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12月25日 新生児腸内細菌叢発達の徹底研究(12月22日号 Cell 掲載論文)

2022年12月25日
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このブログでも何回か紹介してきたが、生後1年は私たちの腸内細菌叢が量・質ともに大きく変化する時期で、このとき細菌叢が炎症を抑える方向に働くことが、アレルギーなどその後の免疫状態を決める重要な要因であるとして、研究が進んでいる。

最初はただリボゾームの配列から細菌叢の変化を特定するだけだった研究は、その後細菌叢の全ゲノム配列を決定する大規模研究へと変化し、結局勝負は多数のサンプルから得られるビッグデータを解析する能力になっているように思う。その結果、限られた研究所のアクティビティーがますます高くなってきている感じがする。

今日紹介するのは、フィンランドの新生児についてのコホート研究だが、コレスポンデンスは Broad研究所で、覚えておられると思うがバングラデシュの新生児の細菌叢発達について細菌叢とメタボロームを調べた(https://aasj.jp/news/watch/20882)のと同じ研究室からの論文で、対象がフィンランド人だけという違いになっている。タイトルは「Mobile genetic elements from the maternal microbiome shape infant gut microbial assembly and metabolism(母親細菌叢からの伝搬性遺伝要因が子供の腸内細菌叢と代謝の発達に関わる)」だ。

1ヶ月の間に同じ研究室からの論文を2編も紹介することになったが、バングラデシュといい今回のフィンランドといい、世界中の発達期の研究が集まってくるとはうらやましい限りだ。研究としては70組の母子の細菌叢のDNAメタゲノム配列決定、およびメタボロームの解析を経時的に行い、得られたビッグデータを読み解いており、素人の私から見ても、そんじょそこらインフォーマティスとでは太刀打ちできない力がある研究室と言える。だからこそ、フィンランドのコホートも全面的に解析を委ねているのだと思う。

タイトルにもあるように、この論文の最大の売りは、母親と子供の遺伝子配列の解析から、11種類の母親に存在するバクテリア種から、なんと977種類の遺伝子が、子供の細菌叢に水平遺伝子伝播したという結果だ。すなわち、伝搬したと考えられ得る遺伝子の前後配列が、母親と子供では異なることや、その遺伝子が伝搬したホスト細菌と、元の細菌の種類が異なることなどが確認され、細菌自体が増殖したのではないことを示している。これを調べられるだけのデータ解析力は感心する。

しかし、遺伝子断片と言っても別の個体間で伝達される必要があり、ほとんどがファージを介すると言っても、ファージ自体が個体間で伝搬したとは考えにくいだろう。元々、外部からのバクテリアの定着率は低いが、なんとか腸まで達した母親由来バクテリアから、ファージウイルスが活性化され、広まることで水平伝搬が起こったと考えるのが最もわかりやすい。

事実、伝搬される多くの遺伝子は炭水化物やアミノ酸の代謝に関わり、遺伝子を獲得したバクテリアの選択を通して、細菌叢の構成を決めている可能性を示している。ただ、水平遺伝子伝搬については納得できるが、それが都合よく子供の細菌叢の機能を高めているという話は、まだまだ検討が必要だと思う。

さて、これ以外にも様々な面白い結果が示されているので箇条書きにしておく。

  • 妊娠前、妊娠中、そして産後と、妊婦さんの細菌叢は大きく変化する。特に細菌叢による胆汁酸の代謝と、硫化水素代謝が大きく影響されることがわかった。ただ、その意味については明確ではない。
  • 代謝物の解析から、人工栄養の子供は腸内環境が炎症に引っ張られている可能性が、細菌や代謝物から示唆された。ただ、この研究のもう一つの目的である、抗原性のあるタンパク質を徹底的にペプチドへと加水分解した人工栄養を与えることで、炎症性の変化は抑えることが出来る。
  • 母乳による炎症環境抑制に、炎症のメディエーターとして知られるエイコサノイドが直接関わることがわかった。即ち、母乳で育つ子供だけが、便中のエイコサノイドが存在する。

以上が気になった点だ。今後、もう少し焦点を絞って詳しい解析が行われると思うが、いずれにせよ生後1年という大事な時期の解析が、世界規模で進むことの意味は大きい。

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