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2月13日 抗原特異的アナフィラキシー抑制法開発(2月8日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年2月13日
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ピーナツ・アナフィラキシーなど、抗原特異的 IgE による1型アレルギー反応は、抗原摂取後急速に発症し、命に関わる厄介な病気だ。発症過程については、ほぼ完全に理解できており、それに合わせた治療法も開発されてはいるが、現在のところは抗原が含まれた食物を避ける以外に、明確な予防や治療方法はない。

今日紹介するインディアナ大学からの論文は、少なくとも抗原特異的にアナフィラキシーショックを治療できるという方法の開発で、臨床的にどこまで利用可能かは別として、新しい治療法として期待できる。タイトルは「Peanut allergen inhibition prevents anaphylaxis in a humanized mouse model(ピーナツアレルゲン阻害はヒト化マウスのアナフィラキシーを防止できる)」だ。

治療法だが、抗原特異的 IgE と極めて高いアフィニティーで結合する抗原決定部位(エピトープと呼ぶ)を、エチレングリコールのスペーサー、そして抗体と直接共有結合する活性部位、さらにほとんどの抗体の Fab部分と結合できる核酸が合体した分子を合成し、これにより IgE が結合したマスト細胞上で抗原により誘発されるシグナルを抑えている。

もう少しわかりやすくいうと、抗原特異的 IgE に剥がすことのできないマスクを被せ、マスト細胞を刺激できないようにする治療になる。この方法自体は2019年に開発され、この研究ではピーナツ抗原によるアナフィラキシーショックをマウスで起こすために、ヒトのマスト細胞を持続的に産生するヒト化マウスを作成し、これを用いて実際にアナフィラキシー発作を抑えられるか調べている。

結果は期待通りで、ピーナツ抗原エピトープは一つしか使っていないが、7種類の様々なエピトープに反応する IgE で感作したマウスのアナフィラキシーをほぼ確実に止めることができる。また、この効果が、マウス体内で作られたマスト細胞が感作され、ヒスタミンなどを含む顆粒を分泌することによることを確認している。

重要な点は、一つのエピトープだけで、多様なピーナツ特異的 IgE をカバーできる点で、このことが生体内で確認できたことは大きい。この研究ではモノクローナル抗体のカクテルを用いているが、今後実際の患者さんの血清を使って同じような検討がなされると思う。

さて、このマスクは IgE と共有結合することから、長く効果があると期待できるが、1回注射後2週間程度は効果が残存する。したがって、例えば抗原の摂取をコントロールできない状況が想定される場合、前もって注射しておく可能性が開ける。

最後に、アナフィラキシーが始まってからも効果があるか調べており、ピーナツを食べて2分後であれば、アナフィラキシーの症状を強く抑えることができることを示している。

結果は以上で、新しい発想のアナフィラキシー治療法だと評価する。ただ、実際の臨床の現場でどのように治療を行うのか工夫は必要だとおもう。どのような治験が行われるのか興味がある。

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