大麻や合成カンナビノールには、これまでの薬剤では達成できなかった様々な神経作用が明らかになり、化学療法による嘔吐については FDA も合成カンナビノールをの使用を認可している。ただこれ以外にも、痛みやてんかんなどにも有効であることから、医療での使用を拡大する重要性は指摘されている。
ただ一方で、個人的大麻使用については規制を撤廃する国々は増加している。これはタバコと比べて習慣性がなく安全であるという結果に基づいた措置だが、大麻使用に副作用が存在することは間違いなく、以前紹介した脳に対する影響だけでなく(https://aasj.jp/news/watch/6051)、心臓血管系に様々な障害を誘導することが指摘されてきた。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、大麻と合成カンナビノールが血管内皮を傷害し、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高めることを示し、またこの副作用を大豆イソフラボンの一つゲニスタインが軽減できることを示した研究で5月12日号 Cell に掲載された。タイトルは「Cannabinoid receptor 1 antagonist genistein attenuates marijuana-induced vascular inflammation (カンナビノイド受容体1の阻害剤ゲニスタインはマリファナにより誘導される血管炎症を軽減する)」だ。
マリファナが心血管障害を誘導する可能性は以前から指摘されている。従って、この研究はこの可能性を皆が納得できる方法で証明し、治療方法を開発するかが課題になる。方法論的な新味はないが、このような目的に対して現在可能な一つのスタンダードを示している印象がある。
まず大麻使用が心血管系の副作用を有するか臨床的に検討するため、UK バイオバンクデータベースを用いて、大麻使用と心筋梗塞の発症率の相関を調べ、月1回以上大麻を使用していた人は、心筋梗塞の頻度が0.45%から0.57%へと上昇することを確認する。
次に、大麻を嗜好目的で利用している人について、様々な炎症性サイトカインの血中濃度がマリファナ使用で高まることを明らかにしている。
この結果から血管内皮に影響があると仮説をたて、まず血管内皮細胞株、そしてヒト iPS 由来血管内皮細胞を用いて、合成カンナビノール THC の効果を調べ、大麻が活性酸素を内皮で上昇させ、酸化ストレスを誘導することを明らかにしている。
これは大麻使用で炎症が抑えられるという、思い込みや、報道とは真逆の結果になるので、さらに iPS 由来血管内皮を用いて、カンナビノール受容体 (CB) が刺激を受けると、MAP キナーゼが活性化され、その下流で炎症を司る NFkB が活性化され、血管内皮炎症状態が持続することを明らかにしている。
次に、この副作用を軽減できる CB 阻害剤を探索し、大豆イソフラボンの一つゲニスタインが CB1 の阻害剤として利用できることを発見する。
そして最終的に、動脈硬化実験動物モデルを用いて、THC の連続等よにより動脈硬化が悪化すること、またゲニスタインはこれを阻害することを明らかにしている。ただ、CB 阻害によって、効果そのものも帳消しになれば元も子もないことになるが、ゲニスタインは脳への移行が低く、THC の神経作用は抑制しないことも確認している。
以上、新しいという印象は全くないが、一つの臨床的課題に、現在利用できるツールを駆使して取り組み、これまでの懸念を明確にするとともに、エビデンスのない思い込みを排除し、最後にすぐに可能な治療法まで開発したという、お手本のような研究だと思う。後は臨床試験だけだが、そう難しくはないだろう。いずれにせよ、大麻にも副作用があることは明確になり、嗜好目的で使っていいのかは疑問がある。