パーキンソン病だけでなく、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などは、最近では αシヌクレイン症としてまとめられる。これは、神経細胞内で αシヌクレインの不溶性繊維形成が見られ、その結果細胞死が起こるという同じメカニズムが背景にあるからだが、たとえば同じメカニズムがどのような神経変化を誘導するのかは、細胞により異なる可能性が大きい。たとえばミトコンドリアへの局在は黒質細胞でははっきりしているが、小脳や大脳では明確ではない。このようにそれぞれの病気を理解するには、αシヌクレイン症とまとめてわかった気になるのは戒めなければならない。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、シナプスの小胞の輸送に関わるシナプトタグミン11のパルミチル化が回り回って αシヌクレイン症を軽減する可能性を追求した研究で2月14日号 Science Signaling に掲載された。タイトルは「Palmitoylation of the Parkinson’s disease–associated protein synaptotagmin-11 links its turnover to αsynuclein homeostasis(パーキンソン病に関連するシナプトタグミン11の回転がαシヌクレインホメオスターシスとリンクしている)」だ。
この研究グループは細胞のパルミチル化を除去する酵素を抑制して、パルミチル化を抑えるとレビー小体形成のような αシヌクレイン異常を抑えることを見つけていた。ただ、αシヌクレインはパルミチル化されていないので、この原因を探ろうと今回の研究が始まっている。
実際には、シナプトタグミン11(syt11)のパルミチル化が αシヌクレイン異常症を抑えることを突き止めており、この研究ではパルミチル化が39番目と40番目のシステインで起こっていること、この部位を変異させてパルミチル化を防ぐことで、細胞内での蛋白質の寿命が8割も短くなることを明らかにしている。
またパルミチル化された syt11 の細胞内小胞の不溶部分への局在から、この性質が syt11 の回転を遅らせて、寿命を延ばしていることを突き止める。
最初に紹介したように αシヌクレインも細胞内小胞に局在するので、syt11 がその過程に影響を及ぼす可能性は高い。まず、パルミチル化される syt11 とされない syt11 を発現させた細胞で αシヌクレインの状態を調べると、パルミチル化される syt11 では細胞内小胞膜への局在が高まり、また正常型 αシヌクレイン4量体の割合が低下することを明らかにしている。
では、なぜ syt11 のパルミチル化が αシヌクレイン異常を誘導できるのか?残念ながら syt11 は直接 αシヌクレインと結合しないことから、明確なメカニズムはわからない。おそらく小胞体による syt11 自身のターンオーバーメカニズムが αシヌクレインを巻き込んだと考えられるが、明確には示されていない。
結果は以上で、αシヌクレインの細胞内動態の複雑性を教えてくれるが、間接的にでもパルミチル化という阻害剤が利用しやすい過程を利用したパーキンソン病の進行予防法が開発できるかも知れない。