ガンの抗体治療というと、抗PD1抗体を用いた免疫チェックポイント治療や、ガン表面抗原に対する細胞障害性の抗体を思い浮かべることが多い。しかし、様々な受容体シグナルが、抗体により誘導されることも知られており、抑制ではなく、特定のシグナルを刺激する抗体も存在している。なかでも、樹状細胞を介してガン免疫成立に重要な働きをしているCD40シグナルを刺激する抗体は、臨床治験も行われ大きな期待が集まっている。ただできるだけ親和性の高い抗体を目標にする、抑制性、あるいは細胞障害性の抗体開発と異なり、刺激性の抗体の条件についてはわかっていない点が多い。
今日紹介する英国サザンプトン大学からの論文は、CD40、4-1BB、そしてPD1 の3分子について、現存する抗体の変異体を作成し、これら分子に対する刺激能力が、親和性を低下させることで上昇することを示した研究で、2月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Reducing affinity as a strategy to boost immunomodulatory antibody agonism(免疫調節抗体の刺激能力は親和性を低下させることで高めることが出来る)」だ。
現在ガン免疫治療に最も期待されているのが CD40抗体なので、既にヒト化を終えた臨床グレードの抗CD40抗体、ChiLob7/4 に、分子構造を指標に CD3部位を中心に変異を導入し、反応する決定基はおなじだが、結合親和性が異なる抗体を何種類か作成し、B細胞を用いて CD40刺激活性を調べている。
驚いたことに、最も親和性が低い抗体は別にすると、結合親和性が低い抗体ほどCD40刺激活性が高い。さらに最も関心が高い腫瘍免疫を高める効果で調べると、元の抗体と比べると親和性が低下した抗体のほうが強い抗腫瘍反応を誘導できる。
次に、抗体が刺激するメカニズムを探ってみると、元々の CD40リガンドによる刺激と同じで、CD40が細胞表面上でクラスターを形成することでシグナルが入る。ただ、抗体の作用にFcγ受容体は必要なく、CD40を集めることが出来れば十分であることを示している。一方、抗体で刺激した場合、CD40は細胞質内に取り込まれないことや、細胞と細胞の接着部位に持続的に存在することなど、違いは認められるが、シグナル伝達という点では大きな差はないように見える。
では、親和性が低い方が刺激活性が強いことは、他の受容体でも言えるのか、まず CD40と同じTNF受容体ファミリー分子4-1BB に対する抗体についても全く同じ実験を行い、CD40と同じで、親和性が低い抗体ほど刺激活性が強いことを確認している。
最後に、CD40とは全くシグナル伝達経路に共通性がない、PD1についても、同じことが言えるか調べている。この目的のために、本庶先生達の抗PD1抗体に突然変異を導入し、親和性を低下させた抗体を数種類作成、PD1刺激活性を調べると、CD40の時と同じように親和性が低くなると、当然 PD1阻害活性は失われるが、強い刺激活性が得られることを示している。
結果は以上で、
- 現存の抗体に変異を導入することで親和性の低下した、刺激活性の強い抗体を得られること。
- これにより、現存の抗体もさらに刺激活性の高い抗体へと進化させられること、
- 同じ方法は、TNF受容体以外のシグナル系にも利用できる可能性があること。
- 刺激性抗PD1抗体は、抗原特異的免疫反応を抑える自己免疫治療に転用可能であること。
が示された。今後多くの分子について、アゴニスト抗体が開発され、免疫活性化に利用されることを期待する。