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5月15日 老化による神経再生能力低下のメカニズム(5月13日号 Science 掲載論文)

2022年5月15日
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昨日に続いて今日も老化と神経再生の論文を選んでみた。昨日のスタンフォード大学からの論文をまとめると、老化とともに脳脊髄液中の Fgf17 が低下し、その結果オリゴデンドロサイトのリクルートが低下し、シュワン細胞によるミエリン形成が低下し、老化による白質障害が生じるが、若い脳脊髄液、あるいは Fgf17 を脳に投与することで、オリゴデンドロサイト再生を促し、認知機能を正常化できるという話だった。

ただ、老化を一つの分子の欠損だけで説明することは難しい。今日紹介するインペリアルカレッジロンドンからの論文は、神経系の老化には炎症により誘導される一種の自己免疫的反応による神経再生能の抑制が存在することを明らかにし、これを正常化する方策を示した研究で、5月13日号の Science に掲載された。タイトルは「Reversible CD8 T cell–neuron cross-talk causes aging-dependent neuronal regenerative decline(CD8T細胞と神経細胞の可逆的な相互作用により老化依存的神経変成がおこる)」だ。

この研究では脊髄後根神経で発現している遺伝子を、若いマウスと年寄りのマウスで比較し、CXCL13 を中心にリンパ球浸潤を誘導するケモカインが老化とともに強く上昇することを発見する。また、CXCL13 の作用により、老化マウス後根には多くのCD8T細胞とB細胞が浸潤していることを発見する。

すなわち、一種の自己免疫現象が老化により生じる可能性を示唆するが、実際の老化による再生能力の低下がリンパ球浸潤によるのかはわからない。そこで、座骨神経を傷害する神経再生モデル実験で、CXCL13 を抗体により阻害すると、神経再生能を若いマウスレベルに快復させることが出来ること、逆に若いマウスの神経細胞に CXCL13 を強制発現させると、神経再生が抑えられることを示している。

では、浸潤してきた細胞が本当に自己抗原に対して反応しているのかについて、人工的自己抗原を神経に発現させる実験を行い、CD8T細胞が、神経細胞の MHC に提示された自己抗原ペプチドに反応するれっきとした自己免疫反応であることを証明している。また、この反応によりおそらく granzymeB 依存的に神経細胞細胞死が誘導されルことも示している。従って、老化による神経の喪失も、同じように自己免疫性の炎症が関わっている可能性を示している。

以上、神経細胞で CXCL13 のようなケモカイン分泌が上昇することが、老化に伴う再生能力低下、および老化による神経細胞喪失につながることを示しているが、この変化を NFkB 刺激を介して誘導するさらに上流の刺激については、リンフォトキシンである可能性が示されているが、なぜ老化でリンフォトキシンシグナルが神経に働くのかはこれからの研究になる。

以上老化による神経再生能の低下には、れっきとした自己免疫反応を呼び込んでしまう仕組みが働いていることが明らかになった。幸い昨日の研究と同じで、このプロセスは可逆的で、介入可能なので、これから様々な方法が開発されると思うが、免疫自体を抑えるような方法は、逆にガン発生を促進するので、簡単ではないように思う。

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