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12月8日 ケタミンが解離体験を誘導するメカニズム(11月24日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2022年12月8日

解離体験というと、自分が身体や世界から切り離された気持ちになる、いわば自分であるという感覚の喪失とも言える状態で、我々の場合ボーとした時にそんな状態が起こるが、重症になると、離人症、多重人格などの病名がつく。体験自体主観的な感覚なので、動物で実験することは簡単でないが、ケタミンにより同じような体験が得られることから、動物の皮質に及ぼすケタミンの作用として研究がされている。このブログでも2020年9月18日、光遺伝学を用いた Deisseroth グループの研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/13913)。

今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、ケタミンがなぜ解離体験を誘導するのかについて、よりわかりやすい説明を提供してくれる研究で、11月24日 Nature Neuroscience に掲載された。タイトルは「Ketamine triggers a switch in excitatory neuronal activity across neocortex(ケタミンは新皮質全体で興奮神経活性のスイッチを誘導する)」だ。

マウスで解離体験を定義するのは難しいが、この研究ではいくつかの行動実験を組みあわせて、自失という状態を測定し、50mg/kg 量が自失状態を誘導するとともに、これまで言われていたように皮質錐体神経の、遅い周波数の興奮が特異的に消失することを確認する。

次に皮質2/3層の個々の錐体神経の活動を追いかけると、ケタミン投与により、それまで興奮していた神経の興奮は低下する一方、休止していた神経が興奮するという、スイッチ現象を観察した。このスイッチは決して2/3層に限らず、インプットが来る第4層でも、アウトプットが出る第5層でも同じように起こっていることがわかった。

要するにそれまでの自分として興奮していた錐体神経の活動が低下し、自分として興奮していなかった神経の活動が活性化しているとわかると、この現象が解離体験に近いだろうというのは素人にも納得できる。まさにこれがこの研究のハイライトだ。

このスイッチのメカニズムを探っていくと、2種類の抑制性介在神経(PVとSST)の両方が抑制されている結果で、この抑制が外れるとスイッチは見られない。ケタミン全身投与では、新皮質全体に同じスイッチが見られるが、ケタミンを少量局所に投与すると、その領域で同じようにスイッチが起こることから、局所レベルの錐体神経と介在神経のサーキットで起こっている現象であることがわかる。

最後に、介在神経が発現しているケタミンが作用する分子、グルタミン酸受容体、及び HCN1チャンネルを別々、あるいは同時に抑制する実験を行い、それぞれ単独の抑制では、興奮している神経を抑える、あるいは休止している神経を高める単独の効果はあるが、ケタミンのように興奮は下げ、休止は上げるという効果は見られない。しかし、グルタミン酸受容体抑制と、HCN1チャンネルの同時抑制をかけると、ケタミンとほぼ同様の効果が得られることがわかった。逆から言うと、現在の世界との関わりを維持し、他の世界との関わりを抑えることが、2種類の介在神経の作用で起こっていること、これを全部押さえると、現実からの乖離が可能であるという結論だ。

以上が結果で、ケタミンが錐体神経の興奮スイッチを誘導することで、解離体験が生まれること、さらにこの神経変化が、2種類の介在神経を同時に抑えることで再現できることを示して、ケタミンによる解離体験の生理学的機構を明らかにした点で、この研究は重要だ。ケタミンはうつ病を抑える薬剤としても使われていることから、新しい治療法の開発にもつながる面白い研究だと思う。

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