染による細胞浸潤に近い病理過程が起こっていることが分かる。事実、プラスミノーゲン欠損マウスでも無菌マウスでは歯槽骨の吸収がないことは、細菌感染により誘導される好中球浸潤が重要な役割を果たしていることが分かる。
こうして浸潤してきた好中球は、フィブリンと結合するインテグリンを発現しており、例えばインテグリンと結合できない変異を持つフィブリン遺伝子を持つマウスでは、細胞浸潤が強くても歯槽骨吸収は見られない。すなわち、好中球がインテグリンを介してフィブリンと結合することで、好中球が活性化され、炎症が起こる。
実際、試験管内の実験系で、好中球がフィブリンによって特殊な細胞死、NETosisに陥り、DNAを周りに吐き出して炎症サイトが形成されることも示している。
最後に、NETosisにより組織へ放出されるDNAをDNaseIで分解すると、炎症が抑えられること、あるいは好中球のえらスター背が欠損すると、炎症が抑えられることを示している。
以上のことから、凝固線溶系への介入、インテグリン阻害、そしてDNaseIやエラスターゼ阻害剤など、様々な治療可能性が明らかになった面白い論文だと思う。
これらは全てマウスの話だが、人間でもプラスミノーゲン遺伝子顆粒に歯周病リスクSNPが存在しており、重症歯周病については同じと考えていいのではと思う。
最も身近な炎症にも光が当たってきたようだ。