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12月15日 Zygotic遺伝子発現のパイオニアファクターの特定(11月24日 Science オンライン掲載論文)

2022年12月15日
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卵子には母親から提供された多くのRNAが詰まっており、これが発生初期の卵を支えるのだが、受精後卵割が始まる頃から、受精によって統合したゲノム、すなわち Zygoticゲノムからの転写が活性化される、これにより本来の胚発生が始まる。ただ、受精後統合されたばかりのゲノムは、染色体の構造が異質であるため、特別な活性化機構が必要と考えられている。

今日紹介する、ミュンヘン・マックスプランク生化学研究所からの論文は、2細胞期に始まるマウスzygotic遺伝子活性化の際、染色体をほどいて遺伝子の転写を助けるパイオニアファクターを特定した研究で、11月24日 Science にオンライン掲載された。タイトルは「Zygotic genome activation by the totipotency pioneer factor Nr5a2(全能性のパイオニアファクターNr5a2によるZygoticゲノム活性化)だ。

zygoticゲノム活性化(ZGA)は一つ二つの遺伝子領域で起こる現象ではなく、ゲノム全体で起こっている現象なので、それを調節する分子は多くの遺伝子領域の活性化に関わる必要がある。2細胞期に ZGA が始まる時期に発現が変化する遺伝子をリストし、対応するゲノム領域に共通に存在して ZGA をガイドすると思われる配列を探すと、なんとトランスポゾンSINE領域が特定される。そしてトランスポゾンに含まれる共通配列結合因子として、核内受容体の一つで機能がわかっていなかった Nr5a2 が特定された。

実は、同じ SINE に結合し、全能性に関わる分子として、これまで研究が進んでいる Esrrb も特定されているが、混乱すると行けないので Esrrb については全て割愛する。

Nr5a2 は幸い阻害剤があり機能阻害実験、Nr5a2 を分解する実験、さらにノックダウン(初期胚では難しい)を注意深く行う実験でこの分子が存在しないと発生が起こらないことを確認し、Nr5a2 がパイオニア因子であることを証明するための実験を行っている。

パイオニア因子というのは凝集したクロマチン内の配列に結合し、周りのクロマチンを緩めて他の転写因子が結合できるようにする分子を意味しており、Nr5a2 がパイオニア因子であることを証明するためには、Nr5a2 が結合した部位のクロマチンが開いていくことを示す必要がある。ただ、一つの遺伝子領域でなく、ゲノム全体でこれが起こることを、しかも材料の少ない2細胞期で示すことはプロの知識と技が必要になる。

この論文を読んで、実に様々なトランスポゾンを用いた標識技術が開発され、少量の細胞の解析に使われているのを知った。

まず、CUT&Tag と呼ばれる、染色体沈降法と同じ目的で使われるが、トランスポゾンを用いて切断、標識を行う方法でより正確に Nr5a2結合サイトを特定し、これをクロマチンのマップと照らし合わせ、2細胞期にクロマチンが開き始める場所に結合していることを確認する。

次に、やはり Atac-seq に似た、オープンクロマチンを調べる方法で、Nr5a2 がクロマチンを開けて他の転写因子に結合しやすくする機能を持つことを示している。

最後にクロマチンの形成を阻害する人工配列を用いた DNA と Nr5a2 を結合させる実験で、Nr5a2 が直接クロマチンが形成されたゲノム領域に結合することを試験管内で確認し、Nr5a2 がパイオニア因子であるという証明を完成させている。

さらっと紹介してしまったが、2細胞期という実験の困難な時期に、結合した後クロマチンを緩めるパイオニアファクターであることを証明するのは実験的に大変で、それを様々なテクノロジーを使って成し遂げているのは圧巻だ。

生物学的にも、パイオニアファクターの結合部位にトランスポゾンが使われていること、また同じ Nr5a2 が、2細胞期とES細胞では全く異なる遺伝子セットの転写活性化に関わっていることなど、初期発生を考える上で重要な発見だと思う。

この研究はTachibanaさんという日系の女性のグループからの仕事だが、所属を見るとウィーンのIMPから移ってきたばかりのようだ。IMPにはもう一人Elly Tanakaさんという日系の女性が所属しているが、日系の優れた女性研究者が同時に所属し大活躍しているのを見ると、意味なくうれしい。

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