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5月2日 プロスタグランジン E2 がガン免疫を抑制するメカニズム(4月24日 Nature オンライン掲載論文)

2024年5月2日
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プロスタグランジンE2(PGE2)は炎症メディエーターとして一般の方にも広く知られているが、ガン免疫を抑制する作用が最近注目されるようになった。例えば2022年、医学部で同級だった成宮君の研究室は PGE2 阻害剤の投与によりガン組織で炎症が抑えられるだけでなく、Treg の上昇を抑えることで、ガン免疫が高められることを明らかにしている。

今日紹介するミュンヘン工科大学からの論文は、成宮研と同じ方向の研究だが、阻害剤の代わりにT細胞だけで PGE2/PGE4 のシグナルを受ける受容体をノックアウトして、ガン免疫が高まるメカニズムを解析した研究で、4月24日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「PGE 2 limits effector expansion of tumor infiltrating stem-like CD8 + T cells(PGE2 はガンに浸潤している幹細胞様の CD8T 細胞を増殖させる)」だ。

すでに述べたように研究目的は、PGE2 がガン免疫を抑制するメカニズムを探ることだ。キラーであれ Treg であれ、ガン免疫に関与するのは T細胞なので、すべての T細胞で PGE2 に反応する受容体、PGER2 と PGER4 をノックアウトしたマウスを作成して、メラノーマに対する反応を調べている。

結果は見事で、ガンの増殖をほとんど抑えることができる。しかも、この反応は完全に CD8T 細胞だけで起こっており、CD4TR 細胞を抗体で抑制してもガン免疫は維持される。

この効果のメカニズムを詳しく探っていくと、リンパ節からの細胞のリクルートをブロックしても効果が見られることから、ガン組織の中で起こっている現象と結論できる。Single cell RNA sequencing で T細胞抗原受容体遺伝子と遺伝子発現をパラレルに調べる実験から、CD8T 細胞の中でも TCF1 陽性の自己再生し分化細胞を供給する幹細胞機能を持った T細胞が、ノックアウトマウスでのみ腫瘍組織内で増殖していることが明らかになった。

さらに、腫瘍組織で増殖している CD8T 細胞の遺伝子発現プロファイルから、この増殖を支える因子を IL-2 受容体刺激と特定し、CD8T 細胞を IL-2 で刺激するとき、PGE2 を加えると、IL-2 反応が押さえられること、またこの抑制が PGE2 による IL2γ 受容体の発現抑制によることを明らかにしている。

以上のことをまとめると、PGE2 は TCF1 陽性 CD8T 細胞に作用して IL2γ 受容体の発現を抑えることで、腫瘍内のキラー細胞の増殖分化を押さえているという結論になる。

そこで、最後に卵白アルブミンを導入した腫瘍と、卵白アルブミンペプチドに対する CD8T 細胞をセットにして、ガン免疫反応を単純化した実験系で、担ガンマウスに PGE2 に反応できない CD8T 細胞、あるいは反応でき正常T細胞を移植し、腫瘍内での CD8T 細胞の増殖を調べると PGE2 に反応できないCD8T 細胞だけが腫瘍内で増殖し、腫瘍増殖を抑制することを明らかにしている。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月1日 食べ物を見ただけで肝臓のミトコンドリアが変化する(4月26日号 Science 掲載論文)

2024年5月1日
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脳と身体のつながりは、食事を見るだけでつばが出るといった反応で知られるように、生命維持に最も大事な摂食時の変化がよく研究されている。なかでも視床下部弓状核から分泌される AgRP と POMC は摂食行動だけでなく、肝臓での糖や脂肪代謝の調節に関わるとして知られている。

今日紹介するドイツ・ケルンにあるマックスプランク代謝研究所からの論文は、特に POMC を発現する神経の興奮により起こる肝臓の変化を、特にミトコンドリアに焦点を当て詳しく調べた研究で、4月25日 Science に掲載された。タイトルは「Food perception promotes phosphorylation of MFFS131 and mitochondrial fragmentation in liver(食物の存在を感じると肝臓で MFFS131 がリン酸化されミトコンドリアの断片化が起こる)」だ。

この研究ではマウスを16時間飢餓状態に置いた後、食べ物を見つけても食べられないという状況で、肝臓のミトコンドリア分子のリン酸化パターンの変化を網羅的に追求し、ミトコンドリアの分裂を誘導する MFF 分子の131番目のセリンがリン酸化されることを発見する。

この肝臓での変化が POMC 発現神経の興奮で誘導されることを、この細胞特異的に刺激する光遺伝学で確かめている。驚くことにこのリン酸化反応は食事を見つけたときから5分で始まり、10分でピークになるが、食べられないとわかると低下する。一方、食べ物を与えたグループではそのままのレベルが維持される。すなわち、一種の満足反応が肝臓細胞レベルの、しかもかなり早い反応を引き起こしている。

このときのミトコンドリアの状態を見ると、やはり5分で分裂が始まり、10分ぐらいでピークに達し、これが MFF 分子のリン酸化で調節されていることがわかる。さらに、POMC 神経を光遺伝学的に刺激しても、同じように分裂を誘導できる。

では食べ物を見た時に起こる PMC 神経興奮が、MFF 分子のリン酸化、続くミトコンドリア分裂を誘導するメアニズムは何か?MFF 分子のリン酸化パターンを解析し、インシュリンの下流で働く AKT ではないかと考え、生化学実験、遺伝学的実験によりこれを確かめ、食物を感じる刺激が、AKT のリン酸化を通して、MFF 分子のリン酸化を誘導していることを明らかにする。そして、AKT を活性化するのはインシュリン分泌自体であると結論している。すなわち、POMC 刺激はインシュリン分泌を促し、肝臓細胞を刺激、AKT 依存的ミトコンドリア変化が誘導されることになる。

この論文では POMC 神経反応とインシュリンの関係には踏み込んでいないが、視床下部から直接膵臓への神経支配が存在することが2016年シカゴ大学によって明らかにされており、この経路が動いたと想像する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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