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6月21日 IL6はガンを染色体不安定ストレスから守る(6月15日 Nature オンライン掲載論文)

2022年6月21日
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昨日に続いて、ガンの弱点を突く治療法の開発研究を紹介するが、昨日のBRAF/MEK阻害剤をアンドロゲン受容体阻害剤で抑えられることを示した現象論に徹した研究と比べると、細胞内のメカニズムを明らかにして研究を進めているので、読んだ満足感は高い。

今日紹介するオランダ・フロニンゲン大学からの論文は、正常細胞ならすぐに細胞死に陥る染色体不安定性をガン細胞は許容できるのかについて、染色体不安定性が引き金となるシグナル経路を徹底的に詰めて、メカニズムを明らかにし、新しいガン治療の可能性を示した研究で、5月15日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「cGAS–STING drives the IL-6-dependent survival of chromosomally instable cancers(cGAS-STINGはIL-6依存性に染色体不安定性を示すガン細胞の生存を助ける)」だ。

タイトルにあるGAS/STINGについては自然免疫の知識が必要なので、ザクッと説明しておこう。GAS-STINGは細胞質に存在するDNAセンサーで、DNAウイルスが侵入したときに、自然免疫系を活性化する分子だ。ただ検出する細胞質のDNAは、必ずしも侵入したウイルスDNAだけではなく、分裂時に染色体不安定性生じると、ちぎれたDNAもGAS-STINGに検知され、細胞死を誘導することで、異常な細胞を除去する仕組みにもなっている。

この研究では「ガンはしばしば染色体不安定性を示すのに、このシグナルによる細胞死から逃れているのか?」と言う不思議にチャレンジしている。

これに対する答えは、ガンでは全くGAS-STINGが機能していないと言うものだが、染色体不安定性を示す乳ガンを調べてみると、細胞分裂を阻害して染色体不安定性を高めると、このシグナル経路がはっきりと活性化されていることをまず確認している。すなわち、GAS-STING経路は働いているが、細胞はアポトーシスから守られていることになる。

そこで発想を逆転させ、GAS-STINGが染色体不安定性にによる細胞死を守る働きがあるかどうか、GAS-STINGをノックアウトしたガン細胞の染色体不安定性を誘導して調べると、驚くことにGAS-STINGシグナルが欠損すると、細胞死が誘導されることを発見する。

ここまで来ると、GAS-STINGシグナル経路は詳しく研究されているので、下流のシグナルを一つづつたどっていくことで、染色体不安定性から細胞を守るシグナル経路を特定できる。

GAS-STING経路は、主にIRF3およびNFkBの2つの回路を通して、自然炎症や細胞死を誘導しているが、この研究では、細胞レベルのノックアウトやシグナル阻害剤を用いて、染色体不安定性のストレスから細胞を守るシグナルを検索し、STAT3およびnon-canonical NFkB経路として知られるシグナル経路を介して、細胞が守られていることを明らかにする。

この経路は、IL-6の誘導路として知られているので、次にこの経路で分泌されるIL-6が細胞を守る鍵ではないかと着想し、染色体不安定性を誘導したガン細胞にIL-6 を加える実験を行い、予想通りIL-6だけで染色体不安定性を誘導した細胞を守れることを明らかにしている。

以上をまとめると、GAS-STINGは通常IRF、インターフェロン、STAT1経路を介して細胞死を誘導するが、これをもう一つのNFkB経路によって誘導されるIL-6が抑制していることになる。即ち、GAS-STINGはもともと相反する効果を誘導する、微妙なシグナルであることが想像される。

いずれにせよ、染色体不安定ストレスにさらされているガンでは、細胞を守るシグナルが強いので、下流のIL-6シグナルを抑えて、このバランスを崩すことで、ガン細胞を殺せないか、IL-6受容体の阻害剤を用いて調べると、染色体ストレスを誘導したガン細胞が殺されることを試験管内、およびガンの移植系で確認している。即ち、染色体の不安定性を強く示すガンや、染色体不安定性を誘導する薬剤を治療に用いる場合、IL-6シグナルを止めてやることで、ガンの治療効果を高められる可能性を示している。

最後に、人間のガンのデータベースから、IL-6Rを高発現しているガン患者さんでは生存が短いことも示し、この研究結果を実際の治療に利用できる可能性が大きいことも示している。

以上、徹底的にシグナル経路をたどることで、明日からでも可能な新しい治療法の可能性を示した研究で、読者としても様々なシグナル分子をたどりながら満腹した。

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