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1月15日 多発性硬化症はEBウイルスが誘導する(1月13日 Science オンライン掲載論文)

2022年1月15日

多発性硬化症(MS)は、ミエリンに対する自己免疫反応が基盤になっているが、この自己免疫反応の引き金を引くのがウイルス、特にEBウイルスではないかという可能性は長く示唆されてきた(例えば、Ana. Neurology 59, 2006:図)

ただ、EBウイルスの感染は全世界の95%が経験しており、いくらEBウイルス感染後にMSリスクが上昇したからと言っても、確かに因果性があると簡単に結論することは出来ない。

この問題を、米軍兵士1千万人のコホートサンプルを用いて解決し、EBウイルス感染が引き金になっている疑いが極めて濃いことを示したハーバード大学からの論文が1月13日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Longitudinal analysis reveals high prevalence of Epstein-Barr virus associated with multiple sclerosis(長期追跡研究により多発性硬化症がEBウイルス感染とリンクしていることが明らかになった)」だ。

これまで、EB感染者とそれ以外を分けてMS発症を調べる研究は行われていたが、因果性まで示すとなると、感染と発症との関係をより詳細に追跡する必要がある。この研究では、米軍兵士1千万人の中から955人がMSを発症した集団を対象にした追跡研究を元に、残っている血清からEBウイルスの感染時期やEBに対する免疫反応や神経変性を検査し、因果性を確かめようとしている。

結果は驚くべきものだ。必要な全ての材料が残っていたMS例が801例だが、発症に一番近い時点で採取された血清でEB感染を調べると、陰性だったのは1例だけで、EB感染率を考えても極めて高い。

さらに驚くのは、さらに前の血清を調べ、最初はEBに感染しておらず、その後いつEBウイルスに感染したのか追跡できるケース35例を抜き出してみると、1例を除く全てが、MS発症以前のどこかでEBウイルスに感染し、その後MSを発症していることが明らかになった。すなわち、EBウイルス感染と、MS発症に強い時間的因果性があることが分かった。

同じように、最初は陰性だが、どこかで感染するウイルスとしてサイトメガロウイルスを調べてみると、感染とMS発症とに全く因果性は認められない。

さらに、自己免疫反応による神経変性をある程度反映できる検査マーカーを用いてEB感染、MS発症と、神経変性の始まりをモニターすると、EB感染以後、MS発症前から変性が始まっていることが明らかになった。また、VirScanと呼ばれる網羅的抗ウイルス抗体検出法を用いて、全体的な免疫変化が起こっているのでは無く、EB感染による変化が特異的に起こっていることも確認している。

結果は以上で、極めて大きな集団を対象にすることで、感染実験と同じことが可能になり、結果EB感染によるMS発症リスクは32倍と、驚くべき数値がはじき出されている。

この数値だけで驚くが、もう一度EB感染という視点からこの病気を見直してみると、全く新しい治療が可能になるのではと期待している。

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