10月23日 我々は複雑な有機化合物に晒されて生きている(10月18日号 Science 掲載論文)
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10月23日 我々は複雑な有機化合物に晒されて生きている(10月18日号 Science 掲載論文)

2024年10月23日
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血中に存在する様々な代謝物の研究者から、血中に含まれる数多くの人工化合物のために測定に苦労することを聞いたことがある。すなわち、我々は途方もない数の人工的に作り出された化合物に晒されて生きていることになる。もちろん、それぞれの化合物の存在は把握されており、一つ一つについては安全性のレベルが決められているが、複数の化合物が合わさった場合の安全性評価は簡単ではない。

今日紹介するドイツ・ライプチヒのヘルムホルツ環境研究センターからの論文は、600名を超す妊婦さんの血液に含まれる有機化合物をできるだけ多く特定して、それが合わさったときの神経毒性を評価する方法の開発研究で、10月18日号 Science に掲載された。タイトルは「Neurotoxic mixture effects of chemicals extracted from blood of pregnant women(妊婦さんの血液から抽出される化合物の集合効果)」だ。

まず624人の妊婦さんの血液に含まれる、すでに知られている1199種類の化合物と参照しながら、それぞれの濃度や割合を特定している。その結果、294種類もの化合物が、濃度に至るまで明確に検出することができている。定量的な測定が難しくても、存在については確かめられる化合物に至っては473種類も存在している。

そこで検出できた化合物それぞれについて神経毒性を試験管内で調べ、なんと妊婦さんの血中に検出できる143種類の化合物に何らかの神経毒性が検出できることを確認している。実際には神経毒性の高い化合物は、産業排出物として暴露されているもの、食品添加物に含まれる化合物、そして化粧品や石鹸などのバーソナルケアに含まれる化合物で、ライプチヒの住民では殺虫剤に含まれる化合物は少ない。

次に、この血中の化合物の濃度と割合、またそれぞれの神経毒性から、一人一人の血中に含まれる混合化合物全体の神経毒性を計算するモデルを作成している。この結果、一つ一つの化合物だけではわからない、混合されたときに初めて現れる効果を計算することが可能になった。

ただ、この計算によって本当の混合効果が計算されるか検証する必要があるので、血液で検出された4種類から29種類の神経毒性のある化合物を、実際の血液で検出できた割合にした人工的血液を再構成し、この毒性を検出して、効果が上の計算式による予測と概ね一致することを確認している。

研究は以上で、これまでのように一つ一つの化合物の安全性を調べるだけではなく、混合される効果を、特定の化合物に絞らない血液検査データから算出することで初めて、我々が晒されている人工的有機化合物の評価が可能であることを強調している。

以上が結果で、妊婦さんの血液データだけにインパクトは大きい。もともとEUでは産業排出物や、食品添加物に対する厳しい規制が存在するとされているが、それでもこれほど多くの人工的化合物が血中で検出されているのに驚く。今後は、混合効果のメカニズムを、神経細胞を支える分子の上にマッピングすることで、より正確な混合効果を計算できるようになるだろう。いずれにせよ、私たちの生活のあり方について一石を投じる研究であることは間違いない。

カテゴリ:論文ウォッチ