抗原に反応するB細胞が発現する抗体遺伝子配列をなんとか決定できるようになったのは1980年代で、今でも覚えているのは、インフルエンザに対して最初反応していたV遺伝子が時間とともに突然変異を繰り返し、抗原への親和性を高める一方で、あるとき突然それまで全く隠れていた新しいV遺伝子がより高い親和性を示して、クローンが置き換わることを見事に示した Milstein の論文だった。
このような抗原に対するB細胞の選択が起こるのは、リンパ組織に形成されるのが胚中心で、これまでの研究で、抗原を長期に提示できる樹状細胞、T細胞、そしてB細胞ががっちりタッグを組んで、より高い抗原結合活性を目指して進化続けるマシナリーであることがわかっていた。そして、この目的のためには、胚中心の無関係のB細胞が入ってこないようしっかりガードされていると考えられてきた。
今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、これまでの通説を覆し、胚中心は高親和性の抗体を進化させるマシナリーであることは間違いないが、常に外部からB細胞が入り込んで、既に存在しているマシナリーと競合を繰り返していることを示した研究で、今後、胚中心での過程の再検討を促す重要な研究だと思う。タイトルは「Clonal replacement sustains long-lived germinal centers primed by respiratory viruses(呼吸器系ウイルスにより感作された長期間続く胚中心でのクローンの置き換わり)」だ。
マウスにインフルエンザウイルスを感染させ、縦隔リンパ節の胚中心B細胞を追跡すると、半年にわたって反応が続いているのがわかるが、これまで考えられてきたように、一方的にV遺伝子突然変異が蓄積するわけではなく、一度低下してまた上昇、といった波が繰り返されることを確認している。
とすると、限られたB細胞クローンだけがそこで活動している可能性は低く、胚中心といえども他のB細胞の侵入がある可能性が高い。そこで、感染後胚中心が形成されたところで、胚中心B細胞が蛍光マーカーを発現するようにして調べると、感染により胚中心を形成したB細胞以外に、常に他のB細胞が侵入していること、しかし最初に胚中心に入ったB細胞だけでV遺伝子の変異が蓄積していることを明らかにする。すなわち、他のB細胞はパッセンジャーとして入っては消えしていることがわかる。
この新しいB細胞の侵入が感染による物でないことを示すために、正常個体と血管をつなぐパラビオーシスを行い、感染個体だけでなく、全く免役されていないB細胞も胚中心に入っては消えを繰り返していることを証明している。
重要なことは、こうして侵入するB細胞は、インフルエンザ抗原と反応しない点で、抗原提示細胞を中心にスクラムを組んで他の細胞が入れないというこれまでの考えは、少なくともインフルエンザ感染では否定される。
一方、抗原特異性が限られるトランスジェニックマウスからは、全く新しいB細胞の侵入はないことから、これらのB細胞は他の抗原に対するマシナリーが同じ胚中心で形成されることで、侵入した結果ではないかと考えられる。すなわち、胚中心は一つの抗原に限られるのではなく、実際には様々な抗原に対して形成されるが、一つの胚中心で多くの抗原マシナリーが競合していることになる。
ただ、しっかりとスクラムが組めると、そのマシナリーの寿命は長く、この実験ではこのような競合があるおかげで、インフルエンザに対する高い親和性や、複数のインフルエンザ抗原に反応できる抗体への進化が、数ヶ月にわたって維持できることがわかる。
以上、一つの胚中心で、異なる抗原に対するマシナリーの競争が起こっているというシナリオは、今後ワクチン設計も含めて重要な結果だと思う。