昨日はマクロファージに発現した嗅覚受容体の話を紹介したが、今日は十二指腸で発現している味覚受容体の話を選んだ。この論文を読むまで、味の感覚は全て舌にある味覚受容体を介して伝達され、好みといった行動は、意識下の味覚認識に依存していると考えていた。しかし、甘みに対する受容体を欠損させたマウスが、なんと砂糖の入った食べ物を好むことが発見され、意識下の味感覚以外にも甘さが感知されていることが明らかになっていた。
今日紹介するデューク大学からの論文は、最近発見されたneuropod細胞が、異なるメカニズムで、蔗糖と人工甘味料を区別し、シナプス結合している迷走神経を刺激することで、蔗糖への好みが形成されることを示した大変な力作で、1月13日Nature Neuroscienceにオンライン掲載された。タイトルは「The preference for sugar over sweetener depends on a gut sensor cell(人工甘味料より砂糖を好む行動は腸の感覚細胞に依存している)」だ。
コレストキニン(CCK)を発現するNeuropod細胞(NC)が、腸管内分泌細胞だけで無く、迷走神経とシナプスを形成することで、感覚神経として働いていることが確立したのはつい最近(2015-2018年)のことだ。この研究では、このNCが、味覚が無くても、砂糖を好む行動を支配しているのではと考え、この可能性を膨大な実験を積み重ねて明らかにしているが、特に脳向けに開発された光遺伝学を腸内へ適応するために開発し直すなど、大変な力作だ。詳細は省いて、結果だけを箇条書きに紹介する。
1)蔗糖や人工甘味料のスクラロースは、十二指腸に注入すると、迷走神経興奮を引き起こす。この興奮は光遺伝学的にNC細胞を過興奮させることで抑制されることから、NCがセンサーになっている。
2)NC細胞にはシナプス形成分子のみならず、甘み受容体を形成できるT1R3やグルコーストランスポーターSGLT1が発現している。
3)蔗糖はグルコースに分解された後、SGLT1を通って細胞内に流入することで、興奮を誘導する。一方、スクラロースはT1R3に直接作用してNCを興奮させる。それぞれの刺激反応の仕組みは、細胞ごとに違っており、これが砂糖とスクラロースを区別する基盤になっている。
4)GLUT1を介する砂糖の刺激はグルタミン酸、T1R3を介する刺激はATPを神経伝達因子として使う。
5)砂糖への好みはグルタミン酸による興奮伝達による条件付けにより成立しており、グルタミンによるシナプス刺激を十二指腸で抑えると、砂糖への好みは消失する。
以上が結果で、まとめてしまうのが申し訳ないぐらいの面白い研究だ。この無意識の感覚がなぜ発生したのか、省略したがなぜ果糖は感じられず、蔗糖なのか、など進化的に面白い話が満載の気がする。