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12月1日 シナプス局所での翻訳調節機構(11月25日号 Science 掲載論文)

2022年12月1日
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細胞というとどうしても核と細胞質、それにオルガネラからなるステレオタイプなイメージを浮かべてしまうが、実際には形態は細胞ごとに全く異なり、その調節機構はまだまだわかっていない。形態進化の究極が神経細胞で、樹上突起や軸索という究極の形態変化を形成するとともに、樹上突起にはスパインと呼ばれる突起を形成し他の神経とシナプス形成するとともに、スパイン自体も刺激に応じて形態を変化させる。このような、細胞各区画内の違いを、細胞全体の代謝システムだけでコントロールするのは不可能で、極めて特殊なメカニズムが発達していると考えられる。

今日紹介するロンドン・キングスカレッジからの論文は、mTORの活性化調節因子Tsc2ノックアウトを手がかりに、スパイン内での局所翻訳のメカニズムを明らかにした研究で11月25日号 Science に掲載された。タイトルは「Cortical wiring by synapse type–specific control of local protein synthesis(シナプスのタイプ特異的な局所的蛋白合成による皮質回路形成)」だ。

細胞代謝の最も重要なハブ分子が mTOR で、インシュリン受容体からのシグナルも mTOR に収束する。この活性化を調節する因子の一つが Tsc2 で、これが欠損すると mTOR が活性化してしまって、結節性硬化症と呼ばれる遺伝的腫瘍が起こる。

この研究では抑制性神経特異的に Tsc2 を欠損させ、Tsc欠損は確かに全ての抑制性神経で mTOR の活性化を促すが、シナプス興奮を調べると、その影響が抑制性神経のうちPV神経だけにしか見られないという発見から始まっている。実際には、PV神経だけで、Tsc2欠損はスパインの数を増やし、シナプスでの活性が高まる。

次に、PVのみでTsc2欠損の影響が強く出るメカニズムを探索し、PV2神経特異的に発現しているErbB4シグナル経路がTsc2上流にある可能性を突き止め、ErbB4シグナルをPV神経特異的にノックアウトする実験で、ErbB4が興奮神経から刺激を受けて、Tsc2の活動を抑える働きをしていることを明らかにする。

すなわち、興奮神経とシナプス形成が行われると、興奮神経側の Neuregulin3 により ErbB4 が刺激され、シナプス局所で Tsc2 の活性を抑え、mTOR の活動を高めることが明らかになった。

そこで、ErbB4ノックアウトで変化する分子を調べ、これら分子の多くがシナプス局所だけで ErbB4刺激により翻訳されることを明らかにしている。すなわち、ErbB4 の刺激がシナプスに限局されることで、その下流の mTOR 及び翻訳調節の変化をシナプス内にとどめておくことがわかった。

結果は以上だが、抑制性神経のシナプス形成に関わるメカニズムが明らかになったことは、自閉症研究にとっても重要だ。すなわち、自閉症の神経症状は、抑制性神経の発生と深く関わること、またそれによるシナプス伝達の変化に関わることがわかっている。驚くことに、ErbB4欠損により変化する分子の多くは、自閉症との相関が示唆されている異分子で、ErbB4自体は自閉症と関わる証拠はないが、このような局所の翻訳調節は自閉症を考えるためにも重要な要素である可能性がある。少し専門的だが、面白い研究だ。

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