ケトン食が様々な影響を持つことについてはこのブログでも紹介し(サーチボックスでケトン食とインプットすると13の論文ウォッチ記事が出てくる)、またてんかん発作を抑える可能性については、以前MECP2重複症の患者さんの家族の方々とYoutubeによる勉強会も行っている(https://www.youtube.com/watch?v=f8En4tBse6o&t=105s0 )。
中でも期待されるのが、ガン治療の補助としての役割だが、代謝への影響、直接的転写誘導、そしてヒストンアセチル化の促進などがそのメカニズムとして知られている。
今日紹介する中国復旦大学からの論文は、中国からの論文の定番と言っていいのかも知れない意外性をついてくる研究で、なんとケトン食が抗ガン治療時の血小板減少を防ぐ可能性を示した研究で、11月30日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Dietary ketone body–escalated histone acetylation in megakaryocytes alleviates chemotherapy-induced thrombocytopenia(食事を通して摂取するケトン体は巨核球のヒストンアセチル化を通して化学療法による血小板減少を軽減する)」だ。
化学療法による血小板減少は最も恐ろしい副作用なので、タイトルは全ての医師を惹きつける。ただ読んでみると、なぜこの可能性を着想したのかは全くわからない。
ともかく、マウスに2種類の処方によるケトン食を摂取させると、正常マウスでも血小板の形態は変化せず、血小板が増加し、また出血時間も短くなることを観察している。一方、赤血球や白血球には何の変化もない。
これがケトン体の影響とすると、細胞内にケトン体を取り込むトランスポーターが必要だが、MCT1が巨核球には高いレベルで発現しており、試験管内で巨核球をケトン体βOHで刺激すると、増殖や血小板文化に関わる遺伝子発現が上昇する。また、MCT1阻害剤ではこの効果がなくなる。
また、ケトン食でなくとも、食事にβOHを加えるだけでも同じ効果がある。ただ、ケトン食やケトン体摂取はグルコース耐性を誘導してしまうので、間欠的にケトン食を与える系で、グルコース耐性が出ないようにして、抗ガン剤による血小板減少への効果を見ると、期待通り血小板減少をつよく抑えることが出来る。
この原因を探っていくと、巨核球分化の主役GATA1やNFE2プロモーターのヒストンをアセチル化することが、血小板増加の引き金になっていることを示している。
そして最後に、人間でもケトン食をボランティアに摂取させ、血小板が中程度に増加すること、さらにケトン食を捕っているガン患者さんと、通常食のガン患者さんで化学療法による血小板数を比較し、ケトン食は血小板減少を抑えることを確認している。
結果は以上で、期待されたトロンボポイエチンが臨床に使えないことを考えると、かなり有効な手段になるかもしれない。この研究に至った経緯は全くわからないが、瓢箪から駒で十分だ。