ガンのステージングは、ガンの大きさ、浸潤とともに、リンパ節転移の有無と広がり、そして他の臓器への遠隔転移の有無を元に決められる。リンパ節への転移と、遠隔臓器への転移は、通常リンパ管、血管とそれぞれ異なるルートを通って起こるため、独立して進んでいいのだが、医者の頭の中ではどうしてもガンが拡がる一つの過程として捉えがちだ。すなわち、リンパ節転移が先にあって、そこでより転移しやすいガンに変化するのではと思ってしまう。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、リンパ節転移しやすいガン細胞を分離して、リンパ節転移と遠隔転移の関係について、かなり古典的な方法を用いてアプローチした研究で、5月26日号の Cell に掲載された。タイトルは「Lymph node colonization induces tumor-immune tolerance to promote distant metastasis(ガン細胞のリンパ節への転移はガンの免疫トレランスを誘導し遠隔転移を促進する)」だ。
これまで遠隔転移しやすいガン細胞を分離して、転移に必要な条件を調べた論文は数多く読んできたが、リンパ節転移しやすいガン細胞を人為的に分離するという論文は読んだ記憶はほとんどない。この研究のハイライトは、ガン細胞株を移植後、リンパ節を採取して、そこに含まれるガン細胞をまた移植するサイクルを何度か繰り返して、リンパ節へ行きやすくなったガン細胞を分離したことだ。
こうして分離したリンパ節転移の起こりやすいガン細胞株と親株を、それぞれ異なる蛍光色素で標識し、皮下に注射する実験を行い、
- リンパ節転移能力で分離したガン細胞株の方が、親株と比べ、圧倒的にリンパ節転移を起こしやすい。
- しかし、肺転移で見ると、起こりやすさに両者の差はない。
- しかし、リンパ節転移を起こしやすいガン細胞と同時に移植すると、親株だけの場合より遠隔転移が促進される。
ことを発見している。すなわち、遠隔転移とリンパ節転移は全く別の過程ではあるが、リンパ節転移が起こると、遠隔転移が起こりやすくなることを明らかにしている。
この二つの現象の発見が研究の全てで、後はそれぞれの過程を支えるメカニズムを探求している。
まずリンパ節転移だが、転移しやすくなるとともにインターフェロン反応性の遺伝子の発現が上昇していること、またこの上昇がエピジェネティックなリプログラミングによるという結果から、リンパ節で免疫システムからのインターフェロンにより、リプログラムされた結果転移が起こりやすくなること、そしてインターフェロン反応性遺伝子の中でも、クラス1組織適合性抗原と PD-L1 の発現が、NK細胞からガン細胞を守ることでリンパ節転移能を高めることを明らかにしている。
一方、リンパ節転移により、他の遠隔転移が起こりやすくなる点については、ガンの転移によりリンパ節内の免疫システムの大きな変化が起こり、特にガン特異的な抑制性T細胞が誘導されることで、ガンに対する免疫が低下し、遠隔転移が促進されることを示している。
結果は以上で、古典的な病理研究といった感じで読んでいてほっとする研究だが、今後この発想の元、例えば乳ガンのケースで検証する必要があるだろう。