ようやく秋の空気を感じる昨日今日だが、今年のような暑さを異常気温などと片付けられなくなってきた。実際、24年の大気中の炭酸ガス濃度は昨年より0.7%も上昇しているようだ。これに対し、様々な二酸化炭素削減のための技術が進められているが、削減自体にエネルギーが必要で、決め手にはなっていない。
今日紹介する米国メリーランド大学からの論文は、地中から掘り出された分解されることなく3775年間地中で保存されていた杉の木を分析して、空気から遮断した状態で木材を地中に埋めることで地球の炭酸ガスを理論上27%削減可能であることを示した面白い研究で、9月27日 Science に掲載された。タイトルは「3775-year-old wood burial supports “wood vaulting” as a durable carbon removal method(3775年間地中に埋葬されていた木材は“木材地下金庫”が持続可能な炭素除去方法を指示する)」だ。
現在年間の化石燃料からの CO2 排出量は37ギガトンらしいが、地球上の植物が吸収する炭酸ガスは220ギガトンに達する。もしこれらの植物が分解せずにそのまま保存できれば、その分 CO2 は減り続けることになるが、ほとんどは人間も含む生物により分解されもとの CO2 に戻る。それでも、間伐材など使わない木材を分解できないようにして地中に埋めて CO2 を削減する可能性は追求されていたようだ。
この研究は、地中に木材を封じ込める実験のための工事中に、カナダモントリオールの地下2mからほとんど分解されずに埋まっていた杉が発掘されたが、年代測定の結果なんと3775年前の杉であることがわかり、この研究が始まった。すなわち、もし4000年近く分解されずに残っていたら、そのまま炭酸ガスを4000年埋蔵していたことになり、木材封じ込め方法の有効性を強く示すことになる。
そこで、埋まっていた木材を洗浄して、炭素の保存状況を克明に調べるとともに、木が保存されていた状況について詳しく調べている。
まず木材だが、セルロースやリグニンなど、木材としての基本成分は完全に保存されており、炭酸ガスが炭素として保持されたことを示している。計算上だが、この間の炭素現象は5%以下に抑えられていると計算している。
次に、これほどの保存条件が実現したメカニズムを地層から探ると、水分が多い上に、上部を空気が通りにくい粘土層によりカバーされており、好気性の微生物を遮断し、木材の分解を遅くしたと考えられる。もちろん嫌気性バクテリアは存在しうるが、基本的にはリグニンは分解できずにセルロースが残ったと考えられる。
以上の結果から、森の維持に必要な間伐材など、現在焼却されたり放置されたりする木材を地中に埋めて、空気を遮断する土壌をかぶせることで、木材の封じ込めが可能になるのではと結論している。
その上でもしこれが可能なら、世界中で10ギガトンの炭酸ガス排出を封じ込めることができ、これは現在化石燃料から排出される量の27%になると結論している。
我々都会に生きていると、本当に大量の木材を地中に封じ込めることが現実的かどうか理解しづらいが、使用済み核燃料保存より遙かに安上がりな方法で、もちろんその上に通常の土壌をかぶせれば利用可能と思えるので、世界中で可能性を追求する価値は十分ある。ともかく、あらゆる可能性を試す以外、現状は変わらない。