河川や海の水をすくい取って、そこに存在する DNAを全てシークエンシングして、生息する生物を DNAレベルから特定するメタゲノム解析は、地球上の微生物の多様性を改めて私たちに示してくれた。ただこの方法で新しく見つかるほとんどの生物は、デニソーワ人ゲノムと同じで、実物を見ることは出来ていない。
いかにしてメタゲノム解析から想定される微生物を特定するか、気の遠くなるような努力が行われている。一つの例が、2020年に紹介したわが国産総研が発表した Asgardアルケアの培養分離で、実に10年以上努力を重ねている。
今日紹介する論文は、なんとロシア科学アカデミーからの論文で、カナダ、英国、フランスなどとの共同研究だ。論文が送られたのが今年の6月と言うことで、まさにプーチンの戦争のさなかになるが、このような研究の今後がどうなるのか、複雑な気持ちになる。タイトルは「Microbial predators form a new supergroup of eukaryotes(肉食の微生物は新しい真核生物のスーパーグループを形成する)」だ。
他の真核生物を食べる原生動物として Ancoracysta twistaとColponema marisrubri が知られていたが、同じような肉食と言える原生動物を様々な場所から分離するのがこの研究の目的だ。
バクテリアを食べる真核生物をエサにして、培養を続ける方法で、6種類の新しい肉食原生動物を分離している。形態学や、真核生物を食べる様式の違いから、丸呑みをするNebulidia と食いちぎって食べるNibbleridia に分類している。形態学的には、相手を飲み込むための腹部の大きな溝が特徴になっているが、それ以外は鞭毛を使ってよく泳ぐ原生動物だ。
新しく分離した肉食原生動物のゲノムを解析すると(通常の方法では明確な分類が出来ず、早く進化する部分を除去して比較する site-elimination and alignment recoding approaches を用いて系統を決めている)、Colponema marisrubri が属するHaptista に近いが、完全に独立した界を形成していることがわかった。すなわち極めて古くから分岐した、動物界、植物界など、現在存在する10種類の界に新たに加わる界を形成する原生動物であることがわかった。
ゲノムの特徴は、機能的遺伝子に富むこと、及び界として独立していても、進化速度は遅く、その結果多様性に乏しい。しかし、海底5000mの沈殿DNAのメタゲノムから、世界中に拡がっていることも確認できる。
肉食からわかるように、蛋白分解酵素やリソゾーム分子に富んでおり、またおそらく餌を食べる過程を調節するカルシウムシグナル経路に関わる分子を多く持っていることが示されている。
そして最も面白いのが、キラーT細胞が相手を殺すために使うパーフォリン分子の持つアタックドメインを持つ蛋白質を多く持っていることで、この分子の進化を調べるための必須の生物であることがわかる。
他にも、ミトコンドリア遺伝子から核遺伝子への移行が遅いことなど、新しい界の特徴が上げられているが、省略する。
要するに、肉食原生動物を探していたら、新しい界を特定できたという話で、地球上にはまだまだ新しい生物が存在することを見事に示した研究だ。このような研究がロシアから共同研究の形で今発表されたことの意義は大きいが、今どうなっているのか?論文は6月に送られ12月にオンライン掲載される異例の早さだが、この早さも気になる。