皮膚の病変診断のために様々な方法が開発されている。皮膚の極めて浅い部分であれば反射光を拾う共焦点顕微鏡、もう少し深いところでは眼科で用いられるのと同じ optical coherence tomography が開発されている。ただ、網膜が、像と比べると、皮膚での解像度は低い印象がある。実際には皮膚科や形成の先生に聞いてみないとわからないが、普及していないのではないだろうか。
これに対し、今日紹介するミュンヘン工科大学からの論文は、光を当てて組織内に超音波を発生させるという神業で、皮膚の深部画像を撮影できる optoaxoustic mesoscopy を開発し、乾癬治療効果判定に用いた研究で、5月11日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは、「Enabling precision monitoring of psoriasis treatment by optoacoustic mesoscopy (optoacoustic mesoscopyを用いると乾癬の治療効果を正確に診断できる)」だ。
タイトルにある mesoscopy は巨視的と微視的の中間という意味で、共焦点顕微鏡のように微視的な解像度と、超音波診断のような巨視的画像の中間になると考えてもらえばいい。基本的に対象は表皮から真皮までの皮膚の構造の画像化だ。
我々素人から見ると、こんなことが可能なのかと驚く。すなわち、当てた光が吸収されると熱を発生し、この結果組織が拡大する。この時発生する超音波を拾って、組織構造を推定する方法だ。実際には、発生する超音波の波長の異なる組織を画像化することが出来る。皮膚の場合、メラニン色素、酸化ヘモグロビン、そして脱酸素ヘモグロビンを検出できる。従って、画像化されるのは短い波長をだす皮膚表層の毛細血管と、長い波長を発生する皮膚深層の少し大きめの血管網になり、それぞれの波長に応じて緑と赤で色分けして表示できる。
この研究では、皮膚科で患者さんの多い乾癬の治療効果をこの器械で正確に診断できるか調べている。画像だが、ケラチノサイトの肥厚部は真っ暗に、表層の毛細血管は緑に、そして深部の大きめの血管は赤に染め分け、上部と下部をつなぐ血管も画像化できている。この結果、毛細血管のループの長さ、太さ、厚さなどを数値化することが出来て、画像の印象だけでなく、治療効果を数値で表すことが出来るという結論だ。
おそらく、経験豊富な皮膚科医なら、視診と触診などで十分診断できるレベルかもしれないが、光と超音波を組みあわせた面白い診断機器が完成したことは間違いない。乾癬だけでなく、例えば糖尿病などの微小血管の変化を伴う病気や、あるいは歯肉などにも応用可能だろうと思う。さらに発展することを期待したい。