パーキンソン病を誘導する遺伝子変異の中では、Parkin と Pink についての研究が最も進んでいる。Parkin は蛋白分解する分子をユビキチン化するユビキチンリガーゼで、Pinkキナーゼにより活性化された Paris をユビキチン化、分解に関わる。これが変異でうまくいかないと、Paris が蓄積し、ミトコンドリアの増殖が低下、細胞ストレスにより神経細胞死が起こるというのがシナリオの基本になっている(https://aasj.jp/news/watch/6449)。
一方、最終的な神経細胞死には炎症のメカニズム、特にインフラマゾーム形成が関わっている可能性も指摘されてきた。
今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、Parkin がインフラマゾーム構成成分の NLRP3 を分解して炎症を抑えており、この経路が変異で阻害されると、NLRP3 活性化、カスパーゼ活性化の経路が動いて神経細胞死が誘導されることを明らかにした研究で、6月1日 Neuron にオンライン掲載された。タイトルは「Neuronal NLRP3 is a parkin substrate that drives neurodegeneration in Parkinson’s disease(神経細胞の NLRP3 はパーキンの基質でパーキンソン病の神経細胞死の原動力になっている)」だ。
この研究では最初から NLRP3 が合成、活性化されることが、神経細胞死の元にあると決めて研究が行われている。例えばマクロファージでインフラマゾームが形成されるためには、炎症物質による NFkB を介する刺激により NLRP3 が合成され、これが様々な刺激で複合体を形成する必要がある。
この研究のハイライトは、ドーパミン神経で Parkin をノックアウトすると、それだけで、すぐに NLRP3 が蓄積を始め、集合してインフラマゾームを形成し、カスパーゼ活性化による細胞死が起こることを発見したことだ。
そして、Parkin は直接 NLRP3 と結合してユビキチン化し、分解することで、炎症物質により NLRP3 の合成が上昇しなくても、Parkin の機能が低下することで、自動的に NLRP3 が蓄積しやすくなっていることを明らかにした。
ただ、NLRP3 が合成されるだけでは、インフラマゾーム形成は起こらない。これについては、Parkin の重要な標的 Paris が分解されずに蓄積することで、ミトコンドリアへのストレスが高まり、これが NLRP3 の集合を誘導していることを示している。
以上、Parkin 機能が低下するだけで、NLRP3 レベルの上昇とその活性化によるインフラマゾーム形成の二つの過程にスイッチが入ることを示し、これまで研究されてきた Pink/Paris/Parkin 経路がインフラマゾームと見事につながった。
最後に、αシヌクレインの蓄積による一般的パーキンソン病でこの経路が働いているか検討し、シヌクレイン蓄積により Parkin 活性が低下することを示し、同じインフラマゾーム、細胞死の過程が通常のパーキンソン病でも働いていることを示している。そして、インフラマゾームやカスパーゼが治療対象になることもマウスモデルで明らかにしている。
以上が結果で、言われてみれば納得の話で、何故今までわからなかったのかが不思議なぐらいの話だ。ただ、Parkin とインフラマゾームがつながることで、新しい治療標的が見つかったことは大きい。また、パーキンソン病では他の炎症要因も高まっているとする研究が多く存在するので、それら全体を統合的に考える意味でも、重要な話だと思う。