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6月7日 造血抑制なしの負担の少ない骨髄移植法開発(6月23日号 Cell 掲載予定論文)

2022年6月7日
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骨髄幹細胞移植治療の大変さが一般の人にも知られるようになったのは、水泳の池江さんの白血病闘病が広くマスメディアで伝えらたことが寄与している。このとき、場合によっては放射線を含む骨髄アブレーションが行われるが、これが患者さんにとって本当に大変で、無菌室での生活を余儀なくされるのも、これによりホストの白血球が消失してしまうからだ。このような厳しいアブレーションが行われるのは、白血病治療なので異常細胞を徹底的に殺すという目的も当然存在するが、ホストの血液幹細胞を徹底的に除去して、造血を支持するニッチを空け、移植したドナー造血幹細胞ができるだけ多くホストの骨髄を占有するという目的もある。

事実、自分の骨髄細胞を何もしないで自分にもう一度注射しても、骨髄で造血するチャンスはほとんどない。と言うのも、造血支持ニッチがすでに占有されており、外から注射した造血幹細胞は入り込むことが出来ない。

現在、遺伝子治療が進展し、遺伝的な免疫不全や貧血などを、遺伝子改変した自己幹細胞の移植治療が始まっているが、ほとんどの場合遺伝子改変した細胞が骨髄を占有できるよう、骨髄ニッチを空けるため、薬剤によるアブレーションが行われる。そして、当然これが患者さんへの大きな負担になる。

今日紹介するイタリア・ミラノにある遺伝子治療研究所からの論文は、造血抑制なしに、骨髄ニッチを空けて移植細胞が骨髄に居つける方法についての研究で6月23日号 Cell に掲載予定だ。タイトルは「Mobilization-based chemotherapy-free engraftment of gene-edited human hematopoietic stem cells(化学療法なしに幹細胞をニッチから離れさせることで遺伝子編集したヒト造血幹細胞移植が可能になる)」だ。

現在、造血幹細胞を骨髄から取り出すのではなく、様々な処理をして造血幹細胞を末梢血に遊離させ、これを移植する方法も多く行われている、この「様々」な処理とは、造血幹細胞を刺激し骨髄ニッチから遊離させる方法で、G-CSF とともに骨髄ニッチと幹細胞の相互作用の柱になる CXCR4 を阻害剤が用いられ、幹細胞 mobilization と呼ばれている。

この研究は、この方法でニッチが空くなら、これを化学療法によるアブレーションに代え、より負担のない骨髄移植を可能にすることを目的にしている。このアイデア自身は他のグループも考えたと思うが、骨髄抑制と異なり、ニッチを離れた幹細胞は末梢を循環しているため、よほど多くの幹細胞を移植しないと、元の幹細胞に置き換わる可能性は少ないと考えれててきた。

この研究のハイライトは、思い込みを排して、様々な mobilization 処理を行った後、同種幹細胞を移植する実験を行い、G-CSF に CXCR4阻害剤を組み合わせることで、なんと移植した幹細胞がかなりの効率で造血を始めることを確認した。

よく考えると不思議なのだが、mobilization 後末梢に遊離される幹細胞の CXCR4 発現が低下していることを発見し、これが CXCR4 発現が高い幹細胞が、ニッチの競争に勝てるメカニズムであることを突き止めた。

そこでさらに移植効率を高める目的で、mRNA法を用いて移植前に CXCR4 を幹細胞に発現させる実験を行い、この臨床でも利用しやすい方法によりドナー幹細胞の占有率を高めることが出来ることを示している。

以上がこの研究のハイライトで、誰もが無理と諦めていた mobilization による移植法を検討しなおし、さらにより効率の高い方法へと進化させた。

後は、ヒトの造血を再構成したマウスモデルで、遺伝子導入や、さらにはクリスパーを用いた遺伝子編集により改変された自己幹細胞を、mobilization 後に移植し、病気を治すことが可能かを調べる、proof of concept のモデル実験を行い、十分可能であることを示している。

全て前臨床段階だが、これまでの骨髄移植の経験からも、臨床応用は十分可能である用に思う。これにより、骨髄細胞を標的とした遺伝子治療に関しては、アブレーションではなく mobilization を用いることで、患者さんの負担はずいぶん減ると思う。さらに、ワクチンで広く使われる RNA法を用いて、一過性に様々な遺伝子を発現させることで、占有率をさらに上げることも可能だと思う。

研究の成功は先入観を排することであることを示すいい例だと思う。

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