グリオブラストーマは最も悪性の腫瘍の一つで、治療が難しい。ただ、CAR-Tも併せて免疫治療が可能か現在真剣な検討が進んでいる。ただ、膵臓がんと同じで、グリオブラストーマは周りの組織をオーガナイズして、免疫を抑制する厄介な能力まで備えており、医学の前に立ちはだかっている。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、グリオブラストーマの腫瘍環境で免疫抑制の主役を演じているマクロファージを抑える薬剤を探索し、東洋医学で虫下や殺虫剤として利用されているセンダンから抽出されたToosedaninにその効果があることを発見した研究で、2月15日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Small-molecule toosendanin reverses macrophage-mediated immunosuppression to overcome glioblastoma resistance to immunotherapy(小分子化合物 toosedanin はマクロファージによる免疫抑制を反転させグリオブラストーマの免疫治療抵抗性を克服する)」だ。
研究は比較的単純で、ヒトマクロファージが免疫抑制を行うときに分泌する IL10 のプロモーター活性を蛍光で検出できるようにし、マクロファージがグリオブラストーマの培養上清により刺激された時誘導される IL10 分泌を抑える化合物を探索、802種類の化合物の中から toosedanin(TSN) を選んでいる。
マクロファージの培養で TSN が様々な免疫抑制分子の誘導を抑え、共培養している T細胞の増殖を誘導できることを確認した後、マウスグリオブラストーマ細胞株脳内移植モデルで、TSN が腫瘍の増殖を強く抑制し、マウスの生存期間が伸びること、またこの効果が主要組織での抑制性マクロファージの低下と、キラーT細胞の増加によることを確認している。
次に、TSN の作用機序を調べる目的で、抑制能を発揮しているマクロファージが発現する TSN 結合分子を調べると、Hck と Lyn の二つのチロシンキナーゼが TSN に結合し、また TSN がそれぞれのキナーゼ活性を抑制することを明らかにしている。ここからの最終経路は確定していないが、抑制性マクロファージの誘導にこれらのキナーゼが関わっていること、これを抑える TSN などの化合物はグリオブラストーマの免疫活性化に利用できることがわかった。
最後に、TSN と免疫チェックポイントの組み合わせ、あるいは現在ヒトグリオブラストーマに使われている同じ抗原に対する CAR-T治療を組み合わせて、臨床応用への可能性を探っている。
チェックポイント治療と併用すると、TSN 単独よりさらに生存期間を伸ばすことが可能で、なんと2割で完全寛解を達成している。また、CAR-T との併用でも、TSN 単独、あるいは CAR-T 単独よりさらに高い効果が得られている。ただ、この実験系では抗原を発現している細胞が半分程度なので、完治ができた個体はない。
結果は以上で、比較的単純なスクリーニングから、生薬由来の化合物が出てくることもあるのかとなんとなく感心してしまった。どのぐらい長期に利用できる化合物なのか、あるいは副作用などまだまだ先は長そうだが、グリオブラストーマが相手ならワラをも縋りたい。