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1月9日 自閉症児に見られる感覚異常の原因を探る:自閉症の科学50(1月5日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年1月9日

自閉症スペクトラム(ASD)の背景には、神経発生過程のちょっとした違いによる神経ネットワークの変化があることが想定されている。中でも、神経興奮を抑制するGABA作動性の神経活動の異常と、それによる感覚異常がASDに関わる可能性が示唆されている。このHPでも、脳内には到達しないGABAシナプス刺激剤を投与すると、感覚異常が改善され、ASD様症状が抑えられることを明らかにした論文(https://aasj.jp/news/autism-science/11245)や、細菌叢がASDの症状に関わるのもGABA作動性の抑制神経の活動が低下しているためである可能性を示す論文を紹介してきた(https://aasj.jp/news/watch/10310)。

今日紹介する英国キングズカレッジからの論文は、Spatial Suppressionと呼ばれる感覚抑制で誘導される脳波記録と、プロトンMRSと呼ばれる脳内のGABA濃度を測定とを組み合わせて、ASDの感覚異常がGABA作動性神経の低下に起因する可能性を示した研究で、1月5日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「GABA B receptor modulation of viual sensory processing in adults with and without autism spectrum disorder(ASDおよび正常成人の視覚処理はGABA B受容体により変化させられる)」だ。

これまで、ASDの感覚異常の一つとして、Spatial suppuressionの低下が知られていた。これは、画面に現れる対象物(例えば縞模様)をコントラストを変えて提示し、同時に背景の方も視覚認識を邪魔するような模様を様々なコントラストで提示し、対象物を正確に認識できるかどうかを調べるテストだ。典型人での視覚認識では、対象物のコントラストが鈍っても、周りの邪魔するパターンが強くなっても、認識力は低下する。ところが、ASDの人では、このような低下があまり認められないことが知られていた。

この研究では典型人、ASDを3群に分け、1群は何もしない、2群は少ない量のGABAシナプス刺激剤、そして3群に多い量の刺激剤を服用してもらい、spatial suppressionテストを行ったときの脳波を記録、視覚認識が低下するかどうかを調べている。

結果は、刺激剤を投与していない場合、期待通り典型人ではspatial suppression テストで誘導される脳波の変化が強く表れるが、ASDではこの変化が見られない。すなわち、脳の反応としては周りの背景に邪魔されることが少ない。

ところが、GABAを刺激する薬剤を多く投与したグループでは、これが逆転し、ASDでは認識が邪魔されるのに、典型人では影響が少ない。この結果は、GABA刺激の量が、spatial suppression の程度を調節していることを強く示唆しておりASDでも典型人と同じレベルにGABA刺激を高めてやると、視覚の認識異常が正常化することがわかる。逆に、正常人で同じ量のGABA刺激剤を服用すると、spatial suppressionが見られなくなるのは、刺激が過剰になると回路がうまく働かないことを示している。

このようにGABAの量によりspatial suppressionが調節されていることを確認した後、プロトンMRSと呼ばれる技術を用いて、spatial suppression課題を行っているときの、視覚野でのGABA濃度を測定している。結果は完全に期待通りで、spatial suppressionによる脳波の変化と、GABA濃度の間には強い相関が見られる。そして、ASDでは、GABA濃度の上昇が見られない。

以上の結果から、少なくとも視覚については、GABA抑制性神経の活動の低下が感覚異常を誘導し、それが自閉症様症状にも寄与する可能性が示された。薬剤による症状改善も示されていることから、この過程を標的にした治療法の開発も期待できる、重要な貢献だと思う。

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