上皮の多様性の極みは何度も紹介した体中のタンパク質を発現できる胸腺上皮だと思うが、様々な臓器には、その機能を支えるべく多様な機能を発揮する上皮細胞が存在する。中でも免疫学から見たとき、腸上皮に埋め込まれた繊毛の束 (Tuft) を持つ Tuft 細胞は上皮とは思えない機能を有している。
まず、最も重要な機能は寄生虫などの外来病原体を感知して IL-25 を分泌する。このサイトカインは ILC2 と呼ばれる樹状細胞に働いて、2型アレルギー細胞を刺激する。しかも、2型アレルギー細胞から分泌される IL-4 や IL-13 は、Tuft 細胞に働いて増殖を誘導する。一方で、2型アレルギーは IgE 産生に関わり、マスト細胞を介して寄生虫除去に寄与する。このように、免疫システムを局所にとどめ、極めて巧妙な閉じた回路が Tuft 細胞と免疫系により形成されている。
今日紹介するユトレヒト大学、腸管幹細胞研究をリードしてきた Hans Clevers 研究室からの論文は、Tuft 細胞の分化と増殖を自由にコントロールする培養系を用いて、Tuft 細胞の知られざる幹細胞機能について明らかにした研究で、10月2日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Tuft cells act as regenerative stem cells in the human intestine(Tuft 細胞はヒト腸管の再生に関わる幹細胞として働いている)」だ。
この研究ではまず腸上皮細胞の single cell RNA sequencing 解析から Tuft 細胞の分子マーカー AVIL を特定し、腸上皮のオルガノイド培養を用いて、まず Tuft 細胞の分化に Wnt シグナルが必須であることを示し、Tuft 細胞が腸管幹細胞とともにクリプトに存在する理由を明らかにしている。
先に述べたように、Tuft 細胞は IL-4 / IL-13 シグナルで増殖することが知られているので、オルガノイド培養でこれを確かめるとともに、Tuft 細胞特異的表面マーカーとして KIT が使えることを発見する。そして、このマーカーを使って Tuft 細胞を分離し、IL-4 / IL-13 が Tuft 細胞に直接働いて増殖を誘導すること、そして Tuft 細胞が4種類のサブセットに分けることができることを示している。
免疫系から見ると、タイプ2 とタイプ4 の Tuft 細胞が重要で、タイプ2 細胞はプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質を合成して炎症調節に関わり、タイプ4 が免疫系の調節に関わることがわかる。また、それぞれのサブタイプへの分化に関わる転写因子も特定しており、T細胞が転写因子により様々なタイプに分かれるのと同じように、Tuft 細胞も多様化することで様々な機能に対応できている。
そしてこの研究のハイライトは、一個の Tuft 細胞から腸のオルガノイドを形成することができることを示したことだ。これは IL-4 / IL-13 非存在下でも可能で、Tuft 細胞が幹細胞として機能できることを示している。
最後に、オルガノイドを放射線照射で傷害する実験系で、IL-4 / IL-13 により Tuft 細胞の増殖を活性化することで、回復が高まることを示し、IL-4 / IL-13 が免疫系だけでなく、腸上皮の損傷治癒にも関わっていることを明らかにしている。そして、急速に腸上皮が発達する胎児期にも、Tuft 細胞が幹細胞の働きをして、本来の幹細胞を助けていることを明らかにしている。
以上が結果で、神経や免疫系とも近いTuft細胞の幹細胞としての正確を明らかにする重要な研究だ。