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12月26日 意外にも Claudin1 が線維化を促進する(12月22日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年12月26日
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Claudin1 は、亡くなった月田さんの京大医学部研究室で、古瀬さん達によりマウス肝臓のタイトジャンクション分子として1998年報告されたが、月田さんが亡くなるまでのほぼ同じ時期を京大医学部で過ごし、遺伝子クローニングまでのいきさつを折にふれ詳しく聞くことが出来た私にとっても思い出深い分子の一つだ。論文が出て少ししてから、上皮以外にも発現する細胞があって、何か面白い機能を持っているかも知れないという話も聞いていた。

今日紹介するストラスブール大学からの論文は、その Claudin1 が、シグナル分子のスキャフォールドとして線維化を促進しており、治療標的になり得ることを明らかにした研究で、12月22日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「A monoclonal antibody targeting nonjunctional claudin-1 inhibits fibrosis in patient-derived models by modulating cell plasticity(Claudin-1の非接着部分に対する抗体は細胞の可塑性を変化させて患者さん由来細胞モデルでの線維化を抑制する)」だ。

理研に移ってからはほとんどフォローできていなかったが、Claudin1 はC型肝炎ウイルスの侵入に寄与し、また肝臓の線維化により発現が強く上昇することが明らかになっていたようだ。

この研究では、慢性の肝臓病では、幹細胞だけでなく、血液や間質細胞でも Claudin1 の発現が上昇すること、また TNFα 刺激により NFκB により直接転写が上昇することをまず確認した後、既に確立していた Claudin1 の非接着部分に結合する抗体を用いて、線維化進行とともにこの抗体の染色が高まることを明らかにする。

以上の患者さんでの結果は、炎症により肝臓で分泌される TNFα により様々な細胞で非接着性Claudin1 が上昇していることを示している。そこで、Claudin1 が直接線維化に関わるかどうかを確かめる意味で、人の肝臓細胞をマウスに移植して肝臓を再構成する実験系で、siRNAを用いて Claudin1 をノックダウンする実験を行い、Claudin1 が直接線維化促進因子として働くことを明らかにしている。

この同じ実験系で、siRNAと同じ効果を非接着Claudin1 に対して作成したモノクローナル抗体が肝臓の線維化を抑えることがわかったので、そのメカニズムと臨床応用可能性について研究を行っている。

メカニズムだが、マウスモデルや、ヒト肝臓オルガノイド培養を用いた実験で、いずれも線維化が促進すること、また線維化に関わる様々なシグナル回路を同じ抗体が抑制できることから、おそらく Claudin1 は細胞表面で様々なシグナル受容体や接着分子と結合するスキャフォールドを提供し、シグナルを増強する役割を演じており、非接着Claudin1 に対する抗体は、スキャフォールドとしての機能を抑制することで線維化を抑制することを明らかにする。そのため、同じ抗体が、肝細胞、血液細胞、間質細胞それぞれで異なる作用を示し、線維化だけでなく、肝細胞の場合は成熟細胞への分化を促進することも示している。

動物モデルや肝臓のオルガノイドモデルを用いた実験結果は、肝臓線維化抑制の前臨床実験としてはかなり有望と言える。そこで次の段階として、サルを用いた抗体の安全性試験を行っている。もし接着 Claudin1 にも何らかの作用を示せば、これは大変なことになる。幸い、サルに長期投与しても細胞接着には大きな影響は見られなかったようだ。

以上が結果で、肝臓だけでなく、肺や腎臓の線維化にも効果があることを示す実験も行って、この抗体が将来線維化一般の治療に使える可能性も示唆している。思いもかけないところから、しかしかなりパワフルな治療法が開発された気がする。

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