Covid-19パンデミックでも問題になったが、ダウン症 (DS) の方はウイルス感染が重症化しやすい。その一方で、自己抗体産生を伴う様々な自己免疫現象が DS で高い割合で見られることも知られており、この免疫異常の解析が続けられてきた。
今日紹介するマウントサイナイ・アイカーン医科大学からの論文は現象論だが、自己抗体を作る B細胞に焦点を当てた解析を行った研究で、2月22日 Nature にオンライン掲載されている。タイトルは「Autoimmunity in Down’s syndrome via cytokines, CD4 T cells and CD11c + B cells(ダウン症候群の自己免疫は、サイトカイン、CD4T細胞とCD11cB細胞により起こっている)」だ。
最初、21番目のトリソミーから自己抗体まで、メカニズム解析が示されるのかと思ったが、残念ながら DS の血清や細胞の解析の現象論で終わっている。結局、現象の整理としては免疫異常を、なんとか3本の柱にまとめることが出来た点が評価されたのだと思う。
最初の柱はサイトカイン異常だ。29種類のサイトカインを測定すると、1/3の DS はほぼ全てのサイトカインが著しく上昇している。また、1/3では一部のサイトカインが上昇しており、自己免疫臨床症状はサイトカインレベルと比例している。また、異常は早くから発生し、安定する。ただ、Covid-19 やウイルスに感染しても、サイトカインレベルがさらに高まることはない。わかりやすく言うと、Covid-19 感染で誘導される一種のサイトカインストームが DS では最初から存在する。
次の柱は T細胞だが、これは遺伝的と言うより、サイトカイン、特に IL6 が高まることで Jak、STAT3依存的に、T細胞がナイーブな状態から、記憶T細胞状態に変化している。
そして、最後の柱が B細胞で、IL6、インターフェロン I&γ と、活性化された記憶型T細胞が存在するだけで B細胞が活性化され、自己免疫病で見られる CD11陽性の B細胞へと分化し、このタイプの B細胞が増殖することで、親和性は低いが、様々な自己抗原に反応出来る自己抗体が作られる。
以上が結果で、よく見ると結局元は Covid-19 感染で見られた様なサイトカインストームが DS で発生することがベースになっていることがわかるが、トリソミーによる発現量の異常との関わりが明らかでないため、メカニズム解析としてはフラストレーションが残る。しかし、サイトカインの中でも IL6 が重要な位置を占めていることも明らかにされており、今後岸本先生が開発したアクテムラなどを用いて治療する可能性が生まれたことは重要だ。