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12月18日 免疫チェックポイント治療の副作用に IL7 の多型が関わっている(12月16日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2022年12月18日
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熊本大学で研究室を持った時から、IL7の様々な作用は教室の重要な課題の一つとして研究を続けていた。最初は、ストローマ細胞依存性のB細胞分化、そして京都に移ってからはリンパ組織の誘導と研究は続いていった。ただ全てマウスの話で、人間で同じ機能が存在するのかよくわかっていない。しかし、IL7が分泌するのは間質細胞で、作用するのが血液系の細胞と考えてきた。

今日紹介するオックスフォード大学を中心とする国際チームからの論文は、チェックポイント治療時の副作用のリスク多型として特定された IL7 が、なんとB細胞に発現して自己免疫や腫瘍免疫を高めているという思いがけない研究で、12月16日号の Nature Medicine に掲載された。タイトルは「IL7 genetic variation and toxicity to immune checkpoint blockade in patients with melanoma(メラノーマ患者さんでの IL7 の遺伝的変化と免疫チェックポイント阻害時の毒性)」だ。

同じグループは、チェックポイント治療中に自己免疫反応を副作用として起こし、ステロイド治療を受けた患者さんについてゲノム多型を調べ、強く相関する多型のうちの一つが IL7遺伝子イントロン内の rs16906115 であることを発見した。最近 IL7 は腫瘍組織中にリンパ球の集積を誘導するのに関わることがわかってきていたので、この多型がチェックポイント治療(CT)の副作用に至るメカニズムを追求したのがこの論文になる。

実際、rs16906115 のリスク多型では、自己免疫副作用の発生率が、6倍に増える。

そこで、rs16906115リスク多型と相関する IL7 の発現を患者さんの末梢血で調べるうちに、以外にも末梢血の特に成熟した B細胞が IL7 を発現しており、またリスク多型を持つ患者さんで B細胞の IL7発現が上昇していることを発見する。この意外な発見がこの研究のハイライトで、B細胞の IL7 が高いと、T細胞による免疫反応を増強する可能性が示された。

患者さんで B細胞IL7 が T細胞を刺激するメカニズムを直接検討することは簡単でないので、この研究ではリスク多型を持つ患者さんがチェックポイント治療を受けたときに T細胞の数に変化が起こるかを調べ、最終分化へ引っ張られる CD8T細胞が末梢血で増加することを明らかにする。また、T細胞受容体の配列から、T細胞のクローン増殖についてエ測定し、リスク多型を持つ患者さんの方で高いクローン増殖が見られることを確認している。これらの結果は、間接的ではあるが、B細胞の発現する IL7 が高まると、特に CD8T細胞の抗原依存性増殖が増強されることを示している。

この多型は最初チェックポイント治療の副作用との相関で特定された多型だが、上のメカニズムが正しいとすると、副作用だけでなくガンに対するT細胞の反応も当然増強されていることになる。この点を確かめるために、データベースに蓄積されたメラノーマ患者さんの生存と rs16906115リスク多型の有無を調べると、期待通りリスク多型を持つ患者さんの方が明らかに生存期間が長いことがわかった。

以上の結果は成熟B細胞のIL7発現が、ガンや自己組織に対する慢性的な T細胞反応を刺激していることを示している。従って、患者さんのチェックポイント治療に対する反応の予測に重要なバイオマーカーとして今後利用できるが、加えて IL7 をガン免疫増強の新しい手段として利用できる可能性も示している。IL7と付き合ってきた私にとっては、驚きの論文だった。

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