多くの動物が、成体からかけ離れた形の幼虫期を過ごし、変態することは誰もが知っている。また、カエルのオタマジャクシから、蝶々の幼生からサナギまで、幼虫の生活環は極めて多様だ。しかし魚を見ていても、卵から直接成体が発生しても問題ないし、なぜわざわざ幼虫から変態する必要があるのかは明確でない。すなわち、幼虫から変態するライフスタイルが、左右相称動物のデフォルトなのか、一つのスタイルなのかについてはよくわからない。
今日紹介する英国のクィーンメリー大学からの論文は、環形動物で変態する種と変態しない種を比べ、幼虫という生活環が進化する過程を探った研究で、1月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Annelid functional genomics reveal the origins of bilaterian life cycles(環形動物の機能ゲノミックスにより左右相称動物の生活環の起源が明らかになる)」だ。
まず環形動物というとわかりにくいが、要するにミミズ、ゴカイ、ヒルというと誰もが見たことがあると思う。この研究では Owenia fusiformis と呼ばれる胎生期、幼虫期を経て成体になる環形動物のゲノムを解析し、近縁だが、2種類の環形動物では幼虫期が短縮され、最終的にスキップされてしまった環形動物と比べている。
ゲノム全体の構造は環形動物だけでなく、近縁の軟体動物も良く似ている。すなわち、ゲノムからだけで幼虫生活環の起源はわからない。そこで、各ステージの遺伝子発現を調べると、発生に関わる様々な遺伝子の発現時期が、幼虫を経る種では後期に存在するのに、幼虫時期がスキップされるにつれて、原腸形成直後にシフトしていることが明らかになった。環形動物の発生では、まず頭デッカチの胚が形成され、そこから胴体が出来ていくので、幼虫時期に胴体を形成する場合は、多くの発生遺伝子の発現が幼虫期に始まるが、幼虫期をスキップする場合、ほとんどの遺伝子が頭でっかちの時期に始まると言える。
この発見がこの研究のハイライトで、後は Hox遺伝子などを例に、この結果をより詳しく調べている。Hox遺伝子は体幹の構成を決めているが、幼虫期のはっきりした環形動物では幼虫期に強く発現が始まる。一方、幼虫期がはっきりしない環形動物では原腸形成直後に発現が始まる。クロマチンの解析から、この差は遺伝子調節領域の開かれ方で決定されていることも示している。
以上の結果は、幼虫期が進化することで、頭の発生と胴体の発生を明確に分離することが出来るようになり、その結果より複雑な体幹の構成が容易になったが、このスタイルが動物のデフォルトではないことを示している。すなわち、幼虫期が存在しなくても、発生は可能だが、様々な種で環境に応じて幼生期が進化したのは、おそらく特定の環境でしっかりと体幹を形成するために、良く似た遺伝子発現戦略がとられたことを物語っている。考えてみれば、オタマジャクシも頭でっかちの幼虫で、その中で胴体が作り始められている。