今でこそ細胞表面上のCDマーカーを用いてリンパ球を分画することが当たり前になっているが、私が免疫学を始めた頃は、そんな便利な物は全くなかった。しかし、モノクローナル抗体の技術が導入されると、個々の分子マーカーが定義できるようになり、まず T細胞、B細胞を分けて使えるようになった。その最初の頃に使われた抗原の一つが Ly1、現在の CD5 で、最初は T細胞のマーカーとして使われた。
ところが、Herzenberg 研のメンバーだった、早川さんとHardyが Ly1を発現する B細胞が存在することを発見してから、話はややこしくなった。ここから Ly1 をやめて CD5 と呼ぶことにするが、CD5 は B細胞を B1とB2 に分けるために用いられても、T細胞や他の細胞を分けるマーカーとしてはあまり利用されていないと思う。また、その機能についても、よくわかっていない。
今日紹介するワシントン大学からの論文は、人間とマウスで、CD5 は樹状細胞にも発現し、樹状細胞上の CD5 がT細胞上の CD5 と反応し合うことがガン免疫に重要であることを示した、Ly1時代からこの分子を見てきた年寄りには感慨が深い論文で2月17日号の Science に掲載された。タイトルは「CD5 expression by dendritic cells directs T cell immunity and sustains immunotherapy responses(樹状細胞上の CD5 が T細胞免疫を指揮して免疫治療の反応性を維持する)」だ。
この研究は、ガン周囲リンパ節で、ガンの浸潤があると CD5陽性樹状細胞が低下していること、さらに腫瘍内の CD5mRNAレベルが高い場合メラノーマの予後が良いという、樹状細胞上の CD5 がガン免疫に関わっている可能性を示す臨床研究から始まっている。
この結果は、腫瘍免疫で樹状細胞上 CD5 が何らかの機能を持つことを示しているので、次に CD5陽性及び陰性の樹状細胞で試験管内 T細胞刺激実験を行うと、CD5陽性細胞の方が強い免疫誘導脳があることがわかった。さらに CD5陰性樹状細胞の CD5発現を人工的に高めてやると、それだけでもある程度免疫誘導能が高まり、CD5自体に免疫を高める作用があることを確認している。
その上で、今度はマウスを用いてメカニズムの研究を行い、
- 樹状細胞特異的に CD5発現を低下させたマウスでは、ガン免疫が成立しにくく、チェックポイント治療による免疫増強が起こらない。
- CD5 が低下したマウスでは、反応するT細胞の CD5 も低下している。
- T細胞特異的に CD5 を欠損させるても、同じように腫瘍免疫能が低下する。
という実験結果から、樹状細胞とT細胞はそれぞれの CD5分子を介して、互いに刺激し合うことで、強い抗腫瘍免疫を誘導すること、また腫瘍の環境では、何らかのメカニズムで樹状細胞の CD5 を抑制して、免疫からすり抜けようとしていること、そしてチェックポイント治療がサイトカインの誘導などを介して、樹状細胞の CD5 を維持し、免疫を持続させることを明らかにしている。
以上が結果で、私のような老人にとっては、長い道のりを経て、最初 T細胞マーカーとして使われた Ly1 が、樹状細胞上で相互作用し、ガン免疫を高めていることがわかったという結果は感慨が深い。
しかし、これまで CD5 はフォスファターゼを介し免疫を抑えると考えられていたこと、また PD1抗体を用いたチェックポイント治療がT細胞にのみ効果があると考えられてきたので、この研究が示した方向をもう一度調べ直すことは重要だと思う。