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「RNAワールドから現生生物への一歩」についてのジャーナルクラブ開催。

2022年6月11日

6月28日午後6時から、5月19日論文ウォッチで紹介したドイツミュンヘン大学からの論文(https://aasj.jp/news/watch/19688)を中心に、無生物から生物誕生過程を議論するジャーナルクラブを開催します。直接参加したい方は、zoomアカウントを送りますので、AASJまでメールをお送りください。以下が紹介する論文です。その模様はYoutubeでもリアル配信します。是非ご覧ください。 Youtube: https://www.youtube.com/watch?v=1GcigztiRZE

カテゴリ:ワークショップ

6月11日 GLP-1 の食欲抑制効果のメカニズム(6月2日 Cell オンライン掲載論文)

2022年6月11日

昨日に続いて消化管ホルモン GLP-1 についての研究を紹介する。

糖尿病治療での経験と、昨年発表され、また昨日紹介した論文でも確認されたセマグルタイドによる肥満治療の治験研究を元に、投与しやすいリベルサスを用いた肥満治療が、自由診療で行われていることについて言及した。昨日の論文を読むと、GLP-1 作動性細胞刺激を肥満治療に用いても何の問題もないように思えるのだが、一つだけ懸念がある。

それは、治療では GLP-1 が全身に投与される点だ。GLP-1 は消化管ホルモンとして、小腸と胃とのコミュニケーションに関わるインクレチンとしてまず特定された。また、その半減期は時間単位なので、GLP-1 受容体を発現する脳神経細胞に直接作用しているとは考えられない。従って、もし脳細胞が投与された GLP-1 の直接の標的なら、非生理学的な状態を作っていることになり、長期的に見たとき予想もしなかった副作用につながる可能性はある。

今日紹介するマウントサイナイ Icahn 医科大学からの論文は、消化管で分泌される GLP-1 が脳に働く回路を詳しく調べた、大変面白いプロの研究で6月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「An inter-organ neural circuit for appetite suppression(臓器間の神経回路が食欲を抑制する)」だ。

結論的に言うと、消化管から分泌される GLP-1 で十分食欲を抑制する効果があることを、GLP-1 分泌細胞からスタートして、神経回路をつないで明らかにした。実験の詳細を読んでいて、爆発による障害で胃壁が皮膚につながった青年を対象に、空いた穴から消化の様子を観察したウイリアム・ボーモントを思い出した。

この研究では消化管の局所神経を操作するためのあらゆる方法が用いられている。まず、GLP-1 に反応して胃が膨満し食欲が低下するのは、全て回腸のL細胞が分泌する GLP-1 の作用であることを確認している。

次に、この GLP-1 シグナルが GLP-1 受容体を発現した、intestinofugal 腸管神経に働き、この興奮が腹腔神経節へシグナルを送り、これが Nos1 を発現する胃の交感神経に働いて、動きを抑制し、胃を膨満させることを突き止める。この回路を通して胃に伝わったシグナルは、次に迷走神経ではなく、胃の痛みを伝える脊髄後根を介する感覚神経を伝って、毛様体で固有感覚として処理され、視床下部、傍視床下核に伝えられ、この神経により胃が膨満し食欲を低下させることを明らかにしている。などと簡単に書いたが、それぞれの神経を光遺伝学的に、あるいはアデノ随伴ウイルスを用いた神経接合追跡法などを用いて、一つ一つ検証し、この回路だけで胃の膨満から、食欲低下までを誘導するのに十分であることを確かめている膨大な実験だ。

おそらくこの研究のハイライトは、回腸のL細胞由来の半減期の短い GLP-1 でこの回路を刺激できること、そして迷走神経ではなく、脊髄神経を通って胃の刺激が脳に伝わり、胃を膨満させて食欲が落ちることを示し、これまで指摘されていた脳の GLP-1 受容体陽性細胞は通常ではほとんどこの反応に参加しないことを明らかにしたことだろう。

以上が結果で、まさにプロの重要な論文だと思う。もしこの研究が正しいとすると、GLP-1 受容体陽性細胞を非生理学的に刺激し続けた時、何が起こるのかよく調べて、GLP-1b作動神経活性化の長期効果や副作用をはっきりさせることが、この薬剤を肥満治療に使うための重要な条件であるように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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