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5月24日 皮膚移植の瘢痕形成を抑制する(5月18日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年5月24日
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やけどを始め様々な状況に皮膚移植が使われるようになっているが、損傷が大きい場合は利用できる皮膚片は皮下組織のあまり含まれていない薄い皮膚になるため、修復箇所に瘢痕形成が起こるのが問題で、特に修復箇所が引きつったように縮んでしまう。基本的には、いわゆる線維化の問題で、これまで多くの研究が行われているのだが、形成外科医の立場に立って臨床的な解決を探るといった研究はあまり行われておらず、結局この問題に対するFDAにより認められた治療法はない。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、豚を使った皮膚移植モデルを用いて、修復後に進行する細胞プロセスをsingle cell RNAseqを用いて調べることで、線維化の引き金になる要因を特定し、それを治療する方法の開発を目指した前臨床研究で、5月18日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Disrupting mechanotransduction decreases fibrosis and contracture in split-thickness skin grafting(メカノシグナルを抑制することでsplitthickness皮膚移植での線維化と組織の収縮を抑えることが出来る)」だ。

研究自体は特に目新しさはない。しかし、豚の皮膚を大きく切除して、そこに自己の皮膚を移植するというまさに実際に行われている臨床に即した実験系を用いて修復過程を追跡していることが、最大の特徴だ。特に純系の実験動物でなくても、single cell RNAseq(scRNAseq) を用いることで、そこで起こっている分子過程を追跡できるようになったおかげで、このような実験が容易になっている。

タイトルで splitthickness 途あるのは分層植皮と呼ばれる方法のことで、皮膚の上層のみを採取して移植する方法を意味している。

さて、移植後の経過を追うと、白血球、線維芽細胞で大きな遺伝子発現の変化が見られ、特にメカノシグナルと呼ばれる機械的な刺激による遺伝子発現が高まっていることがわかった。そこで、メカノセンサーに関わる FAK 阻害剤が徐放されるように設計したジェルとともに皮膚移植を行うと、外見的にも、組織学的にも瘢痕の少ない皮膚が再生される。

臨床応用へ向けた前臨床研究とすれば、これで終わりなのだが、このグループはさらにメカニズムを追求するために、阻害剤を加えた皮膚移植による修復と、加えない場合の修復を比較し、メカノセンサー阻害がどのように作用しているのか詳しく調べている。

結果、意外なことに、この効果はまず白血球に現れ、炎症を抑える方向で働くことを示している。その後、線維芽細胞でもメカノシグナルが発生し線維化や形質転換が起こるが、阻害剤はここでも効果を現し、線維芽細胞の暴走を抑えていることを明らかにしている。

最後に、試験管内培養システムで、人間の線維芽細胞のメカノシグナルを、FAK 阻害剤で抑えられることも確認し、最終的な応用への布石を打っている。

以上が結果で、実際の臨床セッティングに併せて実験が行われた結果、メカノシグナルが2段階にわたって、まず白血球、そして線維芽細胞に働いていることを明らかにしている。繰り返すが、このような臨床に即した研究が可能になったのはなんといっても scRNAseq のおかげだと思う。この方法を知ったときに予想したように scRNAseq の臨床応用は大きく広がり続けている。

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