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6月1日 思春期に睡眠が妨げられると、新しい出会いへの好奇心が低下する(5月26日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2022年6月1日
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私たちの精神形成にとって、思春期の重要性を疑う人は誰もいない。しかし、我々がこの時期に受ける社会からの影響は極めて複雑で、発達に影響する様々な行動を特定し、それを是正することは簡単でない。また、この時期に神経学的な介入を行える動物モデルを作ることはさらに難しい。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、人間を含むほとんどの動物で共通にみられる行動の一つ、睡眠を取り上げ、思春期に慢性的に睡眠を妨げられたマウスが、新しい経験への好奇心が低下すること、およびそのメカニズムを神経学的に解明した論文で、眠りを取り上げたことで、マウスと人間をつなぐ将来の実験が可能にできる研究だと言える。タイトルは「Adolescent sleep shapes social novelty preference in mice(思春期の睡眠は新しいものへの好奇心形成に関わる)」で、5月26日 Nature Neuroscience にオンライン掲載された。

この研究では脳波を調べながら、生後35〜42日(この時期をマウスの思春期としている)の1週間、睡眠に入ったとき、床を動かせて眠りを慢性的に阻害する介入を行っている。42日以降は普通に過ごさせ、56日目に、マウスの社会性を調べる実験を行っている。

行動実験の概要だが、まず1番目のマウスと対面させ、一定期間後、今度は、1番目のマウスに加えて2番目の初対面のマウスを用意し、それぞれに対する反応を調べるというものだ。

元々マウスは好奇心旺盛な動物で、1番目のマウスに出会ったときはそちらに興味を引かれるが、次に一度出会ってなじんだ動物と、初対面の動物のどちらに興味を示すかを比べると、初対面のマウスの方により興味を示すことが知られている。ところが、思春期に眠りを妨げられたマウスでは、1番目のマウスと出会ったときの反応はコントロールと違いはないが、次に1番目と初対面のマウスを同時に提示したとき、初対面の方にはほとんど興味を示さない。これは思春期に眠りを妨げたときだけに起こる現象で、大人になってから同じような処置をしても、この変化は現れない。

後は、この変化の神経学的メカニズムについて調べている。初対面マウスへの好奇心に関わる腹側被蓋のドーパミン産生ニューロンに焦点を絞り、カルシウム流入を調べながら行動を追跡すると、行動と一致して、1番目のマウスと出会ったときの反応には変化がないが、次のトライアルで1番目と初対面マウスに出会ったときに、コントロールで見られる初対面マウスに対して見られる強い反応が、思春期に睡眠を妨げた群では強く抑えられているのが明らかになった。

腹側被蓋ドーパミンニューロンは、側坐核と前島皮質へと投射しており、そこでのドーパミン分泌を調べると、正常マウスでは1番目のマウスと出会ったとき、側坐核でのドーパミン分泌が上昇した後すぐに低下するのに、眠りを妨げられた群では、上昇したドーパミン分泌が、ほとんど低下しないこと、そして2回目のトライアルでは、初対面のマウスに対して反応したときに起こるドーパミンの分泌が全く起こらないことが明らかになった。即ち、最初に出会ったマウスに強く反応が固定されてしまって、その後他のマウスへの興味が断たれていることがわかった。

そして、睡眠を妨げられることで、腹側被蓋と側坐核の投射が強まり、一方腹側被蓋と前頭皮質との結合が低下することが、このドーパミン分泌、および行動の差につながっていることを明らかにしている。

以上、わかりやすくまとめてしまうと、特に思春期の睡眠が阻害されることで、腹側側坐核ドーパミン神経の投射が大きく変化し、その結果最初に出会った方のマウスに好奇心が固定化されることが、この行動変化のメカニズムであることがわかった。

この最初でに出会ったマウスに好奇心が固定され、新しいマウスに向かない現象は、マウスの自閉症モデルでも見られるので、最後にこの自閉症モデルマウスの症状も、睡眠障害で説明できないか調べている。結果は期待通りで、モデルマウスでは思春期の睡眠が自然に妨げられおり、その結果腹側被蓋ドーパミンニューロンと側坐核の投射増加していることがわかった。すなわち、思春期に睡眠を妨げたのと同じ状態を、自閉症モデルマウスが示すこが明らかになった。

驚くことに、自閉症モデルマウスの思春期の睡眠を、薬剤で正常化してやると、このドーパミン神経の変化が起こらないことを示し、少なくとも自閉症モデルマウスの好奇心欠如を、睡眠を正常化させることで治療できる可能性を示している。

以上、大変面白い研究だと思うが、これを人間に当てはめていくにはまだまだ時間がかかる印象だ。

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